881 星暦557年 萌葱の月 13日 久しぶりに遠出(2)
今回の遠出の話はちゃんと俺たちに提案する前にレディ・トレンティスとケレナには根回ししてあったらしく、俺たちが賛成したらあっさり2日後に出発となった。
今年は紺の月に俺たちの仕事は中断したものの、パストン島に行ったせいで孫が遊びに来れなかったレディ・トレンティスがそれとなく寂しさを訴えていたのかもな。
何か物凄く簡単にケレナの仕事(手伝いと言っているがありゃあ実質仕事だろう)もシャルロの屋敷の世話も、何やら一族の誰かしらが手伝いの人員が行く話が決まって翌日にはそいつらが来て引継ぎもあれよあれよという間に終わっていた。
俺たちの家の方にも誰か寄越そうかと言われたが、こっちはパディン夫人が残るので特に問題はないと辞退した。
元々、長期に留守にする際には結界を張ってパディン夫人とその旦那、及び近所の時々手伝いに来る女性しか入れない様にしてあるし、工房そのものには誰も入れない様にしている。
だから下手に手伝いの人員なんて来られたら面倒なんだよな。
工房には書類や試作品が山積みになっているので、何か盗もうと思って忍び込んでも狙った情報を見つけるのに苦労するとは思うが・・・一応アレクがそれなりに整理整頓しているのでアレクの整理方法が分かれば色々見つかるだろうし、いざとなればごっそり全部盗むというのも不可能ではない。
まあ、シャルロと俺が重要な書類や試作品に血を一滴ずつ垂らしてるので、本当に盗む人間がいたら清早か蒼流が直ぐに追跡できるが。
基本的に魔術回路とかは実用出来るのは一応特許登録してあるのが殆どだから、態々盗みに入っても大したことにはならないとは思うが。
金の方は魔術院の口座なので会員カードの魔力登録に一致しなければ引き出せない。
家の中には殆ど金や宝石と言った物は置いてないし、盗みに入るアホはいないとは思うが・・・嫌がらせで工房を破壊されては困るので、敷地への立ち入りを制限しているのだ。
敷地内に火を放つのは炉に居る事が多いサラマンダーに止めるようお願いしてあるし。
最近は俺も色々と意図せずに活躍しちゃっているし、俺たちの事業もそれなりに成功して嫉まれている可能性があるからな。
どうせなら手を出させて完膚なきまで叩き潰す方が良くないかとも提案したのだが、下手に敵は増やさない方が良いと説得された。
ある程度分かる範囲に敵がいる方が、下手に手を出させてそれを木っ端みじんにした後に敵意を持つ人間に隠れて変なことをされるよりも対応しやすいとのことだ。
まあ、本当に侯爵の子息で水の大精霊の愛し子であるシャルロに手を出すアホがいるとはちょっと信じがたいが・・・俺関連の程度の低い悪人とか、事業絡みの妬みで行動を起こすアホな商家の跡取りとかがちゃんと下調べをせずに行動をとる可能性はゼロではない。
悪人も、本当にすごい奴だったら情報収集とか危機管理がしっかりしているから面倒な相手には目障りでも手を出さないのだが・・・密輸とか盗聴とか機密窃盗とかに手を出す連中が必ずしも賢いとは限らないからなぁ。
国からの依頼で相手の事を調べる暇もなく叩き潰すのに関与する羽目になり、しかも叩き潰すのも自分でやるんじゃないせいでしっかり徹底して関係者を全部確保しているかも不明なので、用心はしておくに越したことは無い。
結婚はしていないものの恋人であるシェイラに何かあったら困るから、一応彼女にも護身用の魔具を渡そうとしたのだが、既に本人が一流の物を持っていた。
親父さんからも渡されているらしいし、本人も兄貴のアホ具合が分かった頃から色々入手して機能も適時最新版に更新しているらしい。
そろそろあのアホ兄貴も変なことをする経済力が無くなってきて諦めも付いているんじゃないかとも思わないでもないが、どうも商会の跡取りがすんなり決まらないせいで中途半端に色々と長引いているらしい。
あのアホはまだしも、他にも兄弟とか従姉妹がいるらしいのに中途半端に出来る(出来ない?)人間が揃っているせいで中々決まらないらしい。
最近は親父さんもだったら諦めて商会を一族外に委ねることも考えて始めているとシェイラが言っていた。
『やっとよ』と笑いながら言っていたので、どうやら親族連中はどれも合格点には達していないというのがシェイラの評価らしい。
まあ、それはともかく。
俺たちは朝食後にサンクタスの方へ出立することになった。
突然の旅行は根回ししとかないと女性陣に不評ですよねw




