969 星暦557年 橙の月 22日 次は?(4)
「馬のオモチャを造って馬車を引かせるより、馬を単体で動かす方が良くないか?
馬車の重みがあると動きが鈍くなるし必要な魔力も増える」
取り敢えず、4本足の馬と馬車のオモチャの形を作ってみた。
ちなみに馬は足で動くのではなく、車輪のついた台に乗せているだけだ。
馬車にせよ、馬を乗せた台にせよ、車輪を魔力で回るようにすれば魔具にはなる。
手で動かすオモチャは現時点でもあるが、手で動かさなくても魔力で動くとなると、ちょっと新しい・・・筈。
「だが、単に馬が台に乗って動くだけだったら却って動きが単調で、手で動かすよりも寧ろ面白くないぞ?」
アレクが指摘した。
「確かにね~。
手で動かすんだったら右に回ったり左に回ったり、色々と出来るもん。
何人かで競争みたいな感じにも動かせるし。
ただ単に真っすぐ動くだけって微妙~」
シャルロが合意する。
まあ、確かにまっすぐ動くだけっていうのは場所を取る上にやっていることは単調だよなぁ。
早さを競うにしても早くなればなるほどあっという間に終わっちまうし。
「折角あの指輪と腕輪で離れても同調する魔術回路の形が分かったんだ。
それでこう、手元で動かせる様にしたらどうだ?」
手許に制御用の板にボールでも嵌めたのを持って、それで方向転換だけでもさせる様にしたらもっと本格的な競馬みたいな感じになるかも知れない。
「それ良いかも!
家の中の机の下とかをちょろちょろ走り回らせると楽しそう。
馬じゃ無くて犬や猫でも良いかも?」
シャルロが手を打って賛成した。
「いや、部屋の中をどこでも動き回れるようにしたら、想定外なところに置き忘れられて近日中に本人か大人かがうっかり踏んで壊すことになるぞ」
アレクが指摘する。
確かに。
オモチャなんぞ壊してなんぼという気もするが、流石に魔具で高価なオモチャが買って数日でガンガン壊れるのは購入側も販売側も困るだろう。
もっと頑丈なのを作れという話になって、そのうち子供を乗せて動き回るようなオモチャを作れなんて話になったら面倒そうだ。
「じゃあ、乗馬の練習場みたいなスペースを最初から作って一緒に売り出して、その上を走り回る仕組みにしたらどう?
魔力の消費を節約できるように出来たら更に良いし」
シャルロが提案する。
「魔力充填の魔術回路が入った固いめの布か折りたためる板みたいのを下に敷いて、その範囲で動く様にしたら少しは消費された魔力が回収できないかな?
もしくは下から魔力を放出させてオモチャ側で魔力を吸収・充填する形にしたら魔石が長持ちするとか?」
魔力の放出は熱になる手前位な感じの簡単な魔術回路で出来るが、吸収と充填はそこまで効率は良くないから微妙な気はするが。
「全体的な魔石の消費量は増えるだろうが、オモチャに入れる魔石を大きなのにしなくても遊べる時間を長く出来るかも知れないな。
そこら辺は何通りか試してみないとだし、なんと言ってもまず最初に魔具として手を使わなくても動くオモチャと、離れて動かす仕組みが作れないと話にならないが」
アレクが魔具の設計図のようなものを黒板に書き出しながら言った。
「どうせなら、一時的に下へ風を吹き出してちょっとジャンプできるようにしたら面白いかも」
シャルロが提案した。
障害物競走かよ。
「まあ、小川や垣根を模したような場を高いバージョンで売るのもありかも知れないな。
本当の狩場のように兎やキツネ役のボールでも適当にランダムに動く様にしたら大人相手にも売れるようになるかも?」
アレクが相槌を打つ。
「なんかこう、どんどん話が複雑になっていくが・・・まずは普通に走る馬のオモチャを造ってから工夫をしていこうぜ」
何かこの馬のオモチャがシャルロとアレクの心の琴線に触れたようだ。
俺は馬に乗る事自体がそれ程得意じゃないからかあまり楽しそうとも思わないんだが・・・考えてみたらアレクはほぼ毎朝ラフェーンに乗って遠出しているもんな。
ユニコーンと馬じゃちょっと違うんだろうが、色々障害物を飛び越えたりって楽しいのかも?
シャルロはケレナとしょっちゅう遠出に出ているし。
この様子だと、子供用に単純なのを売り出して問題点を潰して作る方も慣れさせたら大人用にもっと色々と出来るバージョンを売り出したら、ガッツリ売れるかも?
なんかこう、あっという間に話が漏れて購入希望が製造に追い付かなくなってまたもや製造を手伝えって言われそうな気がしないでもないが。
先に基本的な構造と仕組みはしっかり考えてから試作品を外に出す様にしよう。
ポロみたいな競技があるなら、それをリモコンでやらせるおもちゃを作ったら爆売れするかも?




