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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目

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966 星暦557年 橙の月 20日 次は?

「これが最終形のブレスレット型の過敏アレルギー体質安全用魔具で、こっちが俺たちがこっそり完成させた指輪型毒探知用魔具。

どっちを使う?」

両方あげても良いんだけどさ。


やっと緊急製造の手伝いでシェフィート商会に納品するのが終わり(本当はもっと早く終わっていたのだが、貴族の奥様陣から『子供の為に!』と圧を掛けられたアレクの母親に泣きつかれて更に子供用のを追加で製造する羽目になったので、一昨日まで只管造っていたのだ)、今日は久しぶりにシェイラに会いに来れた。


ついでに最終形の完成品を渡そうと持ってきたのだ。

試作品は一応渡してあるが、それなりに作っている間に改造もあったので、取り換えたい。


「あら?

デザインがお洒落になったわね。

指輪の方は・・・ちょっと腕輪側が大きくなった?」

シェイラが俺の渡したブレスレットと指輪とアームガードもどきを手に取って言った。


「指輪型の方は、前腕じゃなくて上腕に付けることで隠しやすくした。

だからその分太いし、指輪との距離も少し長くなるから魔石が多少大きくなっている」

毒探知用魔具は国にも売り出すつもりはないのであまり工夫する必要はないのだが、アレクの家族に提供する分に関して色々細々と改造する間に、前腕じゃなくって上腕に嵌めれば目立たないという結論になったのだ。


手首できゅっと締める形になる服が多いので、どうしても前腕はシャツやジャケットも細めなことが多く、ごつい腕輪をしていると邪魔だし目立つ。


だが上腕だったらそれなりに脂肪がついている人が多いせいか服もこの部分は比較的ゆったりとしている事が多く、ちょっと余分に巻き付けて太くなってもそれ程目立たないのだ。


激しい運動をする人間だと腕と胴体の間で擦れて痛いかも知れないが・・・毒を心配するような人間は基本的に書類作業が主なことが多いからな。

それこそ激しい運動中は食事なんかとらないんだから毒探知用魔具なんて必要ないし。


まあ、休息時に水を飲む時だけ嵌めた方が良いかもだけど。


「う~ん、腕が太く見えるのは心境的には微妙だけど、この程度だったら良いかな?

手の甲を覆うタイプのブレスレットはやはり遺物を掘り出したりする作業に邪魔だからねぇ」

シェイラが両方を手に取って試しに嵌めてみながら言った。


「やっぱ邪魔か。

とは言え、指輪と繋がっているから魔力消費量が少ないし、魔術回路も多少は単純になる分全体的に軽いんだけどな」

手を洗ったりするときに邪魔なのはどうしようもないが。


とは言え、指輪その物だって手を洗ったりする時に邪魔だと思うけどな。


「上腕だったらちょっと重みが掛かっても気にならないし・・・過敏アレルギー体質安全用魔具は体質的に問題がない人間がつけるのはちょっと気が引けるからね。

遺物を掘り出す時にうっかり毒性の強い物にさわった時に分かるから、便利なんでいつの日か十分に行き渡ったら発掘チーム皆で使いたいところだけど」

シェイラがごつい腕輪を嵌めこみながら言う。


「う~ん、買おうと思うとそれなりに高いぞ?

こっちが提供した映像用の魔具の魔石すら賄うのにピーピーな発掘チームに過敏アレルギー体質安全用魔具を買うのは無理な気もするが。

まあ、最終版をシェイラに渡したってことでその試作品を幾つか皆で使いまわしてもいいけど」

発掘チームの人間が毒で倒れたりしたら、シェイラに余計な負荷がかかるからな。


「あら、ありがと。

そんな高い試作品を私に貢いじゃって、いいの?」

悪戯っぽく笑いながらシェイラが聞いてきた。


「試作品は使い勝手とかを聞くためにそれなりに作ってばら撒くから、いいのさ」

今回は普段と違ってシェフィート商会がばら撒く数が少なかったが。

ばら撒ける前に販売しろ!!という圧力に負けて一気に正式販売になっちまったからな。


それこそ、ケッパッサでザグルに渡した美顔用魔具も使い勝手を確認する為の試作品という名目でアレクの母親から渡された物だったし。


実際の所は使い勝手の確認というよりも、幾つか使わせて周囲の購入意欲を煽る為の販売促進用らしい。


普通にチラシとかをばら撒いて広告したり、店に来た客に店員が口で勧めたりするよりも、目立つ人に使わせて良い感じな効果を見せつける方が購入意欲を煽る効果が高いんだそうだ。


今でも十分考えているのに、色々と考えているよなぁ。


「毒探知用魔具は試作品でもばら撒かない方が良いわよ?」

シェイラが真面目な顔になって注意してきた。


「ああ、勿論。

基本的に過敏アレルギー体質安全用魔具しか作らないし売らないし、下手に改造されないために過敏アレルギー体質安全用魔具の魔術回路すら特許登録していない。

お蔭で最初の利幅を多くとる為に高めに値段を付ける羽目になったんだが・・・それでも買いたがる人が多くて驚いたよ」

今年は美顔用魔具も大人気だし、想定外に売り上げが大きくなったからもう新しい製品を開発しても売るのは来年にした方が良いとアレクに言われた。


あまり年間収益が大きくなると税額が跳ね上がる上に、国税局に目を付けられやすいらしい。


過敏アレルギー体質の人は本当に苦労したり怖い思いをしている事が多いらしいからね」

シェイラが肩をすくめた。


「なんかそう言う健康の為に必要な魔具を高くして売るのってちょっと気が引ける~ってシャルロなんかは言っていたんだが、アレク曰く、ある程度高くして利幅を取らないと工房を大々的に使えなくて販売量がいつまでたっても伸びないから、そうなると欲しい人が買えなくて向うから金を積んでくるようになるんだってさ。

金を積まれて慌てて増産するよりは、最初からそこそこ大々的に製造して売れる値段を付けておく方が良いんだそうだ」


イマイチこういう値段の付け方って分からないんだけどな。

まあ、そこら辺はアレクとシェフィート商会が考えることなんで、任せちまってるが。


さて。

次は何をするかが問題なんだが、どうするかなぁ?



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、現実世界でも「金を積んで横車」ってのが許されない所がありますからねぇ。 (解りやすい所は背広の語源になったサヴィル・ロウの名店にオーダーメイドで服を注文するとか) それに追加して身体の…
[一言] >悪戯っぽく笑いながらシェイラが聞いてきた。 そこで甘い言葉の一言でも言わないと!
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