949　星暦557年　黄の月　6日　新しい伝手（13）

「取り敢えず、持ってきた毒には全て反応したし、危険な薬系もそれなりに反応してアファル王国の毒探知用魔具より機能性が高い事は確認できたから、今回はこれでいいとしよう。

後はどれだけこの機能を実用的なレベルで再現できる、もしくは改善できるかだが・・・まあ、それは適当に実験していけばいいし。

何か他にもお土産で買いたい物あるか？」

1日掛けて一通り実験を終えて満足した俺は、アレクとシャルロに尋ねた。

一応魔術回路も読み取れたと思う。

流石にあれだけ細かいのを試作するのは船の工房部屋では無理なんでやってないけど。

俺は既にシェイラ用のお土産は買ったので、他に買わなければならない物はない。

だから直ぐに帰路についても大丈夫だ。

折角だからパストン島に帰りに寄ろうという話にはなっているが。

「出来ればもっとあちこちの食事処に入って美味しい所を見つけて、理想としては料理人を誘惑出来たら良いんだけど・・・まあ、取り敢えず今回は香辛料を色々と持って帰って、デルブ夫人が特に興味を引く物があったら次は彼女を連れて来てもいいかな。

アレクは？」

シャルロが気に入ったらしき現地のクッキーモドキっぽいのを口に放り込みながら応じた。

それの簡単なレシピに関してはかなりの金を払って売っていた店の姉ちゃんから買い取っていた。

手作り菓子のレシピを買いたいなんて？！と目を白黒させてたけど、シャルロ的には是非ともアファル王国に持ち帰りたい新しい甘味だったらしい。

確かに今までの菓子とは違った食感と味ではあるが・・・俺としては菓子に金貨を払う程の価値があるとは思えない。

まあ、作り方を知っていればこれから材料費だけで再現出来るから、長期的には経済的なのかな？

それはさておき。

香辛料って言うのは現地の人間の方が使い方とかに慣れているだろうが、流石に一時的な興味で恒久的に料理人を雇う訳にはいかないし、かといって違う大陸まで連れて行かれてそこでぽいっと放り出されたら料理人の方も困るだろう。

他国で新しい味を知ってみたいと考えているような冒険心に満ちた料理人にでも行き当たれば有りかもだが・・・もう少し現実路線を行くんだったら東大陸料理を出す食事処を開くのにスポンサーになると言った流れかな？

だが、流石にそれは成功するかどうか分からない上にまずは腕のいい上に冒険心に満ちた料理人を見つけなければならないから、ちょっとした思い付きで出来ることではないだろう。

「そうだな、幾つか面白そうな生地を買ったし、染料のサンプルも入手したから後は商会の方で興味を持つ人間が居たらそのうち連れてくれば良いだろう」

アレクも頷く。

「また来るつもりなのか？」

毒探知用魔具は既に入手したし、特にシェイラが興味を持ちそうな遺跡や骨董品蚤市が近くで開催される訳でもないし、俺としては再度来る必要性は特には感じていないんだが。

「一応どういったものが売られているという目途が付くだけで、ジルダスまで来た交易船を南まで動かす価値があるかの判断がしやすくなるからな。

商会の担当者が今回持ち帰った物のどれかが『売れる！』と思うなら適当に手配するだろう。

個人的にはまだ街の売り物全部を見て回れた訳ではないから、あと何回かは来てもいいと思っているが」

アレクが肩を竦めながら答える。

「そうだね～。

そこそこ美味しい店もあったし。全部は網羅できていないから、また暇な時に来てもいいと思うな」

シャルロが頷く。

ふむ。

そうなると、年初あたりの気分転換の旅行はケッパッサになる可能性が高いかな？

遺跡や蚤市が無くてもシェイラが興味を示すか微妙なところだが・・・なんだったら、俺たちだけ、ジルダスで降ろしてもらっても良いかも。

「裏社会のトップはザグルっていう男だ。

何やら交易船で寄った女に惚れ込んだって話で美顔用魔具が気に入った様だが、それなりに女好きならこれからも美顔用魔具を欲しがるかも知れないな。もう幾つかおまけで持って来れば商売で便益をはかってくれるかも？

流石にまだそれ程交流が無いから俺が紹介状を書いても微妙だろうから、この街と交易を考えているんだったら再度来て話を通すのに手伝っても良いぞ」

ついでにその際に品揃えのいい骨董品店とかの場所を聞いても良いし。

もしかしたらジルダス程大々的では無くても、ちょっとした遺跡とかの発掘品が売り出される蚤市とかが非定期的にでも開催されるかもしれないし。

毒が特産物な街と交易を広げる事が良い事かどうかは微妙だけどなぁ。

俺たちが毒を買わなくても、交易が増えれば不正入手する人間が出てくるだろう。

今だったらそれなりに何人かの人を介さないと入手できない毒が、船員を買収したら直接入手出来るようになるって言うのは・・・危険度が増すと思うんだが、大丈夫なんかね？

毒の新規入手経路をうっかり開拓して、その後に精度の高い毒探知用魔具を売り出すって・・・ちょっと酷いと言われるかも知れんぞ？