15.成長すると落ち着くって本当なんでしょうか
優奈とお昼ご飯を食べていると、無心で電卓を叩いていた藍川くんの手が止まった。そして頭を抱えて「もうダメだ……終わりだ……」と絶望し始めた。
「何が終わりなの?」
「姉貴が壊したらしい備品を弁償するとどう計算しても俺か姉貴が高校を辞めなきゃいけないくらい家に金がなくなる」
優奈が聞いた問い、それに答えた藍川くんの事情が恐ろしい。藍川くんの家名家じゃん。怖……。
藍川統子はそこまで何もかも壊すくらい脳筋なんだろうか。それとも私みたいに誰か怪我させて慰謝料云々だろうか。
「魔法科の高校を中退とか就職先見つからないし、爺共は姉貴贔屓だし首括るしかなくない?お袋には言うなとかふざけたこと言われてっけど、親父に泣きつくしかねぇ……」
「親に泣きついて済むことは泣きついておこう」
そう言うと、彼は青い顔で頷いた。
「さすがにもう我慢してられん。姉貴もいつもながら頭おかしいんじゃないか?なんでケロっと壊れたからなんとかしてって言えるんだ?」
「うちの一花ちゃんも頻度や物の差はあれど似たようなもんだよ」
「私の兄はそれを見てさすが小鳥遊様略してさすたかしてるだけだから平穏ね」
「それもそれで頭は痛むな」
「わかる?」
私たちはみんな上の兄姉に悩まされる下の子だった。
ちなみに彼は被害がそこそこ酷い。
まず姉の宿題はずっと彼が全てやってきたし、お詫び行脚も彼とお父さんがずっとやってきたし、気に食わないことがあると腕力にものをいわせてくる姉を説得するのも大体彼とお父さんだったらしい。結構な頻度で大怪我もしていたとか。
うちは宿題は自分でやってたし、その他は両親がなんとかしてきたからね。年々三月くんがクール&ドライになっていき、私にだけやたら過保護な弟になっただけの話である。
もう怪我が問題というか、運がもう少し悪かったら私この人生も終わってたみたいなことが数度あるので……。
というかなんやかんや年に数度、dead or aliveしてるからなんというか。三月くん、私にも「一花姉さんへの対応考えた方がいいよ」って言う。
別に際立って優しくはしてないんだが?
許してもいないんだが?
けど高等部行ってからなおのこと酷くなった気がするんだけど、何のために高校行ってるの?
力の使い方を学んで常識を持った魔法使いになるためじゃないの?
「大人になると落ち着くは絶対嘘だと思うんだよ俺。姉貴とか年々酷くなってるし」
「うちの兄も小鳥遊一花への信仰度が年々上がるわ。謎よ」
「うちの一花ちゃんは勇樹くんへの依存度増し増しだよ。怖い」
「千住勇樹マジで滅べって感じなんだが?」
「ほんとそれ。千住のせいで一時、兄が病みかけていたもの」
というか、別名「千住勇樹被害者の会」の可能性出てきた。私は勇樹くんより一花ちゃんから受ける被害の方が大き……いや、あんまり変わらないな。連名になるかどうかくらいの差だ。
虚な目でメールを製作し始める藍川くんを見ながらそんなことを考えていると、何か気配を感じて振り返る。
そこには非常に顔の美しい悪魔がいた。
「ちょうど会計を探してたんだけど、へぇ?藍川家の子にしては……」
何も聞かなかったことにしてもいいかな?微笑まれると条件反射で推しを全肯定女になってしまうので。




