904 星暦557年 萌葱の月 20日 久しぶりに遠出(25)
取り敢えずレディ・トレンティスの屋敷の方でやるべき作業で俺たちが手伝えることは大体終わったので、昨日王都に帰り、今日はシェイラの所に遊びに来た。
で、あちらで起きたことを話していたのだが・・・。
「え、シャルロったら親しい人全員に毒を盛られない様に水精霊を付けてるの??」
やっぱ驚くよな??
確かに今回は水精霊の助けが無かったら俺たちが遊びに行って異常に気付く前にレディ・トレンティスが薬のせいでボケていたり、意識が朦朧としている時に転んで寝たきりになっていたりとかしたかもしれないけど・・・精霊の加護(に近いこと)を手配できるなんて知られたら、ますますシャルロの利用価値が上がっちまいそう。
とは言え、あいつは高位貴族の子息だし、なんと言っても蒼流は過保護だからシャルロを利用しようと近づく人間をガンガン排除するだろうから大丈夫だろうとは思うけど。
「なんでも子供の頃に親しかった従姉妹が嫌がらせに毒をお茶会で盛られたとかで、シャルロが凄いショックを受けたのを見て蒼流が勝手にやっていたらしい。
今回の事でそれが明らかになったけど、シャルロ的には蒼流の負担にならないならこのままよろしくって言っていた。
ちなみに、シェイラもそんなお守り精霊がいた方が良さげか?」
流石に親しい友人や親族全般の多人数の保護している蒼流程の事は無理だが、シェイラぐらいだったら清早が知り合いの精霊に頼んでくれるとは言っているのだが。
「え~?
別に弱い毒程度だったら毒探知の魔具のネックレスをしているし、本気で殺す気だったら毒が駄目だったらあっさりすれ違う際にナイフでグサッと行くとか、寝ている所を放火されたりとかってなるだろうから、私は良いわ」
首にしていたネックレスを見せてくれながらシェイラが言った。
そう言えば、地味だけど魔具っぽいネックレスをしていると思ったら、毒探知用なんだ?
「やっぱ家族でもそう言うのってあるんだ?」
アレクの所みたいに既に誰が跡継ぎになるか決まっていて、当事者たちが納得しているなら多分大丈夫だろうけど、シェイラの実家みたいに未だに揉めている上に当事者の何人かが馬鹿だったら危険な可能性はありそうだよなぁ。
「視界にいないと記憶から薄れるのか、王都を離れてからは殆ど無いけど以前はちょくちょくあったわね~。
まあ、実際に殺す用の毒って言うよりも、下剤とか気分を高揚させて判断を誤らせる薬とかが多かったけど」
肩を竦めながらシェイラが教えてくれた。
うへぇぇ。
家族同士で下剤やヤバい興奮剤を盛るなんて、なんとも嫌だな。
まあ、ガチで殺し合いをするよりはマシだが。
「王都にいる時は、防寒兼防御用結界の魔具を身に着けた方が良いんじゃないか?
魔石の充填が足りてなかったら予備の魔石を含めていつでも貸すから、絶対に毎回家を出る前に身に付けてるのを確認してくれよ」
ちょっと気になったので念を押しておく。
俺的には防寒を主たる目的として渡したんだが、魔石がフルだったら通りすがりのナイフの一撃も1回だったら防げるだろう。
流石に王都で長剣を振りまわして本格的に何度も攻撃しようとしたら警備兵に捕まるだろうから、最初の通りすがりの暗殺っぽい一撃さえ防げれば大丈夫な筈。
・・・盗賊ギルドの長経由で暗殺ギルドに依頼拒否の金を払っておこうかなぁ。
もっと金を積まれたら依頼拒否用に金を払っていても仕事を請けられてしまうが、少なくとも前もって依頼拒否解除を通告してくれるから用心は出来るんだよな。
「だけど、そんなボケを誘発するような薬が田舎町の小悪党でもあっさり手に入れられるなんて心配ねぇ。
あれって毒扱いじゃないから毒探知の魔具に引っかからないかも知れないし」
シェイラが顔をしかめながら言った。
流石に働いている人間が急にボケたら周囲が怪しむんじゃないか?
「シェイラがボケたら俺が直ぐに確認して、必要があったら清早に全ての薬を体から抜いてもらうから安心して良いよ。
知り合いは・・・心配だったら定期的に通信機で連絡を取って会話して確認するとか?」
「そうねぇ。
まあ、ちゃんとした理由がないとついつい疎遠になるから、定期的に連絡を取る理由があるのは良い事かも知れないわね」
「まあ、ウォレン爺とかがめっちゃやる気になって違法薬の販売網を壊滅させるって言っているから、それなりに流通量は減るとは思うけどな」
とは言え、船を実際に持っている商会の人間だったら自分で他国に行って買ってくることも可能だからなぁ。
シェイラの親父さんも、さっさと商会をどうするか決めないと・・・それこそ変な薬を盛られても知らんぞ?
後継者指名前に父親がボケたら泥沼な事態になりそう・・・




