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伝奇世界の悪役令嬢※90年代からきました  作者: 海老
トミーおじさんの大召喚物語
64/116

小夜子の町にトミーがやって来た

構成変更により登場人物の名前を一部変更しました。

 トミーが駅前のパチンコ屋に入店して四時間が経過した。

 二時間経過時点ではパチンコ玉のレンタル代金に三万円を注ぎ込んだが、その後は色々あってパチンコ玉がもりもりと増えて、謎の景品と交換したところだ。


 パチンコ店により、玉を交換して貰える謎の景品は変わる。

 どうやってもプラケースが開けられない純金製のネックレスや、純金入りの文鎮、純金入りの櫛、など多岐に渡る。


 パチンコ屋に集う人々は謎の景品マニアであり、この奇妙な遊技場でしか手に入らない謎景品のコレクターでもある。

 コレクションには非常に金がかかるため、謎景品を古物商に売り渡して遊技代金の足しにするのだ。


 不思議なことに、パチンコ店の近隣には謎景品専門買取の古物商が存在するため、そこで買取を依頼する。

 高速で買取手続きが完了し、トミーの手には12万円が握られていた。


 とっぷり夜も更けて、時刻は二一時。

 姪には会いに行くとは言ったが、時間も日付も約束はしていない。


「んふふ、まあこんもんやな」


 十二枚の万札をポケットに入れて、タクシーを拾おうとしたその時、寿司屋を見つけてしまう。

 気がつけば、トミーの足は自然と寿司屋に吸い寄せられていた。


 暖簾をくぐると、店は()いていた。

 カウンターと座敷が一つきりの、情緒抜群な町の古い寿司屋だ。


「一人やけど、いける?」


「いらっしゃいせ。カウンターにどうぞ」


「お邪魔します」


 トミーは寿司が好きだ。

 特に、片田舎で海が近い町の寿司屋などに来ると、うきうきする。


「腹ァ空いてるんで、おまかせで頼みます。酒は、芋焼酎ロックで」


「あいよ、おまかせで。苦手なものはありますか」


「ありませんよ。光モノもなんでもイケるんで」


「あいよ、今日はいいのが入ってるんで、握りで始めさせて頂きます」


 寿司を待っている間、芋焼酎で喉を湿らせた。

 本当は日本酒を倒れるまで飲みたいが、健康診断の結果がよろしくなかったこともあって、最近は芋焼酎しか飲んでいない。


 白身から始まる大将のおまかせ。雑談を挟みながら食していく。


「関西の方ですか」


「ええ、今は東京ですけど産まれは西ですわ」


 トミーは京都生まれの大阪育ちである。そして、今は東京の隅っこで暮らしている。


「そうなんですか。あちらとは味付けが違うでしょう」


「いやあ、慣れるもんです。こっちはこっちで美味いモンがたくさんありますからねえ」


「そう言ってくれると嬉しいです」


 握りが進んで、濃い味が欲しいなという頃合い。大将は巻きを出してくれた。

 トロと沢庵を巻いたトロタクという巻き寿司で、関西ではあまり見られないものだ。


「ああ、これは醤油いらんやつですね」


「お好みで、つけるにしても少しだけがいいですよ。タクアンに塩気がありますんで」


「ん、これ、ええ味やなぁ」


 濃厚なトロの味わいに、黄色い沢庵の塩気がと食感が嬉しい。

 酒がすすむ味だ。

 するすると自然、酒を流し込む。


 箸休めにガリを取ろうとして、隣に座ったお客さんに肘が当たってしまう。


「おっと、すんません」


 いつの間にか隣の席にいたのは、大柄な白人の男性だった。掘りの深い顔立ちの男前だ。ゴツい顔の、アクションスターみたいな顔つきである。


「大丈夫ですよ」


 流暢な日本語と共に、にこりと微笑んだ白人男性と、そこからぽつりぽつりと話すようになる。


 白人男性はハデスと名乗った。

 仕事でこちらに来ているということである。

 せっかく日本に来たのだから、寿司を食べようと立ち寄ったのだと教えてくれた。


「アメリカとヨーロッパの日本料理店は味がイマイチやからねえ。こういう土地のお店に来はったんは、ええことですよ」


 謎の景品を売り払った金があるし、気が付くとトミーが酒を奢るこことになっていた。


「ああ、おれのことはトミーとでも呼んでえな。大将、ハデスさんに日本酒をお願いします。おれに付けといてください」


「おっと、悪いですよ」


「ええんですよ。これはご祝儀みたいなもんですわ。せっかくやし、今日は楽しんでって下さい」


 トミーは健康に気を遣うのを止めて、ハデスと共に酒杯を重ねていく。

 何やら気が合うというものか、すっかり打ち解けて寿司屋の代金はトミーが支払うことになった。


 腹もくちくなり、酔いも回ってお開きとなる。


「トミー、あなたに良き日がありますように」


「ハデスさん、あんたも良い日でな。しばらくこの町におるから、また飲もうや」


「私もしばらくいます。また、会いましょう」


 バテスと店先で別れて、トミーはタクシーに乗りこみ間宮屋敷へ向かう。

 ハデスはなかなか面白いヤツだった。あんないかめしい白人でも、奥さんが恋しいというのが実に面白い。


 田舎町の夜景は、点在する店の灯りがぽつぽつと。いやに眩しく、キラキラして見えた。

 深夜も開いているファミレスや、ガソリンスタンドも輝いて見える。


「ええ町やなあ」


 ぽつりと、トミーはつぶやいた。

 独り言にタクシー運転手は応えない。ルームミラー越しに、じろりとトミーを見やるだけだ。


 夜も更けた時間に間宮屋敷のインターフォンを鳴らすと、作務衣姿の若松が出迎える。


「おや、トミーさん。お久しぶりです。突然のご来訪ですね」


 驚いた若松だが、すぐに笑い顔になった。

 小学生時代にはトミーが保護者だった。小夜子と共にいた若松も知った仲である。


「ん、ああ小夜子ちゃんには来週くらいって言ってたんやけど、サプライズや。悪いな、飲みすぎてしもた。部屋ぁ貸してくれへんか」


「へい、どうぞ足元にお気をつけて」


 千鳥足のトミーが屋敷に入ると、玄関で小夜子が出迎える。


「アンクルトミーよ、来週でよいと言うたのに、もう来たんか」


「いやあ、暇やったんよ。久しぶりやなあ、全然姉貴に似てへんままや。それより、お土産な」


 寿司屋のお土産、定番の巻き寿司セット。


「おお、駅前の鶴屋(つるや)じゃな。しかも上巻(じょうまき)とは、良いのを引き当てよるわ」


 駅前の老舗、寿司の鶴屋。長く地元民に愛されている名店だ。

 握りも美味いが、巻き寿司が店の名物であった。特に、田舎風ながら出汁巻き玉子、桜でんぶ、焼き穴子、かんぴょう、沢庵、これらを巻いた上巻は常連に人気の一品だ。


「巻き寿司を食べたいと言うていた矢先に持ってくるとは、流石はトミーじゃ。ささ、そんな酔うては危ないからの。水でも用意するから、部屋の用意ができるまで待っておれ」


 居間に通すと、トミーは座布団を枕にして横になる。

 ミネラルウオーターのペットボトルを渡すと、半身を起こしてごくごくと飲み干していく。


「ああ、生き返るわ。なんで酒ってあんな飲んでまうんやろか」


「大人は大変じゃなあ。風呂は明日にして、今日は寝ておくれ」


「ああ、これならよう眠れるわ。いつもいつも悪いなあ」


「身内じゃからな。これくらいは遠慮せんでよい」


 客間の用意を終えた若松が戻ったので、小夜子はトミーを引き渡す。

 客間に辿りついたトミーは、すぐに布団に入っていった。目を瞑ればすぐに高鼾(たかいびき)である。


 若松が戻ると、小夜子と見つめ合ってから、どちらともなく笑ってしまった。


「はは、相変わらずのトミーさんですな」


「着替えも持たんと来るんがトミーらしいのう。カバン嫌いは相変わらずのようじゃ」


 夜も遅いのだが、土産の巻き寿司を二人で食べることになった。明日食べてもよいのだが、美味い内に食べたい。


 若松が用意したのは、緑茶と粉末パックのお吸い物である。

 巻き寿司を切り分けて、割りばしで食べることになった。


「いただきます」


「いただきます」


 二人でつまむ巻き寿司。


「んむ、やはり美味いものじゃ。この酢飯が良い塩梅じゃなァ。小学生の時も、トミーがよう土産を持って帰ってきおったものよ。ほれ、覚えておるか? そなたが初めて作ったカレーじゃ」


「お嬢様、そのお話はご勘弁ください」


 カレーくらい作れるだろうと、若松が初めて作ったカレーは食べれたものではなかった。当時の小夜子は文句を言いながらも、食材がもったいないと全て食べたのである。


「ほほほ、わらわは忘れておらぬぞ。その後にトミーが巻き寿司を土産に帰ってきてのう。あれほど美味い寿司はないと思うたほどじゃ」


「いやはや、アレで反省しやした。今は、食べて頂けるものを作れるようになりましたし、そのお話はご容赦ください」


 トミーは変な大人だ。

 魔道の実験台となった小夜子の母。その弟で、気ままに生きる風来坊。

 姉とは没交渉だったというのに、小夜子を引き取って保護者になってくれた。


「トミーのヤツめ、()けよったわ」


「相変わらずのようですが、もういいお年なんですねェ」


 小夜子には唯一の身内であり、若松も兄のように慕っているのがアンクルトミーだ。

 このまま風来坊というのは如何(いかが)なものか、という心配もある。


「のう若松よ。そなたの知り合いで、トミーに合いそうな熟女はおらぬか?」


「トミーさんは紹介しても嫌がられるでしょう」


「難しいものじゃ」


 恩義を感じているところもあり、トミーの生活費くらい出してやってもよい小夜子である。

 この町に越して来る際に、なんぞ店でもやったらどうだと水を向けてみたこともある。しかし、すげなく断られてしまった。

 曰く「自分で生きていくんがいいんや」ということである。


「久しぶりに来たんじゃし、なんぞ美味いものでも食わしてやるとしようぞ」


「そうですな。あっしも成長したとこを見せて差し上げますよ」


 思い出話と共に、巻き寿司を食べ終える。

 お吸い物をシメにして、ほうと小夜子は息をついた。


「うむ、今回こそは、トミーが妙なことをしでかさんことを祈ろうかの」


 若松は苦笑いで答えた。


 トミーは何の力も持たないただの中年男だ。

 小夜子が小学生時分から、トミーは妙なことに巻き込まれてけろりとして戻ってくることが、多々あった。ただの偶然で、妖魔の婚姻の仲人を務めるなど、トミーくらいのものだ。


 またぞろ妙なことになる予感は、両名とも感ずるところであった。


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