931 星暦557年 緑の月 22日 熟練の技モドキ(13)
「枝はお互いが日光を得るのに邪魔にならない程度に剪定して、この時期に追肥。
花が咲いた後は一枝にこの程度だけ残して花がらを摘む。
それでも一枝に実がなりすぎた場合はそれも早い段階で摘まないと一個一個の実が小さくなります」
色々と果樹園のおっさんが説明しているのをシャルロがうんうんと頷きながらメモを取っている。
予想通り、レディ・トレンティスは喜んで桃の苗木を3本ほど分けてくれた。
で、果樹園のおっさんは更にシャルロに育て方とかについて色々と細かく指導している。
ありがたいんだけど・・・ある意味、これってシャルロの庭の世話を見る庭師なり、果樹の世話担当になる人間なりを連れてきて教わる方が良いんじゃないかなぁ?
まあ、1年間フルに張り付けておくわけにはいかないし、短期間の間ににわか仕込みした知識だけでは失敗するだろうからこの程度の情報をさらっと教わって、後は試行錯誤でいってもいいんだが。
妖精が果樹のご機嫌伺いをする予定なので、流石に死にそうになる前に状況を改善出来るだろうから多分何とかなるだろう。
取り敢えず、受粉の時期以外は虫除け結界をフルに使い、実がなったら結界に鳥除け機能も付けるつもりだが・・・雨とかはどうなんだろ?
水除け結界を利用して温度管理が出来るが、直接花や実に水が掛からない方が良いのなら水除け結界を使って雨が降っても防ぐ様にするが、普通に雨が降って濡れた方が良いなら余計な手は加えない。
つうか、水に関してはどういう状態が良いのかさえ教えてもらっておけば、魔具なんぞ使わなくても蒼流が完璧に管理するな。
蒼流の魔力満載な水の方が果樹が大きく育つとか、実が甘くなるとかあるんだったらシャルロの庭の分だけでも水遣りに工夫をしちゃいたいな。他所で土壌成分の分析用魔具を使う際の参考にはちょっと微妙になるかも知れないが、俺たち的には美味しく仕上がるだろう。
まあ、そこら辺はやってみなきゃ分からんだろうが。
取り敢えず、最低でも1本は蒼流が水をやる方向で誘導してみるかな?
現実的な話として、高位精霊による水遣りが必要な果物なんて高くつきすぎて売れないが。
色々と説明を聞いた後、今度はシャルロが土壌成分の分析用魔具を取り出して使い方の説明を始めた。
「これを使うと土の状態が分かるんだ。
だから定期的に土を摂ってこれで調べればどの成分がどんな時に減るかを確認できるから、長期的にはより正確な追肥の時期が分かるかも?
あと、こっちの筒を地面にさしたらどの程度地面の中が湿っているかも分かるから、記録を取っておいたら後で実がなった時にどういう状態が理想的か推測できそうだよね。
いい結果が出たら、是非教えて?」
水に関してはシャルロは無敵だからなぁ。
理想的な状態が分かりさすればそれを維持するのは朝飯前だ。
理想的な状態を常に保つことが果樹にとって良い事なのかは知らんが。
それこそ、精霊頼みだったらシャルロが寿命で死んじゃったり引っ越した後に桃の収穫量とか味が一気に劣化しそうだ。
・・・桃の木の寿命ってどの程度なんだろ?
そんなことを考えながら周囲を見て回る。
何やらシャルロと仲良くしてた小僧がこっちに走ってくるのが見える。
「シャルロ様!!
桃の苗を植えるんだって?!
世話を見るのに俺を雇ってよ!!」
おいおい。
まだ若すぎじゃないか?
まあ、俺が盗賊ギルドで独り立ちしていた年齢よりは上だが。
「ええ??
チャックはまだ小さいじゃん!!」
シャルロが声を上げる。
おや。
名前を知っているぐらい、親しいんだ?
「冬に一番上の兄貴の子供が生まれるから、俺の部屋を開けた方が良いんだ。
もうちゃんと読み書きも出来るし、もうそろそろどっかに弟子入りするかって話も親父としていたんだけど、シャルロ様の所で庭師見習いになって、ついでに桃の面倒を見れば良い事だらけだろ?!
桃に関してなら王都の庭しか知らないおっさんよりも俺の方が詳しいぞ!!」
小僧が胸を張って主張する。
ちらりと色々と説明していたおっさんの方を見ると、微妙そうな顔をしていたがさっさと小僧を黙らせて追い払おうとはしないから、それなりにありだと思っているらしい。
良いのか??
まあ、レディ・トレンティスの親戚の屋敷で庭師になるんだったら安心かもだが。
最初に苗をばばっと育てるって話を果樹園のおっさんやチャックにしてるのかな・・・?




