906 星暦557年 萌葱の月 21日 やはりお手伝いか(2)
「税務調査だ!」
国税局の職員と警備兵の格好をした第3騎士団の人間が先日船が帰港したばかりな輸出入を主に扱う中堅商会の本店へとなだれ込む。
年初で密輸業者関係は根こそぎ捕まえたのかと思ったが、どうやら露骨に麻薬ではないが実は違法な薬物関係は普通に薬や食材(小麦粉や香辛料)の振りをして税関を通すことが多い為、密輸業者として捕まることは余りないそうだ。
まあ、俺が探したのは二重底になった木箱とかそれとなく入っている木箱だからな。
普通に小麦粉の袋の中に一つヤバいのが混ざっていても俺の心眼の注意を引かないから年初の調査では引っかかってないのだろう。
そう考えると、堂々と密輸する方が、隠そうとするよりも見つかりにくいんだな。
一応犬とかを使って麻薬とかを探す作業もしているらしいが、犬に覚えさせる麻薬にしてもそれなりに有名どころな麻薬しか教え込めないらしく、微妙な違法薬物系は偶然そう言うのに詳しい検査官に関税で抜き打ち検査対象として調べられない限り見つからないらしく、ほぼ素通り状態なのだとウォレン爺が顔を顰めながら言っていた。
ただまあ、違法薬物となればそれなりに利幅が大きいし、普通に帳簿に販売収支を書き込む訳にはいかないので脱税調査ではそれなりに見つかる事があるらしい。
だが通常の脱税調査だと脱税その物の立件と罰金に焦点があたり、持ち込まれた違法薬物などの調査は脱税調査が終わってから関係部署に報告が行くだけなのでその時点では次の流通ポイントの人間はとっくのとうに雲隠れしている。
今回は税務調査という形で違法薬物の売買を見つけ、その販売先と購入元を突き詰めてビシバシと検挙していく予定なので、国税局以外の人間が多数警備員の顔をして紛れているのだ。
抜き打ちの税務調査の場合、基本的に証拠書類の隠蔽や棄却を防ぐために商会の人間は店舗から追い出されて近くで質問に応じる為に待機ということになる。
わらわらとデラビール商会の本店から人が出て来るのを馬車から見ていた俺にウォレン爺が声をかけてきた。
「そう言えば、シャルロ達がザルガ共和国に行くそうじゃの?」
「違法薬物系を一番多く取り扱っていてお互いでも使いまくっているのはザルガ共和国でしょう。
自衛用の魔具や予防薬みたいのが無いか、探しに行ことにしたとか。
・・・国の方ではそう言う魔具を政府の要人用に提供していないのか?」
まあ、あったとしても公開はしないか。
つうか、あったとしたら俺たちが何か造った場合に非公開にするよう求めて来るかも?
自分達の道具の優位性を損なうのをどこまで許容するかだなぁ。
「魔具ではなく、魔術で精神に干渉する薬を無効化もしくは弱める術がある。
政府高官や王族、潜入任務に従事する軍人にはその術を定期的に掛けることになっている」
なるほど。
魔具ではなく術なのか。
一気に複数の人間に掛けられるなら便利そうだし、物を持っている訳じゃないから持ち物を調べられても怪しまれなくて良いな。
ただまあ、民間の商会で使うには微妙だなぁ。
アレクだったらウォレン爺の伝手でも使えば術を教えて貰ってシェフィート商会の人間に使えるかも知れないが・・・商会の主要な人間全てに掛けようとしたらあいつの時間が無くなっちまうだろう。
やはり量産できる魔具の方が便利そうだ。
ちょっと時間が出来たら俺も東大陸の方へ行ってゼブあたりに聞いてみよう。
違法薬物だって大元は東大陸から来ているのが多そうだし。
「お!
準備が出来たようだな」
デラビール商会の本店の裏口の扉が開き、警備兵の制服を着た男がこちらに手を振ってきた。
さて。
隠し場所と金庫とを探しまくるとしようか。
明日はまた別の商会に行くって話だったし、ガンガン探さねば。
今回は付け髭と鬘を被っているので恨みを買っても多分俺まで辿り着けないし。
考えてみたら、嫌だけど警備兵の制服を着たら更に目立たないで済むかな?
なんかウォレン爺へ話す口調がブレブレな気が;
一応単なる協力だと対等気味、雇われていると丁寧語っぽくなる・・・かな?




