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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目

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928 星暦557年 緑の月 17日 熟練の技モドキ(10)

「なんかこう、妖精に頼んで植物をぐぐ~と早送りで育ててどの栄養素がどのくらい、いつ必要かを確認する訳にはいかないんかな?」

庭に10個ほど出した箱の中で育てている麦や芋の苗を見ながら思わずアレクに尋ねる。


はっきり言って、どの成分が作物に良いかの研究は想定外に時間がかかりそうでちょっとうんざり気味だ。

まあ、人間だったら栄養がある食事を食べたって背が伸びたり筋肉がついたりするのに最低でも数か月、普通なら何年もかかるんだから、数週間とか数か月である程度の成果が分かる植物の方がまだマシなんだが・・・それでも俺たちにはちょっと長すぎる。


どれだけ売れるか分からない魔具の販売促進用追加的情報を得るために1年近くこれにつきっきりになっていたりしたら、大赤字だろう。


それになんと言っても飽きるし。


土の中の水分の研究に関しては、筒を突き刺して地下1ハド(20センチ)0.5メタ(50センチ)1メタ(1メートル)の地点で土が『びしょびしょ』『湿っている』『ほぼ乾燥状態』のどれに近いかを分かるような魔具を別に造った。


使っている魔術回路は似たり寄ったりなのだが、下手に細かく水分量を示すよりも大雑把な方が使いやすいと近所の農家のおっさんや元植木屋であるパディン氏に聞いてみたら言われたのだ。


パクストンは情報はあればあるほど良い派だったけど。


酸度に関しては、トレーに残った土埃を水で洗い流した際の酸度だけを調べても必ずしも土壌を水に溶かして調べた時と同じ結果が出なかったので、水分を調べる筒を洗い流す形にしてその水を使えば良いということになった。


で。

肝心の植物への栄養素なのだが。

既に育っている植物の土へ成分を混ぜ込むのって意外と難しい事が判明。

根っこの周りを掘り返して土を取り出していたら根を痛めてしまう可能性も高いし。


まあ、土を取り出す方に関しては水分を調べる用の筒で取り出した土を調べるのに流用したらそれなりに出来るんだが、肥料を混ぜ込むのをどうするかというのが問題になった。


何でも、通常は肥料って作物を植える前に土壌に混ぜ込んで、後は上とか脇とかに乗せるか軽く埋める程度に追肥するのが正しいんだそうだ。


流石に種とか芽が出たばかりの状態では妖精も植物が何を言っているか分からないとの事なので、掘り返してもまだ根をぶちぶち引きちぎってしまわない程度のサイズの苗を近所の農家から貰い、適当なサイズの木箱に入れて庭で育て、それに関しては土と肥料を混ぜて理想的な状態を調べるための何通りかの成分の濃度の組み合わせにアスカの協力で土を調整した。


土竜ジャイアント・モールって人間と違って植物の根を荒らさずに土を色々弄れるんだねぇ。

まあ、考えてみたらあの巨体で何故か地の中を泳げるのだ。

土をうにゃうにゃっと弄れても不思議は無いのだろう。


改めて考えると色々と不思議だけど。


で、そんな感じに土の成分をテストする状態に調整して、苗のご機嫌をアルフォンスの部下で特に植物の声を聴くのが得意な妖精に毎日聞いてもらっているのだが・・・

何とも言えず、時間が掛かる。


「魔力で無理やり育てると普通に育てるのと違った味になるという話だろう?

とは言えご機嫌に育てば作物の味が人間にとって良くなるとは必ずしも限らない話らしいが」

アレクがちょっと微妙な顔をしながら庭の苗とシャルロ(と妖精)と共にその周りを飛び回っているパクストンを見ながら応じる。


「ちなみに、シェフィート商会での試用の方はどんな感じだ?

昨日話を聞きに行ったんだろ?」

あっちは少なくともその場で普通に使うだけだから結果が出るのにそれ程時間がかからない。


「中々良いという話だ。

ずぼっと容器の中ほどぐらいからサンプルを取り出せる仕組みが欲しいとは言っていたが」

アレクが教えてくれた。


「手元で弄ることで棒の先の箱の蓋を開け閉めできるような物でも作ったら良いんじゃないか?

普通に工房で造れるだろ」

下手に魔具にして高くつく物を作るよりも、普通の箱と棒に少し工夫を加えただけの方が現実的な値段になって売れる。


「そうだな。

そうなると・・・植物に関しては幾つかの農地の土の状態を調べてそれを参考値として提供して、この成分分析用魔具はもう売りに出してしまうか?

取り敢えず売り出して、パクストンの研究が実を結んだらその研究発表の後にでも適当に小さな改造でもして更新した新モデルの販売って形にでもしても良いし」

アレクが提案する。


「そうだな。

工房で俺たちが仕事している間にちょくちょくシャルロがパクストンに付き合って妖精との話し合いに立ち会えば、それでいいだろ?

というか、俺たちの誰かの魔力を対価に、1年ぐらいの短期契約であの妖精にパクストンの使い魔になるよう頼んでみれないかな?」

使い魔になったらパクストンとの意思疎通もある程度出来るようになるのではないだろうか?

パクストンは大して魔力を持っていないようだから、対価用の魔力は俺たちが出さないと昏倒しちまうだろうが。


「それが下手に上手く行くと、これからずっと農産物学会の連中と妖精との間を取り持つように頼まれるかもしれないぞ?」

アレクが指摘する。


「・・・シャルロが毎日お茶の時間にでも庭に出て話し合いに参加すれば良いな!」

学者連中に対価の魔力を魔術師に肩代わりさせて妖精や幻獣との使い魔契約が出来るかもなんて知られたら、とんでもないことになりそうだ。




詳しい研究はほぼ外注する事に決定!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ですよね(苦笑)。 とはいえ、この手の研究の祖として名前が残るんだろうなぁ。 これでどれくらい「後世に名前が残って、歴史研究者が発狂することになるのか」想定したくない。
[良い点] 更新おつかれさまです。 [一言] 水を少なくして根をしっかり張るようにさせたり、寒い環境に置くことで凍らないよう糖度を増やさせたりとかありますからねぇ。 育成の道は深い……
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