881 星暦557年 萌葱の月 13日 久しぶりに遠出(3)
「いらっしゃ~い!
ケレナちゃんも久しぶりねぇ。元気そうでよかったわ」
途中で一度トイレ休憩を入れたものの、レディ・トレンティスの屋敷にはちょっと遅めの昼ぐらいの時間に問題なくたどり着けた。
機体の中に多少の風を通す形にしているが、日差しが強くなってからはちょっと中が暑かった。遮熱結界を機体の上部に取り付けると良いかも知れない。
冬は暖房用魔具もあった方が良さそうだ。
コートを着ていても動かなければ寒いだろう。
取り敢えずレンタル用の機体には付けて、後はシェフィート商会の方に追加サービスとして既に売った機体に取り付ける提案をするか、来年の初夏まで待つかはあちらに任せておこう。
風に乗って空の遊覧を楽しむ空滑機と違い、『移動』を主目的とする空滑機改の方が移動速度は速いんだよな。
こうやって使ってみると、中々便利だ。
俺たちの場合は転移門で大抵の所には行けるんだが、空滑機改も中々便利だ。
軍なんかはこれの更に大型版が出来ないかとシェフィート商会が相談されたが、必要になる魔石量がぐっと増えるんで、研究したいんだったら国の方で好きにやってくれ(ただし俺たちの魔術回路をつかうなら特許料をよろしく!)と返してある。
そのうち大型空滑機改が開発されるかもしれない。
少なくともこれまでの国関係の依頼では少人数で動き回る状況ばかりだったので転移門か空滑機改しか使っていないが、どうなったんだろう?
方向性さえ示せば、魔術院の研究部門も中々出来る奴らがいるようなので既にこっそり出来ている可能性はありそうだ。
考えてみたらこっそりやって魔術回路の特許料を払っていないんだったら当事者である俺を乗せる訳はないだろうが・・・いつか何か国の緊急依頼で突然大型の空滑機改が出てきたら、過去の分の特許使用料を無断使用の罰金を含めて思いっきりふんだくらねば。
非常事態に使う特殊任務隊用みたいのがあっても不思議は無い。
そして秘密な特殊任務隊用だったら魔術回路の特許料を払うような登録作業もやっていない可能性も高いだろう。
まあ、国の為っていうのは回り回ったら俺たちの知り合いの命を助けることに繋がるかも知れないから、金さえ払ってくれれば極端に文句は言わないが。
「レディ・トレンティス!
お久しぶりです。
いつ見ても素晴らしい庭ですね!!」
ケレナが親し気にレディ・トレンティスに抱き着きながら挨拶をしていた。
おお~。
思っていた以上に親しいらしい。
「おばあ様、お久しぶりです!」
シャルロも嬉し気にレディ・トレンティスを抱擁して挨拶していた。
ガキだったシャルロが結婚しているんだから、考えてみたら学生時代からそれなりに年月が経っているんだが、レディ・トレンティスは殆ど変わっていない様に見える。
まあ、変に加齢を認めずに悪あがきしているんでなく、穏やかに老いているタイプの老婦人ってある意味変わっていない様に見えるからなぁ。
却って筋肉が落ちて肩回りの厚みが減っていく男の方が年の衰えがはっきり分かる気がする。
女性側から見たらもっと色々と細かい点で変化が分かるんかもしれないが、俺から見たらお上品で綺麗そうな婆さんがそのまま変わらずって感じだ。
昔来た時はイチゴが美味しかったが・・・今は季節じゃないよなぁ。
ちょっと残念だ。
「ちょうど美味しい桃と葡萄が生っているのよ。
なんだったら少し収穫を手伝ってつまみ食いしたらどう?」
屋敷の中に入りながらレディ・トレンティスが勧めてきた。
お。
桃と葡萄か。
ワインは大して好きじゃないが、葡萄は好きだ。桃はあまり縁がないが・・・きっとこの老婦人が勧めるってことは美味しいんだろう。
ついでにシェイラにもお土産に少し貰えないかな?
でも、次の休息日までに悪くなるか?
「いいの?!!
やったぁ!!!」
シャルロがガキのように喜んで飛び上がっていた。
これは期待が出来そうだな。
日差しの中で果物の収穫をするっていうのはちょっと暑そうだが・・・持ってきた試作品には遮熱機能は付いてないんだよなぁ。
・・・自前の魔力で結界を展開すれば良いか。
桃と葡萄か。
楽しみだぜ。
遺跡を見に行くのは果物を味わってからで良いよな?
現場はウィルが空滑機の特許持ちだと知らないだろうから、うっかり無断使用している機体に乗せちゃいそうw




