874 星暦557年 萌葱の月 2日 水除け(13)
「暑い~~!」
取り敢えず試作品として俺たちの家の敷地全体をカバーする水除け兼防風結界の魔具を作成して、稼働してみたのだが・・・。
風が無いと、晴れている日だとどんどん温度が高くなることが判明。
そう言えば、温室とかって実質この結界と同じようなもんだよな??
水と空気の動きをある程度遮り、日光だけ入れる構造。
そうする事でここら辺では育たないような南国の植物が育つとか、もっと北部でここら辺の植物が育つことを考えると、温室やそれ同等の条件の中が暑くなるのは当然の結果なのだろう。
「家の中まで暑くなってきた!!
2階の方が1階よりも涼しいなんて、初めてだ」
魔石の消費量の確認を兼ねて午前中一杯魔具を動かしておこうという話になって朝食直後に起動したのだが、最初は庭が心持ち暑いかな・・・?という程度だったのが、2刻経った時には工房の中まで暑くなり、嫌気がさしたパディン夫人は買い出しに出て行ってしまった。
面白い事に、結界の外である2階は窓を開けてあるせいか涼しいらしい。
1階は窓を開けても風が通るどころか却って庭から暑い空気が入ってくる感じで、窓は閉めた方がまだマシといった状態だ。
「冬でも晴れていればガーデンパーティが出来そうだが、庭に花も無いだろうし現実的ではないかな?
取り敢えず、魔石の消費量を確認してもう切ろうか。
もうそろそろちょっと耐えがたくなりそうだ」
暑いのに弱いアレクがうんざりしたように汗で湿った前髪をかき上げながら言った。
「こりゃあ、ある程度の風を通すようにしないとダメだな。
結界の上だけ風を通すようにするか、もしくは風の速度を指定した範囲内まで弱める効果にするか、考えないとだな」
暑い空気は上の方に溜まるから、結界の上部で風が流れる様にしたらかなりの分の熱は逃がせられると思うが・・・どの程度それが結界の中に立っている人間に影響を与えるかは要確認だな。
というか、暑い夏なんかだったら風が吹きつけて汗を乾かして体を冷やす効果がないと、庭に出るのは元より不快なぐらい暑いかも?
「贅沢なことを言うなら、涼しい風を吹かせる仕組みにしたら更に喜ばれそうだけどね~。
風の入り口付近に氷水でも置いておいてそこを風が通る感じにしたら、魔術回路で空気の温度を下げなくても涼しく出来そうだけど」
シャルロがちょっと首を傾けながら提案した。
「真冬ならまだしも、真夏に氷なんぞ入手するのにどれだけ金が掛かると思ってるんだ。
それだったら空気の温度を下げる魔術回路を使う方が安上がりだろ」
飲み物を冷やすのは魔術学院学生の夏休みの実入りの良いバイトの一つなんだ。
簡単に氷が手に入るんだったら、夏休み中のガキに金を払う相手をああも簡単に見つけられる訳がないだろう。
「地面の方が温度が低いのは確かだから、下の方から空気を入れて、空気の流れ道の傍に水があるようにしたら多少は風の温度が下がるとは思うが・・・その手間が魔術回路で空気を冷ますよりもマシと思われるかは微妙かも知れないな。
どうせだったら水は使わずに魔術回路で冷やした空気を送れる機能を外せるようにして、室内でも使える様にしたら庭に出る予定がない日でも使えて良いかも知れない」
アレクが提案した。
「確かに部屋を暖める魔具があるのに、冷やす魔具ってないよね。
送風機と湿度を下げる魔具はあるのに。部屋の温度を直接下げるのって魔力消費が激しいからってことで送風機で済ませていたけど、風の温度を下げれば部屋の温度も下がるし、庭でも結界の中の温度を快適に維持出来そう」
シャルロが賛成した。
「結界の中に冷風を入れて暑い日でも快適な温度にするのと、単に風を通して温室みたいに暑くならない様にするのとではちょっと話が違うぞ?
冷風で周囲よりも涼しくするつもりなら外からの空気の流入は最低限にしないと、どんどん暑い空気が入って来るんじゃあ魔力の消費が大きくなりすぎる」
それに考えてみたら、日が当たって暑くなるなら結界に熱を遮る機能も足したら少しはましになるかも知れない。
庭の風景を楽しむのに結界が日光を遮って暗いんじゃあ困るが、あまり明るすぎると目が疲れる。多少明るさを軽減して、ついでに日光に含まれる熱も排除したら温室効果がマシにならないか?
色々と実験が必要になりそうだな。
どちらにせよ冷風機は室内用に販売しても売れるかもだが。
それこそ舞踏会とかで部屋の温度を下げられたら、ケレナみたいなドレスが汗だくになって嫌だって不満も減るんじゃないか?
上に溜まる暑い空気を逃しながら冷風を流すのが一番良さげだけど、逃した後に入れる空気が暑かったら非効率かな?
それでも逃した空気よりも暑くなければ良いだろうけど、判断機能を付けるのって難しそう・・・




