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第121話 脳天を突き抜けていく

 リオンが作った創作料理は、カレーとコメを組み合わせたものだった。

 炊き立てのコメを皿に敷き詰め、そこへ肉や野菜をしっかりと煮込んだカレーを豪快に流し込んでいる。


「確かに斬新な組み合わせだ……」

「匂いだけで涎が出てくる……」


 他の参加者たちも、リオンの料理に対する審査員の評価が気になるのか、いつの間にか集まってきていた。

 緊張感が高まる中、審査員たちの実食が始まる。


「で、では、いただこうか」


 審査員たちはごくりと生唾を飲み込んでから、スプーンでコメとカレーを一緒に口に運んだ。


「「「~~~~~~~~っ!?」」」


 一斉に目を見開く。


「う、美味い!? なんて美味さだ!? 口に入れた瞬間、多種多様なスパイスの刺激が一気に味覚を支配し、脳天を突き抜けていく!」

「確かに、これはコメと合う! 辛みの強いスパイスの刺激を、このコメの甘さが絶妙にマイルドにしてくれているんだ!」

「しかも粒状であるがゆえに、液状のカレーと見事に絡み合っているぞ! なるほど、非常に合理的な組み合わせだ!」


 大絶賛である。


 すでに何食も審査のために食べてきたというのに、審査員たちのスプーンが止まらない。

 食欲増進効果のあるスパイスが、彼らの手を止めさせないのだ。


 気づけば三人とも完食してしまっていた。


「美味かった……。いや、美味いだけではない。カレーと言えば、パンに付けるもの――その固定観念を見事に覆す革命的な逸品だ」

「賭けてもいい。この料理は新たなカレー料理として、バルバラの新名物になるだろう」

「まさかこんな少年が……」


 そのあまりの絶賛ぶりに、リオンはちょっと不安になってきた。


(あれ? もしかして【食帝】まで取得したのはやり過ぎだったか……? まぁでも、ただの料理だし、大丈夫だろう)


 と、そこへ他の参加者たちが殺到してくる。


「お、俺にも食べさせてくれ!」

「私も!」

「少しでいいから!」


 一流の料理人を目指す彼らにとって、審査員から絶賛されたリオンの料理が気になるのは当然のことだろう。


「いいけど……まだ余ってるし」

「「「では私も!」」」

審査員あんたらはもう食べただろ! まだ食べてない俺たちが優先だ!」


 そんな少々見苦しい争いもありつつ、いつの間にか予選試験が、リオンの料理の試食会へと変貌を遂げてしまったのだった。







 翌日、リオンは再び飲食店ギルドを訪れていた。

 試験の結果発表を見るためである。


 出場者の人数が多く、審査のためには少し時間が必要だということで、発表は当日ではなく、翌日になっているのだ。

 恐らく大半の出場者が、昨晩はロクに眠れなかったことだろう。


 合格者の番号は掲示板に張り出されていた。

 リオンの受験者番号は58番である。


 すでに結果を知ったらしい多くの出場者が、掲示板の前で落胆している。

 どうやらほとんどが不合格らしい。


 それもそのはず。

 今回の予選試験には六十人ほどが参加していたが、張り出されている番号はたったの六つしかないのだ。

 合格率はたったの十パーセントである。


 数が少ないので一瞬で合否が分かった。


「58番、あるな」


 どうにか狭き門を突破し、グルメ大会本選への出場権を獲得できたようだ。


「「りおん、ごーかく?」」

「ああ、合格」

「「おおー」」


 大会に出場すると、たくさん料理を食べることができるとでも思っているのか、嬉しそうに手を叩く双子。

 残念ながら大会中、二人には食べる側ではなく、売り子や呼び込みを担当してもらう予定である。


 合格したことを確認したリオンは、先日の窓口へと向かう。

 どうやらリオンのことを覚えてくれていたらしく、


「あっ、この間の……。あのときも言いましたけれど、一回の失敗で諦めてはダメですよ。まだ若いですし、これからもっと勉強してまたチャレンジを――」


 どうもリオンが不合格になったと思っているようだ。


「合格したよ?」

「え? 合格?」

「うん。58番」

「58番……ほ、本当ですっ!? まさかこの歳でグルメ大会本選に出るなんて……」


 驚きつつも、本選に向けて必要事項を教えてくれた。


「まず、出場者の皆さんには一定金額の補助が出ます。こちらは後でお渡しいたしますね。それから大会は売り上げで競われますが、使用できる経費には限度額があります。また、一定以上の利益が出るような販売金額を設定しなければなりません。そのため、あらかじめ必要経費と販売金額を登録していただくことになっています。後から虚偽が判明した場合、失格となることもありますのでご注意ください」


 そこでふとリオンは疑問を覚えた。


「自分で食材を調達してくる場合はどうなるの? 例えば、狩った魔物の肉を使うとか」

「そ、それは危険ですので、ぜひやめてください。もちろん、本当に腕に自信があって、自ら魔物を狩ってきたというのなら経費にはなりませんが……冒険者などを雇って仕入れたのであればその依頼料が経費となりますね。知り合いの冒険者からタダで譲ってもらった……などという場合は要相談です。当然、脅迫などによる調達はダメです。バルバラの法律に触れるようなことをした場合は失格となりますので」

「なるほど」


 これならかなり経費を安く抑えられそうだなと、リオンは心の中で頷くのだった。


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