974 星暦557年 橙の月 30日 次は?(9)
「へぇぇ、離れても動かせるオモチャねぇ。
どうせだったらこう、ボタンを押したら決まった場所に動いてくれる配達台車みたいのは出来ないの?」
競馬フィールドと馬付き台車2台だけ持って来てシェイラに見せたら、遊ぶ方よりも実用的な利用法の方に興味が言ったようだった。
やっぱ、こういう『物を動かすの』って女性より男の方が好きだよなぁ。
シャルロの兄貴や甥っ子は凄い食らいつきだったらしい。
とは言え、絶対に年初までは友達や知り合いにも見せても話もしちゃ駄目だよ!!と言い聞かせた上に毎回回収して持って帰ってきているようだが。
流石にシャルロも毒探知・・・じゃない、過敏体質安全用魔具の製造の騒動の繰り返しは避けたいらしい。
まあ、今回は甥と兄貴や父親が楽しんだだけで、女性陣は微笑まし気に見ているだけだったらしいから怖い圧力の心配はしなくて済みそうだが。
「村の中の決まったルートを動くだけな程度でもかなりの魔力を食うし、風に吹かれたり誰かに悪戯で動かされたりしたら見当違いな場所で曲がったりしそうだから、現実的じゃあないな。
しかも高くなりすぎるから適当に近所のガキかご隠居さんにお小遣いを渡して頼む方が確実だし安いぞ?」
それこそ、鉱山の中でのトロッコの様な物を動かす魔具を造るのは可能かも知れないが・・・費用効果を考えると鉱山の中のような重い上に比較的金に成る物を決まったルートで動かす必要がある場合とかじゃないと魔具を造る意味は無いだろう。
鉱山でさえ、安定的な産出量が確実なところ以外は人手でやるところが多いのだ。
いかに人力というのが魔具よりも安上がりで使い勝手が良いか、分かる。
空を飛ぶとか毒を探知するとか肌を綺麗にするとか言ったような、普通にそこら辺で雇える労働者では出来ない作業以外だったら魔具を使うより人間を使う方が基本的に安上りなのだ。
まあ、絨毯清掃の魔具は金持ちの屋敷とか専門の清掃業者にある程度は売れている様だが。
一歩進んだ便利な道具は売れるが、ガッツリ人を不要にする程便利にしようとすると高くつき過ぎる事が多いって感じかな?
「う~ん、屋敷の中の書類配達とか、食材の運び込みとかだったら同じルートだし、良さげな気もするけど、魔具を買って日常的に使えるような屋敷だったら下働きが居るからそっちにやらせる方が現実的か・・・。
発掘現場で昼食を離れたメンバーに届けたりするのに使えたら便利なんだけどね~」
シェイラがぐりぐりと制御球を動かしながら呟く。
いやいやいや。発掘チームは金が無いだろう!
俺が試作品を渡しても、魔石が切れちまった後はどうしようもないだろうし、下手をしたら予算水増し用に試作品を『うっかり』売られそうで怖い。
「一応通信機は何人か持っているんだろ?
そいつらを呼び出せばいいじゃないか。
というか、腹が減ったら自分で中央テントに来るだろ?」
ガキじゃないんだ。
そこら辺は自己管理して貰わないと。
「夢中になると倒れるまで人にも話さずに只管発掘するのが学者バカだからね~。
何を見つけたのかとか何を掘っているのかとかを随時確認しつつ、倒れない様に食糧を口に突っ込まないと色々と面倒な事態になりかねないのよ」
肩を竦めつつシェイラが言った。
一番若いシェイラがマジで母親役だな。
まあ、母親のごとき管理者が必要だからこそ、一番若い女性であるシェイラが発掘団責任者のツァレスの右腕のような役割で働けるんだろうが。
歴史学会の人間は熱意と実務能力のバランスが取れた人間が少なそうだからなぁ。
そのうちシェイラもどこかの遺跡発掘団の責任者になれるのだろうか?
下手をすると皆の面倒を見ることが多くなりすぎて、却って発掘作業が出来なくなりそうだが。
「こう・・・固定型通信機みたいに映像を伝えられる魔具を付けて、ちょっと危険かも知れない穴の中とか発掘中の遺跡の中を潜入させられる魔具を造れない?
遺跡っぽい場所って下手をすると天井が落ちてきたりするから、中々奥へ入れないのよねぇ。
せめて何があるのかが分かれば、そこの天井や壁を補強するだけの手間をかける価値があるか分かって助かるんだけど」
シェイラが更に提案してきた。
「確かに落盤するかも知れない穴の中とかに魔具を先に入れてどんな様子か調べさせるのは便利かもしれないが・・・遠隔で映像まで見える様にするのは無理じゃないかな。
まだ映像を記録させて戻ってきた後に確認するのならある程度は出来るが、中がどうなっているのか見えなければ動かせないだろうし」
それこそ、平らな場所をまっすぐ進んで帰って来るだけだったら王太子の結婚式の際に使ったような映像用魔具の様なのと照明用魔具を載せて穴の中の映像を記録してくるのは可能だが、まっすぐ直線な穴が続いている場所なんてそうそうないだろう。
障害物があったらそれにぶつかって倒れるか、方向がずれるのだ。
障害物が無いスッキリ綺麗な発掘現場なんぞほぼ無いだろう。
そう考えると、何かにぶつかったらそのまま戻ってくるとでもしない限り、穴の中に入れた魔具がほぼ全て行方不明になりかねない。
どう考えても、現実的じゃあないな。
「う~ん、そうねぇ。
落盤しそうな危険なところでどうしても作業がしたかったら、そこは後回しにしてウィルが来るまで待ってからアスカに頼む方が現実的かも?
高額な魔具を買うぐらいだったら発掘人員をもう一人雇うのに使っちゃうだろうし」
シェイラがため息を吐きながら言った。
発掘要員に数えられるのはちょっと微妙だが・・・確かに落盤しそうなところへシェイラが潜るかもと考えたら、遊びに来たついでだったらアスカを呼び出して手伝うことになるんだろうなぁ。
今迄殆どそう言う事は頼まれていないが。
何かこう、地下の地形とかが分かる魔具を造れたら便利そうだが・・・秘密通路とかの場所を見つけるのに使えそうだから、造っちまったらまた色々と問題になりそうだからと売れなくなりそうだ。
ウィルは、アイディアがあっても取り掛かる前に売れるか考える様になった!




