872 星暦557年 翠の月 30日 水除け(11)
「へぇぇ。で、その微妙な違和感もでない様に修正した大型水除け結界を作るのに成功したのね?」
あれから色々と調べ、試行錯誤して最終的には生き物は完全に対象外とする条件の結界にすることでなんとか問題は解決した。
と思いたい。
最初は『血』を対象外にしようと思ったんだが『血』の定義が中々難しくて挫折した。
侵入防止用結界での登録みたいに承認済み対象を無視する魔術回路なら色々と特許切れのもあったんだが、貴族のガーデンパーティなんて使用人の数も凄い事になるので、それを全部登録できるだけの魔石を使うとなったらバカ高くなるので断念。
純粋な水以外は無視とすると、泥水がガンガン入ってくるのでこれも駄目。
粘度のある水は無視ってするとこれまた泥水も入ってくる。
色々と試した結果、『生き物』は除外ってすると生き物の中にある液体とかも全部無視できたので、それになった。
どうせガーデンパーティをするような貴族や金持ちの使用人なんてそれなりに給料をもらっていて健康なのが多いんだから、もう無視しても良いかな~とも俺は思ったのだが・・・ケーキやお茶を運んでいるメイドがふらついて倒れたりしたら不味いので、諦めずに執念で頑張ったのだ。
お茶が零れるだけならまだしも、ケーキがお皿から落ちて無駄になるかもというのがシャルロ的には絶対に許容できなかったらしい。
あと、当然の事ながらお茶そのものを排除しても困るのである程度以上纏まった容量の液体も無視する様にした。
お茶のポットだけで無く、場合によっては庭に池がある邸宅もあるからな。
足元に大きな水たまりがあると困るのだが・・・そんなのが出来る前に魔具を起動して貰うしか無い。
「そ〜。苦労したんだぜ。
あ、こっちは普通に歩き回る用のね。
腰のベルトに付ける感じなんだが、最初に使う際にこれをこうやって足の長さ分の調節をすることで靴が濡れるのもかなりの部分は防げるはず。
ヒールの高い靴なんかを履く場合は微調整した方が良いかもね。
で、こっちは肝心の馬車止めとかの大型水除け結界だが、庭とかで雨の中でも優雅にお茶を楽しむのにも使える。
もしも雨の中で野ざらしな遺跡を発掘することになったら、それにも役に立つかも?」
一応シェイラ達は発掘現場にテントを張ってるし、恒久的な遺跡だと風や雨で劣化しない様に小屋を上に作っているようだから特に必要はないかもだが。
「え??
なにそれ、素晴らしいじゃない!!!」
個人用の水除け魔具を弄っていたシェイラがぽいっとそれを投げ捨てて大型水除け魔具に飛びついた。
まあ、そっちの方を喜ぶかもとは思っていたけど、個人用のも投げないでくれよ~。
「今普通の雨で、入っている魔石で1日程度もつかな?
だから長期的な遺跡発掘で使うには費用が掛かりすぎると思うが、何かを掘り起こし始めた時点で急に雨になった時なんかに使ったら良いかもね」
元々常に金欠を嘆いている遺跡発掘隊だ。
魔石をガンガン使うのは厳しいだろうから、非常時用だろう。
「ちなみにこれって暴風雨の中で使ったりしたらどうなるの?」
シェイラがちょっと考えてから聞いてきた。
「暴風雨???
水しか止めないから風で飛ばされた枝とか葉っぱとかは入って来るし、中の人間も風で押されるぞ?
大抵暴風雨の時って雨の水量も多いから早い目に切れる可能性もあるし」
ガーテンパーティも暴風雨だったら延期するだろうと思ったから風や風で飛ばされた物を止める仕組みにはなっていない。
・・・それとも婚約式とかだったら暴風雨のなかでも決行したいって人間もいるのか??
でも、それだったら諦めて魔術師を最初から雇ってもらう方がいいだろう。
「ここみたいな野ざらしな遺跡だと、掘り始めて何か良い物が見つかったら上に小屋をやテントを建てて日差しや雨風で劣化しない様にするんだけど、暴風雨なんかで偶にテントや小屋の屋根が飛ばされたりすると大騒ぎなのよ。
掘り始めた後に小屋が出来上がる前に降られても困るし。
単発的に使う分だったら多分魔石代も何とかなると思うし、非常時用だからね」
シェイラが教えてくれた。
確かに遺跡の所のテントは当然ながら、小屋もかなりちゃちなのが多かったからなぁ。
適当に手が空いている大工に安く頼んでいるか、そう言うのがいない時は発掘隊の人間が自前でやるかだからどうしても質は微妙になるのだろう。
まあ・・・偶にだったら遊びに来た際に魔石の再充填をしてやってもいいし。
魔石をシェイラの為に充填しているとバレたら、魔石充填要員として休息日のたびに発掘隊の皆に集られそうw




