第148話 がおー
無限の水差しによって、枯れかけていた湖に再びなみなみとした水が戻ってきた。
「本当に湖が復活したぞ!」
「これでこの街から出ていかなくても済む!」
住民たちが歓喜の声を上げる。
「皆様のお陰です。まさか死ぬまでに再び、この湖の姿を見ることができるとは……」
領主が涙ながらに礼を言ってくる。
「よかったね、領主様。それで、その水差しはどうするの?」
「これは……屋敷で大切に保管しておくことにします」
その言葉を聞いて、シルヴィアの憑依から解放されたミーナがピクリと耳を動かす。
「……ダメだよ?」
「な、何のことかしら? さーて、無事に依頼も達成したし、そろそろ街を出発しようかしらねー」
「もし盗んだりしたら憑依状態で湖に飛び込ませてみようかな?」
「殺す気っ!? し、しないから!」
「(……こっそりベイビースーラを服に忍び込ませて、監視してもらおう)」
念のためミーナを十分に脅しておいてから、リオンは領主の屋敷へ。
すると双子が元気そうに駆け寄ってきた。
「目が覚めたのか」
「「ん!」」
「もう大丈夫そうだな」
アルク
種族:虎人族
種族レベル:1
力:SS 耐久:SS 器用:SS 敏捷:SSS 魔力:SS 運:SS
状態:リオンの従魔
イリス
種族:虎人族
種族レベル:1
力:SS 耐久:SS 器用:SS 敏捷:SSS 魔力:SS 運:SS
状態:リオンの従魔
ステータスを鑑定してみると、二人の種族が「猫人族」から「虎人族」になっていた。
どうやら本当に進化したらしい。
「見た目は特に変わらないんだな」
「「ん」」
まだ子供だからで、大人になったら違いが生じてくるのかもしれない。
「「見て」」
「?」
「「こっち」」
二人はリオンの腕を引っ張り、屋敷の庭へ。
そこで並んで立った双子は、何やら精神を集中させるように深呼吸を繰り返し、
「「ん!」」
次の瞬間、二人の身体に異変が起こった。
全身から黄金色の毛が生え、顔つきも変化、さらには骨格も一回り大きくなっていく。
「これは……獣化か?」
やがてそこには、より虎に近い姿となった双子がいた。
虎に特有の縞模様もある。
アルク
種族:虎人族
種族レベル:1
力:SSS 耐久:SSS 器用:SSS 敏捷:SSS 魔力:SS 運:SS
状態:リオンの従魔 獣化
イリス
種族:虎人族
種族レベル:1
力:SSS 耐久:SSS 器用:SSS 敏捷:SSS 魔力:SS 運:SS
状態:リオンの従魔 獣化
先ほどよりステータスも上昇しているようだ。
「こ、これは……まさか、獣化でございますかっ?」
そんな二人の変化に驚きの声を上げたのは領主だった。
「今ではこれができる獣人は、獣人国にもほとんどいないと聞いております。なのに、こんな幼い子供たちが獣化するとは……」
大人になった獣人の中でも、ごく一部の選ばれた者だけに可能なのが獣化だ。
だが二人は進化したことで、あっさりとそれを習得してしまったらしい。
「「がおー」」
その野性味を示すように、牙を剥き出して威嚇の声を発する双子。
しかし怖さはまったくなく、むしろほっこりくる可愛らしさだ。
「ちょっと軽く動いてみたらどうだ」
「「ん」」
双子は少し距離を取り、互いに向かい合った。
獣化の影響か、いつもより前屈みに構えている。
そして二人同時に動き出し、激突した。
ズガガガガガガガガガッ!
暴力的なぶつかり合う音とともに、屋敷の庭に旋風が吹き荒れる。
ステータス上は敏捷値に変化がなかったが、どうやら獣化したことで大きく上昇したらしく、リオンの目でも容易には捉えられない速度で二人が動き回っているのだ。
「ひぇっ?」
領主がその場に尻餅を突いた。
戦いの余波で巻き起こった暴風で、屋敷がミシミシと音を上げている。
窓ガラスが割れそうだ。
「ストップストップ!」
リオンは慌てて二人を制止した。
「軽くって言っただろう。この狭い場所で全力を出すんじゃない」
「「……ん」」
双子は申し訳なさそうに頷きながら、元の姿へと戻った。
「「疲れる」」
短時間の運動だったが、双子の息が上がっていた。
どうやら獣化の維持にはかなりの体力がいるらしい。
実際、獣化ができる獣人も、滅多にそれを使うことはない。
身体への負担が大きく、彼らにとって獣化はここぞというときの奥義なのだった。
オアシスの街バールを出発したリオン一行は、過酷な砂漠を氷の船に乗って一気に踏破。
ついに砂漠が途切れたその先には、広大な草原地帯が広がっていた。
恐らくすでにここは獣人国ビルストの領内だろう。
「村だ」
土船に乗り換えたリオンたちの前方に、村らしきものが見えてきた。
防壁で囲まれた村の周辺には畑があって、村人たちが作業をしている。
「ピンと立った長い耳……兎人族か」
どうやら兎の獣人のようだ。
土船から降り、リオンたちは村へと歩いて近づいていく。
するとそのとき、村からゴーンゴーンという大きな音が響いてきた。
音に反応し、作業中だった獣人たちが慌てて村の方へと走っていった。
兎の獣人だけあって、飛び跳ねるような走り方で、なかなか速い。
畑にいた村人たちはあっという間にいなくなってしまった。
「何かあったのかのう?」
「大慌てでしたよね」
「ともかく行ってみよう」
村のすぐ近くまでやってくると、すぐに状況が分かった。
というのも、数匹の魔物の気配を感知したからだ。
少し防壁の周りを回って、魔物のところへ。
そこにいたのは、畑の作物を漁るゴブリンたちだった。
「くそぉっ! オラが丹精を込めて育てた作物を!」
「おい、やめろ! 死ぬぞ!」
「止めるんじゃねぇ!」
何やら騒がしいのは兎人族たちだ。
自分の畑を荒らされた村人が、鍬を手にして防壁の上から飛び降りようとしているのを、他の村人が必死に止めているようだった。





