898 星暦557年 萌葱の月 17日 久しぶりに遠出(19)
「お主らは変なことに行き当たらずに遠出できん星の下にでも生まれているようじゃの」
翌朝現れたウォレン爺にとんでもない事を言われた。
おい。
別に俺たちが悪い訳じゃないぞ??
悪事を暴いているんだから、感謝してくれよ。
俺たちが変な星の下に生まれているんじゃなくって、世の中で色々と悪事が気付かれずに蔓延っているのを俺たちが見つけているだけなんじゃないか?
「何を言ってるの。
悪事を暴くのはウォレン叔父さんとかの管轄でしょ。
もっとちゃんと頑張ってよ」
シャルロが呆れたように言い返す。
良いぞ~、もっと言ってやれ!
「まあ、それはさておき。
さっさとその屋敷内での悪事の主導役らしき家令補佐の部屋の家探しと尋問を始めましょう」
ウォレン爺と一緒に来た審議官のカレスターンとか言う男が二人を宥めながら手を叩いて注意を引いた。
「そうですね。
面倒なことになったら困るので昨日からずっと眠らせているから、そろそろ起こした方が良いでしょうし。
先に共犯に使われたらしきメイドの部屋を軽く調べてから、家令補佐の部屋に行きましょうか」
アレクがカレスターンに合意して動き始める。
「メイドの部屋はこちらなのよ」
レディ・トレンティスが3階の奥の方へ案内してくれた。
こんなことは家令なり家政婦なりに任せれば良いのだが、どうやらレディ・トレンティスも好奇心が抑えきれなくて案内という名目で同行するつもりらしい。
「3階とは意外と良い所に部屋があるのですね」
カレスターンが部屋を覗き込みながら言った。
「今は館の人員もそれなりに減っているし、住み込みでなくて近くの村から通う下働きも多いから使用人用の部屋が余っているの。
チャルは元々通いだったのだけど、兄が結婚して実家に住みにくくなってこちらに住み込みするようになったのよ。
ちょうどナディーンが年を取って前のように動けなくなってきていたので私付きのメイドにしたの」
レディ・トレンティスが教えてくれた。
ふ~ん。
夜中にちょっとお茶が飲みたくなった時の事とかを考えると女主人付きのメイドは住み込みの方が良いと思うが・・・偶然実家に住みにくくなったタイミングで良いポジションが空いたなんて、随分と運が良かったんだな。
チャルとやらの部屋はメイドの部屋としては中々大きかった。
侍女用の部屋だったんじゃないか、これ?
まあ、本来ならば女主人とその娘とか義理の母親とかが侍女付きで暮らしていても可笑しくない貴族の屋敷なのだ。
侍女用の部屋が余っているのだろう。
さっと部屋の中を探したら、丸めて引き出しに入れてある靴下の一つから宝石が一握り程出てきた。
「・・・若い男に騙されて悪事に加担したって役割にしては報酬が多いな」
つうか、騙されたんだったらそれこそ単に『体に良いお茶を新しく売り込みたいから、ちょっとこっそり飲んでもらってみて欲しい』ぐらいな感じで報酬無しの方がしっくりくるぞ。
多少不相応な装飾品を貰った程度ならまだしも、足がつきにくく売りさばきやすい宝石を貰うなんて、悪い事をしているって認識があるってことじゃないか。
「確かに。
ちょっとメイドの方もしっかり話を確認した方が良いな」
カレスターンが合意しながら手袋を嵌めた手で証拠品の靴下と宝石を箱に入れた。
「そう言えば、ついでだったからシャルロ達が開発した記憶を映像化する魔具を持ってきたぞ。
あれを多少意識がぼんやりする薬と一緒に使うと、警戒していても中々良い感じに正直な答えが出る様でな。
嘘がついたら分かる魔具に似せた頭に被らせる帽子タイプで、映像を本人に見せない様にして使うと誤認させるような言い方をされても分かりやすくて良い」
家令補佐の部屋に行きながらウォレン爺が楽し気に言い始めた。
おやま。
嘘をつくと分かる方法には二通りある。
神殿に行って神官に神を呼び掛けて貰って嘘を付けなくした上で話させる方法と、魔具を使う方法だ。
神殿でやる方は誤認を狙って嘘じゃないけど実質嘘っていうのも神が許さないんで一番効率的だが、国を揺るがすような大事件じゃないと使えないらしい。
魔具は本人が嘘だと分かっている事を言うと警告音が鳴るタイプなので、嘘ではないことを誤認させることを目的で言っても反応しないことが多く、これを使いこなすのは中々難しい。
誤認目当てで言い抜けしようとしている相手に、記憶を映像化させる魔具を使ったら確かに中々面白いかも。
ますます盗賊ギルドに怒られそうだが、俺たちが開発した魔具のより効果的で都合の悪い使い方を思いついたのは俺じゃないことを分かって貰えると期待しよう。
さて。
さっさと家令補佐の部屋を調べて二人を尋問しないと。
ウォレン爺、準備万端ですね〜




