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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目

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952/1357

952 星暦557年 黄の月 11日 新しい伝手(16)

「これって複製出来たら物凄く売れそうなんだけどねぇ〜」

王都に戻って俺たちの家へ帰宅し、工房で毒探知の魔具の複製を試みて何度目かの失敗。失望に肩を下ろしながらシャルロが言った。


「確かに便利そうだが、あるのが分かっても良いんだったら据え置き式の毒探知の魔具とそこまで極端に機能に違いないだろう?」

血を最初に入れておかなければいけないという点はちょっと据え置き式の方が原始的だし微妙に痛いが、機能その物は今回入手した東大陸の魔具と極端に違いは無い。


1回の食事に混ぜて食べさせるだけで効果があるような強い毒は、どちらでも検出できる。


薬なんだけど過剰摂取するとかなり身体に悪いようなタイプだと据え置き式は反応するのとしないのとがあり、東大陸のはピリピリと警告っぽい感触を出すのでこちらの方が精度は良いかも知れないが。


「男性だったら服の腕とかをちょっと太めに仕立てさせればこれを付けていてもバレないでしょ?

服に引っ掛からなければ邪魔じゃないし。日常的に使う事で毒味無しに食事が出来るとなったら凄く喜ぶ人が多いと思うよ~。

うちはまだしも、大抵の高位貴族とか王族って基本的に食事を暖かいまま食べられないから」

シャルロが指摘した。


え。

「毒味って政治的にヤバそうな状況な時だけしているんじゃないのか??」

『戦争が起きそうかも』みたいな緊張感が漂っている時とか、どっかの貴族と喧嘩になってて『それとなく毒を盛るぐらいの事を考えていてもかしくないかも』な状況の場合はまだしも、日常的に毒味なんてしているのか??


暗殺アサッシンギルドが普通に毒殺とかに成功しているんだ。

毒味なんて余程の事が無い限りやっていないんだと思っていたが。


「ウチの家族は蒼流が手を貸してくれてるから皆毒味なしで食べているけど、貴族の当主や嫡男は基本的に毒味しないと暗殺してくれって言っているようなものだからね~。

政治的緊張とか経済的な利害関係なんて、本人が気づかないうちに誰かにとって不都合になっていることの方が多いんだから、緊張が高まってから毒味役を雇っても遅いよ」

シャルロがあっさりと返す。

毒味役って専門に雇うんだ?

珍しい毒を使うかも知れない王家や高位貴族以外は適当にメイドや下男に味見させるのかと思っていたよ。


「それなりな商会の当主や嫡男も毒味はしなくても毒探知の魔具を身に着けているぞ?

そう言う一般的な魔具を潜り抜けられる毒となると高くつくから、高位貴族以外では毒味までしていないことが多いが」

アレクが付け加える。


そう言えば、シェイラも毒探知の魔具を持っていたよなぁ。

あれってアホな兄貴や他諸々から狙われかねないから身につけているって言っていたから・・・やっぱ盛られたことがあるのかな?


「なんかこう、皆が毒味や毒探知の魔具を使っているんだったら毒なんぞ盛らなくて良いじゃないかって気がするが、気を抜くと毒を盛りたがる人間が出て来るからいつまでたっても無くならないのか・・・」


「そう~。

決まった毒しか検出しない魔具より味覚もあるし実際に体調も崩す人間で試すのが一番確実だから、資金や権力のある貴族になればなる程、しっかり毒味させるから冷めた食事になるんだよねぇ。

作ってから時間をおいた食事って例え冷めない様にしておいてもやっぱ余り美味しくない事が多いから、毒味なしに食べられる魔具が入手出来るとなったら喜んで買う人が多いと思うよ。

据え付け式だと目の前で確認する訳じゃないから持ってくる間に毒を掛けられる事もあるから絶対に確実って訳じゃないし」

シャルロが説明した。


うげぇ。

今時毒味なんて、形式美だと思ってたぜ。


貴族のお茶会や晩餐会で主催者ホスト側が先に一口食べて見せるのは『毒は入っていませんよ』ってアピールの為って聞いたが、『そんなもん先に解毒剤を口に含んでおけばいいんだから意味のない形式だけの習わしじゃん』と思っていたのだが、客へのアピールはまだしも、自分の食事に関しては真面目に毒味が必要だったのかぁ。


「とは言え、この毒探知の魔具はやたらと複雑だし、この調子じゃあ実用的なサイズにまで小さく出来そうにない気がするぞ・・・」

4倍ぐらいの大きさにすれば一応毒探知の機能その物は複製出来たのだが、小さくしようとすると上手く機能しないのだ。


既に3度ほど試作品を作って失敗している。


「何か特殊な素材でも使っているのか?

考えてみたら、金さえかければ作れるのだったらもう少しこちらの国に流入していても可笑しくはないだろう。

王家ですらこれほど小さな毒探知の魔具があるとは聞いていない。

・・・まあ、王家や高位貴族の場合は周囲に知られぬように隠している可能性も高いが」

アレクがため息を吐きながら小さくしたせいか機能しなかった試作品を手に取って眺めた。


魔術回路は完ぺきに複製出来た筈なんだけどねぇ。

小さくすると、何故かちゃんと毒を探知しなくなるのだ。


「アスカに素材として何を使っているのか、調べて貰って同じ素材をどこで入手できるか聞いてみるか」

今まで作った魔具は魔術回路の素材に特にそれ程拘らなければならない物って無かった。

でも、考えてみたら素材次第で魔力消費の効率や魔術の有効範囲が変わったのだ。

毒探知の効果だってある意味魔力消費の効率に近いと考えたら、素材に拘る必要性はあるのかも知れない。


とは言え、考えてみたら。

毒が使えなくなるような完璧な毒探知用の魔具の製作に成功したら、恨まれそうな気もしないでもない。

例えどうやったら作れるのか分かっても、売る数は制限した方が良いかも?

一個だけ特別に毒の卸売り業者の関係者から貰ったのに、沢山複製したら商売に差し支えるって事で消しにきそう;

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒見はなぁ………………我が国でも由緒正しい職業になってるしねぇ。 (今ではそこまでやる奴は居ないけど、江戸城では常備だったし) 暖かく美味しい料理ってのが「誰にでも必要」なので、色々と笑えん…
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