42.お出かけって鬼門かもしれません
外に出るとやたら会いたくないやつとエンカウントするのなんで?
こっちは久しぶりの、デートなのにぃ!!
辛い。辛すぎる。
学校行事の関連と3学期という日数の少ない学期のせいで本当に久しぶりに二人でのお出かけなのに勇樹くんと出会うの辛さしかない。バレンタインなのにぃ!!
「二菜、久しぶり!」
「……うん」
「どうしたんだ?さては、そこのやつに脅されて付き合っているのか!?」
「いや、勇樹くんに会ったせいでテンションだだ下がりなだけ」
そんな私の言葉を華麗に無視して終夜さんに絡みはじめた勇樹くんなんなの?そんなに私の邪魔して楽しいのか?
「二菜を利用して何をするつもりだ!なんとか言ったらどうなんだ妖怪!!」
得意げに妖怪なんて言葉を持ち出して、罵るような声音で言うお前こそ何がしたいんだって言いたい。
終夜さんはそもそもが違うけど、妖怪や怪異と交わった末の子孫へその言葉を向けるのって非常に失礼にあたるんだけれど…。そのものと一緒にされるのは嫌らしい。通常、彼らは隠れて出てこないので聞く機会はない。
妖人とも呼ばれるけれど、彼らが自らをどう呼称しているかはわからない。出てくる気もないだろうけど。というか存在自体知ってる人少ないし、私も朱音にちらっとそういう人もいるよっていうの教えてもらった程度だし。
終夜さんはそれに該当しない。
あと、人種的にはもっとやばい系の部類なので煽らないで帰って欲しい。上は見ないでねお願いだから。なんとか止めはするから。
「なんとか」
呆れたようにそう言った終夜さんは「行こうか」と腰を抱き寄せてきた。
「なんとか、たしかになんとか言ってる……」
そう頷くと、「ふざけるな!」と勇樹くんが叫ぶ。なんとか言えって言われて「なんとか」って言えば煽られている気持ちになるのはわからなくもない。ないけど、関わりたくないのでサクッと移動しちゃいたい。
「一応、訂正しておくと僕には妖怪と君たちが呼ぶ存在の血は入っていないよ」
「あんな力があるんだ、雪女の血が強いに決まっている!」
あんまり喚くので疲れてきた。
「というか、勇樹くん私に何か用なの?私はさっさとあなたに帰っていただきたいんだけど」
面倒なので用事がないかだけ尋ねる。
しつこい。用事がないにしては死ぬほどしつこい。その執念深さマジで恐怖に値するし、終夜さんいなかったら今頃私病院のところである。
そんなことを私が考えていると知ってか知らずか、勇樹くんは嬉しそうに笑った。殴りたい。
「俺に、剣をくれないか」
「剣は持ってません。終了!さ、行きましょうか」
「いや、持ってるだろ?おまえが自分の全てをかけて俺のために作った…」
「勇樹くんになんで私の全てをかけたもの作らないといけないの?欲しいものがあるなら一花ちゃんに頼んだらいい。私には関わらないで欲しい」
納得いかないような顔で私を見た後、終夜さんを憎々しげに睨みつける。
「何か勘違いしているようだから言ってあげるけど、二菜は君の事が嫌いだよ。好かれていると思ってさっきから発言しているなら不快だからやめてくれないか。彼女は僕の伴侶だ」
「え?いやぁ、流石にあれだけ怪我させてきた上に殺人未遂起こしといて好かれているとは思ってないでしょー」
そう言えば、真っ青な顔の勇樹くん。
えっ、嫌われていないと本気で思っていらっしゃった?
流石におめでたすぎません?
「で、でも少しくらいの情は……」
「死にかけた時に全部消えたよ、そんなもの。むしろ、今は私が人を殺してもいいと思うほどあなたたちに興味持ってないのを幸運に思って欲しい」
ドン引きしながらそう告げる。
ふと上を見上げると、やっぱりヤバめなものが目に入ったので終夜さんの服を軽く引いて、首を横に振った。残念そうにそれを消した彼に腕を絡めた。私も許されるならやりたいけど犯罪者になりたいわけでも犯罪者にしたいわけでもないので。
上空の氷柱は消そうね。ほんと。お願い。
「じゃ!私今からデートだからもう絶対に話しかけないでね!!」
一緒にカフェのリベンジをするのです!!それから良い感じの雰囲気になったらチョコを渡す!完璧!!
なんか、私、運が悪くっても終夜さんがいれば割と幸せな気がします。
「はぁ……あの男、絶対諦めてない気がするんだけど」
それは諦めて欲しい。
切実に。




