第122話 食い物で釣られるほど単純ではないわ
「それで、リオンさんの屋台の出店場所ですが……」
どうやら出店場所は、出場者側には決める権利がないらしい。
しかしどんなところで店を構えるのかは、かなり重要な要素だ。
「あっ……」
「どうしたの?」
「だ、第五エリアです……」
「第五エリア?」
どうやら出店場所は、第一から第五までの全部で五か所あるようだ。
「第五エリアは街の最東部ですね……」
「何か問題でもあるの?」
明らかに歯切れが悪いので、リオンは突っ込んで聞いてみる。
「は、はい。第五エリアは街の最貧地区から非常に近い場所でして……」
「最貧地区?」
「貧民街、と言ってもいいかもしれません。ですので、観光客もあまり寄り付かず、どうしても売り上げが伸びにくいエリアなんです」
さらに貧民街周辺もそれほど裕福な一帯ではなく、それゆえそもそもお金を落としていく人間自体が少ないというのだ。
そんな大きなハンデもあって、第五エリアからは今まで一人も優勝者が出たことがなく、入賞者でも数えるほどしかいないという。
「……初出場で実績がない方ですと、第五エリアに回されてしまうことが多いんです。で、でも、気を落とさないでください。今回頑張れば、次回からはもっといいエリアで出店することができるようになるかもしれませんから!」
そんなふうに励まされながら、本選出場に必要なガイダンスを受け終えたリオンは、ひとまずその第五エリアに足を運んでみることにした。
「なるほど、確かにあまり裕福な地域じゃなさそうだな」
東に行けば行くほど、段々と建物や行き交う人の身なりがみすぼらしくなっていく。
一見すると大いに栄えているバルバラであるが、やはり格差からは逃れられないのだろう。
それでもまだこの辺りはちゃんと家に住んでいる人が多いようで、浮浪者はあまり見かけない。
百年前には魔王軍の侵略により村を失った人が沢山いて、都市周辺に簡易なテントがずらりと並んでいたことを思えば、遥かにマシではあるだろう。
「ここか」
第五エリアとされる会場は広場だった。
すでに大会運営による屋台の設営が始まっており、お祭りめいた雰囲気が漂い始めている。
それなりに整備されているようで、思っていたよりは小奇麗な印象だ。
「まぁ場所については嘆いても仕方ないし、やれるだけのことをやろう」
予選試験を突破したコメカレーは、確かに今までにない組み合わせで、真新しさやインパクトがある。
だがリオンはそれにさらなる改良を加えるつもりだった。
加えて、
「屋台だし、お好みでトッピングができるようにしたいな。そうしたら、一度来た客が、今度は別の種類も食べたいと思ってリピートしてくれるかもしれない」
あっという間にグルメ大会当日がやってきた。
今回の大会参加店数は、なんと二百にのぼるという。
そのうちリオンのいる第五エリアには、全部で四十の出店があり、広場を取り囲むような形で各屋台が配置されている。
販売開始はどのエリアも共通で、朝の十時からだ。
すでに仕込みを完璧に終えたリオンは、そのときを静かに待っていた。
「二人とも準備はいいか?」
「「ん!」」
売り子役の双子は気合十分だ。
頑張ったらご褒美にカレーをたらふく食わせてやると、約束したからである。
二人には可愛らしいフリルの付いたメイド服を着せていた。
最近この格好がバルバラの飲食店の制服として流行っているらしく、それに乗っかった形だった。
幼い双子がこれで一生懸命に売り子をしていれば、つい誘い込まれてしまう客も少なからずいそうである。
「何でわらわまでやらねばならぬのじゃ!」
抗議してくるのは同じ格好をしたメルテラだ。
「どうせ暇だろ? お前にも後でカレー食わせてやるから」
「わ、わらわはどこぞの双子と違って、食い物で釣られるほど単純ではないわ! じゅるり」
そんなことを言いながらも、メルテラは涎を垂らしそうになっている。
「私も可愛い服着たいです~っ」
羨ましそうに言うシルヴィア。
一応、念力的なものを使えば、着ているように見える状態にできなくもないのだが、リオン以外からすれば服が空中に浮かんでいるようにしか見えない。
そうこうしている内に、販売開始時間となっていた。
「……あんまり人がいないな」
あちこちから料理のいい匂いが漂ってきたが、会場となる広場には、まだちらほらと人がいる程度。
人気店であれば、開始前からすでに行列ができているところもあるそうだが、ここ第五エリアはやはり不人気エリアだけあって、行列ができている店は一つもない。
開始から十分が経っても、まだまったく客が来ていない屋台もある。
リオンのところもそうだった。
ようやく最初の客が来たときには、開始からすでにニ十分が経過していた。
四十歳ぐらいの中年男性だ。
「いらっしゃい」
「こんな子供がやっているのか?」
「うん。だけど味には自信があるよ」
「これは……カレー? 確かに美味そうな匂いだ。よし、それじゃあ一皿もらおうかな」
「まいどー」
リオンはコメをよそい、そこへカレーをたっぷりとかけた。
「えっ? パンに付けて食べるんじゃないのかい?」
「うん、コメにかけてスプーンで食べるんだ。美味しいよ」
「斬新な食べ方だな……。でもこれなら手を汚す心配はないかもしれない」
「そうなんだ」
パンをカレーに付けるスタイルは、こうした屋台で売るのにあまり適していない。
パンだと手掴みしないといけないし、カレー用にパン用と二皿必要になる。
それがこのコメカレーなら、スプーンで食べることができ、しかもお皿は一つで十分なのだ。
「どれどれ……」
一口食べるなり、男性は目を見開いた。
「~~~~っ!? う、う、美味いっ!?」
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