987 星暦557年 桃の月 12日 家族(?)サービス期間(11)
昨日の森の散策は迷いの森の3分の1程度しか回れなかった。幾つか何やら魔術回路っぽい物が組み込まれた樹があったものの、長い年月の間に破損したのか効果はイマイチ読み取れない物ばかりだった。
まだ年末まで日数があるから、残りを回る時に何か実用的な発見がある事に乞うご期待ってやつだな。
やはり森全体の守りの為の結界と、その他の日常用(多分?)の術とでは維持保存の為の念の入り方が違ったらしい。
それでも一応視えた形は紙に書き出して、どこにあったのかの記録と一緒にシェイラに渡しておいたので他の部分も回って見つかった術の残骸と合わせたら何か分かるかも知れない。
それに、術の残骸があった樹の根本付近も発掘候補地として有力だとシェイラが喜んでいたし。
とは言え、まだ中央広場付近の発掘だって全然終わっていないのだ。
それこそ他の部分の発掘まで手が届くのは何十年先のことになるやらという気がする。
まあ、何十年程度だったらまだシェイラが現役で発掘現場で頑張っている可能性もあるが。
同じ遺跡で只管掘り起こすのって飽きないのかな?
別の遺跡に10年ごと位に鞍替えするのとずっと同じ現場で働くのと、どっちが楽しいのだろうか。
ある意味、ここの方が転移門のあるヴァルージャの傍だから気軽に遊びに来れるからありがたいけどな。
ハラファ達のいるオーバスタ神殿文明の遺跡はもっと不便だから空滑機改でも使わないと通えないし、時間的にはヴァルージャに来るよりもずっと時間が掛かる。
しかも宿泊場所がテントか、防音とかが全然なっていない狭いスペースにある物置のような場所かなのでどちらも微妙だ。
防音結界用の魔具を持って行くことも出来るが・・・やはり薄板(テントなら薄布)一枚の向こうに人がいると思うとイマイチ落ち着かないしなぁ。
うん、少なくともオーバスタ神殿文明の遺跡の担当になるよりは、シェイラに何十年でもずっとここで作業してもらう方が俺的には嬉しいかな。
それはさておき。
今日は午前中のバタバタした作業の後に、煩いツァレスとかが居なくなったのを確認してから広場のちょっと外れの方に来てシェイラとしゃがみ込んでいた。
大地の精霊に質問するにしても、他の皆からガンガン声を掛けられていたら落ち着いて質問すら出来ないからな。
まあ、精霊からそれ程役に立つ情報が手に入るとは思っていないけど。
「じゃあ、清早。
誰かここ等辺の維持に手を貸している精霊にちょっと声を掛けて貰えるかな?」
清早に頼む。
風や水の精霊ってふらふら宙に浮ていたり水の中を動き回っているから視かけやすいんだが、大地の精霊って案外とノンビリ土の中で眠っているのか、出てこないことが多いんだよなぁ。
こないだレディ・トレンティスのところで畑を耕したり世話をしているところについて行って色々と話を聞いていた時にはちょくちょく出て来ていたんで、土を耕すとかしていると交流しやすいのかもだが・・・俺には向いてないからね。
庭で成分分析の魔具と作物を育てる効率の実験していた時には出てこなかったし。
やっぱ『実験』という考え方で土を弄っていてもあまり精霊にとって好ましいとか一緒に遊びたくなるとか言うような行動じゃあないんだろうなぁ。
『おう!』
すぽん!と清早が土の中に潜ったと思ったら、殆ど待たずに出てきた。
一緒に別の精霊を連れ添っている。
「やあ、こんにちわ。お邪魔しているね。
ここに昔住んでいた人の事を教えて貰いたいんだけど、良いかな?」
そっと精霊に声を掛ける。
大地の精霊ってことでそれこそ土竜のアスカと似たような性格だったら、案外とお人好しでおっとりしているんじゃないかと思うけどね。
どうだろ?
『やあ。
久しぶりだね』
のんびりと精霊が応じた。
あ~。
やっぱ昔の人たちと俺たちが違う存在だとは考えてないっぽいなぁ。
まあ、少なくとも昔の人たちの住処とか墓地とかを掘り返していても『何をするか!!』って怒り狂って攻撃してきたりしなそうだからそこは喜ぶべきかも?
「俺はウィル。清早に加護を貰って親しくして貰っている人間なんだ。
こちらはシェイラ。
俺の大切な人だ。
ここの地では暫く人が居なくなっていたと思うんだが、シェイラはその人たちがどんな暮らしをしていたのかとか、どうして居なくなったのかとかを調べようとしているんだけど、構わないかな?」
遺跡で残っている物ってほとんどが土の中に埋もれている物だからなぁ。
過去を探るために掘り起こされるのを不快に思われていたらヤバい。
『う~ん?
ここ等辺に足首以上の高さに草が生えない様にして~って昔の友達だった子に頼まれて気を付けていたけど、あの子が居なくなってから暫くして、だんだんここから出ていく子が増えていつの間にか居なくなった気がしたなぁ。
人が居なくなっても暫くの間は時々戻ってきて色々整備している子もいたんだけどね~。
久しぶりにそう言うのが戻ってきていたのかと思っていたけど、違ったのか。
まあ、親しかった子の家族とかを殺して奪っている訳じゃないし、別に調べるのは良いんじゃない?』
大地の精霊がのんびりと応じる。
おや。
殺して荒らすのは許さないのか。
「ここにいた人たちを殺そうと襲ってくるような存在もいたのかしら?」
シェイラがぐいっと身を乗り出して尋ねる。
思っていたよりも色々と聞けそうかな?




