981 星暦557年 桃の月 11日 家族(?)サービス期間(5)
宿のおかみさんにシェイラが頼んで作って貰ったランチは中々美味しかった。
水筒に入っていたお茶を少し魔術で温めたら体も暖まったし。
「ピクニック用に食材を温める台みたいのがあったら便利かもしれないけど・・・寒い時にはあまりピクニックには行かないか」
温かい時期だったら温めるよりも悪くならない様に冷ます方へ需要がありそうだし。
「まあねぇ。
温かいお茶さえあればサンドイッチとちょっとしたおかず程度だったらそのままで平気かな。
お茶を温めるとか温めたまま運べる道具があったら便利かも?」
シェイラがサンドイッチを包んでいた布を畳んでバスケットに戻しながら応じた。
ふむ。
書斎や執務室での湯沸かし器はあるが、ピクニックとか用のは無いな。
ピクニックではなくても馬車の御者とか行商人にとっても冬場は暖かい飲み物があったら嬉しいだろう。
湯沸かし器本体は大きすぎるが、ちょっと保温性が高い素材の水筒の底に熱を出す仕組みを付ければ大した値段じゃなくても作れそうだ。
もっとも、誰にでも出来る簡単な仕組みだから特許申請しても却下されるだろうなぁ。
・・・でもまあ、便利そうだからシェフィート商会にアレク経由で提案してみるか。
既に存在するかも知れないし。
無くって商会の方でも作る気がなさげだったらシェイラ用に試作品を造るだけでも良いし。
水筒の保温用程度の魔石だったらシェイラが夜中に充填できるんじゃないかな?
ついでに熱を吸収する魔術回路にもなるようにスイッチでも付けて、夏は飲み物を冷やす形にしたら更に喜ばれるかも。
今度暇な時にでも造ってみよう。
それはさておき。
昼食を食べ終わり、まったりとお茶を飲みながら周囲を心眼で見回す。
まずはこの切り株かな。
どんな保護手段を講じられているんだろうか。
じっくり地中の中まで視ていくか、魔石がはめ込まれている様子はない。
と言うか。
良く視たら、これって切り株じゃないじゃん。
根っこが無い。
単に円筒形の物体が地面に埋め込まれているだけだった。
これってマジでピクニック用のテーブルと椅子だったんか。
魔術回路も特に見当たらないし・・・余程経年劣化や虫やキノコに対して強い素材なのだろうか。
確かにちょっと魔力が籠っている感じはするが・・・まるで普通の切り株みたいな手触りなんだけどな。
「なあ、この切り株っぽいのの角でもちょっと削って持って帰っても良いか?
なんかこれ、普通の切り株じゃないっぽいんだよね。
もしかしたらフォラスタ文明の頃から残されてそのままの状態を維持しているのかも知れない素材だから、ちょっと成分とかを調べてみたいんだけど」
シェイラに尋ねる。
成分分析用魔具ってこちらがあたりを付けた素材がテスト対象にどの程度は含まれているかを調べる魔具だから未知の素材の分析には使えないんだけど、木材とか砂とかそこら辺の岩とかと比べてそう言うのを使っているかだけは確認できる・・・かも?
「そっか、人避けが効いていて誰も森に入って木を切り倒していないってことは、この切り株もフォラスタ文明の時から残っているってことなのね。
う~ん。
どうやって状態を維持しているのか是非とも知りたいけど、考古学的遺産を削りだしちゃうのも・・・。
ちなみに、削っても残りの部分に影響はないかどうか、分かる?」
シェイラが悩まし気にテーブルに使っている切り株モドキを撫で回す。
「どうやってこの状態が維持されているのかも分からないから、削った影響に関しては何とも言えないな。
成分が何から出来ているかを解明できるかも不明だし、素材が分かったところで加工方法が分からなければ再現できない可能性も高いから、保証は何も出来ない」
そこら辺に転がっている切り株っぽい見た目だからつい気軽に聞いてみたが、考えてみたら古代(多分)の遺跡の一部とも言えるんだ。
削って持って行くのは不味いか。
「じゃあ駄目ね。
まあ、もしもこの森全体が一般公開されるようになったら誰かが悪戯とかするかも知れないから、その前にちょ~っとだけ削るのはありかもだけど」
ちょっと残念そうに切り株もどきを撫で回しながらシェイラが言った。
『どこかの切り株を維持したいのか?
適当に傍にいる精霊に頼めば、なんとかなるぞ?』
ひょいっと清早が出てきて言った。
「え??」
『まあ、風の奴に頼んでも直ぐにどっかに行っちゃうだろうけど、ここみたいに泉の傍だったら水精霊に頼んでおけばよっぽど環境が変わらない限り移動しないし、大丈夫だよ』
清早が付け加える。
え、マジ??
精霊って状態維持も出来るんだ??
しかも泉とかの精霊に頼むと数百年とか単位でやってくれるの??
薬や毒や術ではなく、自然の力の結晶に頼んだ結果でした〜。
どうやって遺跡の元の住民が頼んだのかは不明だけど




