954 星暦557年 黄の月 12日 新しい伝手(18)
「う~ん、取り敢えず、亜鉛と銅と砂とか毒とか、海水の抽出物とか、色々と混ぜて実験してみようか」
微妙そうな顔でシャルロが提案した。
「色々試すのは良いとして、流石にこの複雑な魔術回路の試作品を造るのは時間が掛かりすぎるだろ。
なんかこう、一部だけ機能を取り出して試してみて、結果が良さそうなのだけ完全な魔術回路を造れないか?」
工房に外注する訳じゃあないから金は掛からないにしても、この毒探知用魔具の魔術回路はかなり複雑だ。
これを一々試作品として何通りも造るのは嫌だぞ?
「取り敢えず・・・貰った魔具を幾つかに機能ごとに分解して、それと同じ部分の魔術回路を銅で造ってみて、どれか明らかに効果が違うのがあるか、確かめてみないか?
どれもすべて効果が良いのだとしたらこの緑砂鉄を使った素材での魔術回路の魔力消費がずば抜けて良いってことで基本的に魔力消費が良い素材をもっと簡単な魔術回路で試せばいいだろう。
何か毒でも特定する場面でだけ極端に効果が良いとかがあるんだったら、その部分だけ試作品にすればいいし」
アレクが提案した。
「分解して動かなくなっちまったら勿体ないが・・・まあ、俺たちは複製出来ないんだったらこの毒探知用魔具そのものは別に必要無いんだから、構わないか。
それこそ最悪の場合は魔術回路の素材を一回全部溶かして作り直してみても良いし。
ある意味、ちゃんと同じ素材を使って魔術回路を復元したのに元通りの機能を発揮できないんだとしたら、何か素材その物だけじゃなくって加工自体にも特殊な工程が必要ってことだし」
製造工程中の加工に関しては『素材』が分かるアスカもなんとも言えないだろうからなぁ。
まあ、図体がデカくて物理的存在感がありすぎなユニコーンのラフェーンはまだしも、アスカなりアルフォンスなりだったらこっそりケッパッサの工房で毒探知用魔具を造っている所を観察して秘密を探りだすのも可能だろうが・・・俺たちの使い魔にそんなことまでして貰う程、毒探知用魔具が欲しい訳ではない。
「だね~。
じゃあ、取り敢えずどの位にこの魔術回路を分割して個々の機能に分けられるか、試してみようか!」
ちょっとワクワクした感じでシャルロが魔術回路が入っているデカい腕輪部分を手に取り・・・動きが止まった。
「あ。
これって魔術回路を真似出来ない様に、金属が一部溶接されているんだった」
そうだった。
心眼で魔術回路を解読出来たから特に不便を感じなかったせいで忘れていたが、魔術回路部分を開けられない様になっているんだった、これ。
『緑砂鉄のある部分を直に弄りたいのか?』
アスカが鼻を突き出して尋ねてきた。
「おう。
一部の金属が溶接されているせいでカパッと魔術回路の部分を開けられないんだが・・・何とか出来たりするか?」
『素材を成分ごとに分ける方が楽だが、人間が後から溶接して留めた部分を剥すだけならさして難しくはない』
そっとアスカの鼻が触れたら、ぴったりと溶接されていた腕輪がパカッとあっさり薄いカバーが外れるような感じに開いた。
おお~。
「助かった!
ありがとう!!」
魔術回路の部分っていうのはあっさり開けられると特許規定なんぞ知らんって言うような奴どもに模倣されまくる可能性があるからそれなりに開けにくく、開けても魔術回路が分かりにくい様に普通の魔具でも色々と工夫をするもんだが、完全に開けられない様に溶接しちゃうと故障した時の修理が出来なくなる。
毒探知用魔具は故障したら諦めろって話なのかね?
まあ、こっそり夜中にでも盗み出して開けて中を弄れたら、態と毒探知の精度を下げることも可能だし、危険すぎるのかも?
嵌めている人間が毒で死んだら駄目だったってことで魔具ごと破棄されるのかもな。
まあ、素材がかなり希少みたいだから、溶かして再利用ぐらいはするんだろうが。
腕輪の素材になっている金属と一緒に溶かしても、ちゃんと抽出し直せるのかね?
そう考えると、ケッパッサの金属加工技術って実はかなり高いのかも知れない。
しっかし。
土竜の使い魔と契約している魔術師がいたら、魔術回路の秘匿にする仕組みなんて、全部バレバレだなぁ。
あまり露骨に金稼ぎとかの為に悪どいことをしたがるような人間って幻獣に嫌われて使い魔契約を破棄されたり、厳密に命じた事しかやってくれなくなるって聞くから大丈夫だろうが・・・。
絶対に人に知られちゃいけない魔術回路なんかは、造って隠すんじゃなくて最初から造らない方向で行かないとダメそうだな。
世の中に出たものはいつか広がるんですよね〜。
完璧な情報秘匿は無理w




