869 星暦557年 翠の月 27日 水除け(8)
「お、意外と大丈夫か?」
足元に向けて大き目な球面の水除け結界を展開する形にしてみたら、そこそこ良い感じに足元の水を押し除けつつも他人に極端に水を掛けずに歩けることが判明した。
「大股で走るとダメだけど、小さ目な歩幅だったら軽く走っても大丈夫だし、これで良いかな?」
庭の周りを小さな雨雲と一緒に走り回っていたシャルロが言った。
人間の上を小さな雨雲が追尾して動いているのって非常に違和感がある風景だ。
周囲への影響を最小限にして水除け魔具の効果を試すのにはあれが一番良いんだろうけど。
走っても大丈夫というのは良い事だ。
大股で走れないというのはちょっと困るが。
女性ならまだしも、普通は走る時って急ぐから大股になるんだけどなぁ。
そうなったら諦めるしかないか。
雨の中で全力疾走なんて滅多にしないし、考えてみたら小股で走る方が滑ってバランスを崩したりしにくいから、意外と雨の中だったら大股で走ったりしないかもだし。
最近は人に追いかけられて(追いかけてもだが)必死で走ることが無くなったから、イマイチ雨の時の走り方が記憶にない。
まあ、雨の中で必死で走る必要が生じた場合は多少濡れるのは諦めて貰おう。
「大股が駄目ってことは馬には使えなさそうだが・・・首と尻尾の辺にでも2つ下向き用の魔具をさげることにするかな?」
ちょっと考えながらアレクが言った。
そう言えば、馬の遠乗りにも使いたいって言っていたっけ。
「というか、馬に使うとなったら人間用の物をそのまま使うのは無理があるだろ?
防寒・防御用結界の馬版ってどうなっていたっけ?
あれって単に中央部から大きくしているだけだったか?」
だったら足元の跳ね防止のために首と尻の辺に下向のを付ければ良いのかもだが・・・馬の歩幅ってかなり大きくないか?
しかも早足程度でかなり泥が飛び散るようになるよな??
本当に必要なのかね?
まあ、雨ですら遠乗りに用も無く出かけるような金持ちな馬好きだったら、高くても愛馬の為に魔具を買うのかもだが。
とりあえず作って売れなかったら販売停止だな。
そこら辺はシェフィート商会が金持ち層にそれとなく感触を探って製造数を調整するだろう。
「そう言えば、ついでにこの水除け結界を使って靴とか靴下とか濡れた上着とかの水分を払って直ぐに乾く様にする魔具を作るのはどうかな?
出歩くのには傘だけで良いにしても、帰宅後とか職場に着いたところでびしょ濡れな靴や上着をさっと乾かせたら大分と快適な感じになると思わないか?」
そっちだったら一軒に1個で済むから個人で水除け魔具を買う程金が余っていない人間でも欲しがるかもだし。
「ふむ。
洗濯物やバスタオルとかも乾かせたら、雨が降らない季節などにも使い道がありそうだな。
靴に使う魔具を洗濯物に使ったら汚れが移るかも知れないが」
アレクがちょっと首を傾げながら言った。
あ~。
確かに。雨が無い時に使い道があったら良いが、洗濯物やバスタオルに泥だらけの靴についていた汚れが移ったら嫌だよな。
「こう、結界の範囲がはっきり分かるように適当な高さとサイズの枠でも作って、そこの中を濡れた物を通す感じでやったら汚れが付かずに水だけ排除できないか?
なんだったら下にゴミを集める掃除機機能を付けても良いし」
水だけ排除する結界だったら上着や靴でも通せるはずだから、濡れた物を結界に通す感じで動かせば一気に水が抜けるんじゃないかね?
「そんな簡単にいくんだったら誰かが今までに作っていそうじゃない?」
ちょっと疑わし気にシャルロが言う。
まあなぁ。
「取り敢えず、試してみようぜ」
理論的に水を完全に脱水するかを確かめるだけなので、魔具でなくても構わないのだ。
自分で水除けの結界を展開し、庭の水溜りに浸して水だらけにした雑巾を結界の中へ向けてぶんっと通してみた。
ビシャア!!
「うわ!!」
雑巾の動きと同じだけの勢いで水が結界から跳ね返され、周囲に飛び散る。
「悪い」
謝りながら雑巾を広げてみた。
・・・なんかちょっと変な感じに濡らした部分が伸びている?
「結界を通る際の水の排除が瞬間的ではないようだな。
水が抵抗みたいな感じになって生地が引っ張られたんじゃないか?」
見ていたアレクが指摘した。
おやま。
水が抜けるのって抵抗になるのか??
雨の中で歩き回る時に特に何にも変な力を感じなかったから気が付かなかったが、布とかから水を排除するのは一瞬では済まないのか。
雑巾ならまだしも、ジャケットとかが変に伸びたら困るな。
靴でやったらどうなるのかも試してみよう。
皆さん水避けの試作品を身に付けていたので、雑巾の水から直撃は受けていませんw




