984 星暦557年 桃の月 11日 家族(?)サービス期間(8)
「ちなみに嫌がられるなら無理しないで良いんだけど、この泉にいるここ等辺の整備を頼まれた精霊と話せたりするかな?」
昼食を食べ終わり散策に出ようと立ちあがろうとしたが、その前にふと清早に尋ねてみた。
どんな情報が貰えるかはかなり怪しいが、少なくとも何を知っているか確認しても良いだろう。
『大丈夫じゃない?
おお~い、■■■■■!』
何やら聞き取れない名称を清早が泉に向けて呼びかけた。
あれ?
初めて清早に会った時でも名前を聞き取れたけど、あれって清早から自己紹介的に言われたからだったのかな?
それともここの精霊の名称が特異なのか。
まあ、どうでも良いっちゃあ良いんだが。
『なあにぃ~?』
ふわっと水の一部が持ち上がり、水の精霊が姿を現した。
中々大きいな。
中位精霊ぐらいだろう。
『これ、俺と仲良くしているウィルって言うんだ。
そっちはウィルの仲良しさんのシェイラね。
この森に昔住んでいた人間の事をちょっと教えて貰えたらって話を聞きたいんだって』
清早が泉の精霊に声を掛ける。
『ああ、ここに遊びに来ていた人たち~?
言われてみたら、最近来てない気がするわねぇ。
あっちの方に居るんじゃないの?
暫く静かだったと思ったら、最近また賑やかになっているから戻っていると思うわよ~』
ゆったりと精霊が答えてくれた。
「あ~。
最近あそこに来たのは俺の知り合い達だな。
あれはこのテーブルとか椅子がある辺の整備を頼んだ人たちとは違う集団なんだ。
前に居た人たちってどうなったのか知らないか?」
フォラスタ文明の民とシェイラ達発掘隊を同じ『人間』と見做している段階であまり期待は出来ない気がするが。
『あら。
違う人たちなの?
そう言えば、集落に今いる人たちって大人ばかりで子供がいないわね~。
前に居た人たちも子供が少なくなっていた気はするけど、元々ここに遊びに来る人たちもそんなに多くなかったからねぇ。
ここを気に入っていた子が眠りについちゃってからは定期的に来る人っていなかったから、集落の人が入れ替わっていたのに気付かなかったわ~』
のほほんと泉の精霊が言った。
そっかぁ。
確かに、街の中で暮らしていたら時折森の中の泉とかに散歩に来たくなるだろうが、元々森の中で暮らしているなら別に態々泉の方へピクニックに来なくてもそこら辺中が静かな森の恵みに囲まれているんだよな。
となると、この泉でピクニックをするのが好きだったのはちょっと変わり者だったか、ここに何か思い入れがあったかなんだろう。
そんでもってそいつが死んじゃった後は定期的にここに来て精霊と話をするようなのもいなかったから、集落が消えた際のお知らせも受けていないのかな?
「あらま。
でもまあ、子供が減っていたって言うのは事実っぽいからやはり自然に集落の住民が減って離散していったのかしら?」
ちょっと残念そうにため息を吐きながらシェイラが言った。
「なんだったら後で広場の方に戻った際に、あそこ等辺の地面の整備を続けてくれているっぽい土の精霊に話を聞いてみようぜ。
もしかしたらもう少し何か覚えているかもだから。
そんじゃあ、呼びかけに応じて出て来てくれてありがとうな。
これから森に立ち入る人が増えると思うが、ここ等辺でやられたら嫌なこととかあるなら気を付けるけど、何かあるか?」
泉の精霊に尋ねる。
まあ、本当に嫌だったら精霊の方で人間を追い払うだろうけど。精霊と衝突する前に不快感を与えるようなことを避けておく方が無難だろう。
『そうねぇ。
泉に変な物を投げ込まないでくれると嬉しいわ~。
そう言えば昔も聞かれた気がするけど、中で泳ぐのは構わないわよ?』
精霊が答えた。
へぇぇ、中で泳ぐのも大丈夫なのか。
夏にちょっと涼むのに良いかも?
「どうもありがとう、泉の精霊さん、清早も」
シェイラも礼を言いながら周囲を見回してゴミが落ちていないのを確認する。
考えてみたら、発掘現場の方でも土の精霊に何を不快に感じるのかを確認しておく方が良いかもな。
別に今まで何か起きたとか苦情を伝えられたとか言ったことは無いから特に気になることは無いんだろうとは思うが。
「そんじゃあ森の中を散策しようか!」
街歩きだったら手を繋いで歩いても良いんだが、森の中だと下手に手を繋いでいると足元の何かに躓いた際にバランスを取りにくいんだよなぁ。
しかもシェイラの方が森に慣れているせいか、俺の方が転ぶことが多いし。
暫くこちらで過ごすのだ。森歩きにも慣れないとな。
取り敢えず今日は、色々周囲を確認する為にゆっくり歩こうと提案しておこう。
何かに襲われればウィルが活躍出来るかもですが、ただ散策する際は転んだり歩みが遅かったりでちょっと立場の弱いウィルでしたw




