867 星暦557年 翠の月 25日 水除け(6)
靴の下まで一体式の結界を展開する方が足元だけ下向きに別の結界を必要とするより製造費が少なくなるということで、まず先にシャルロの提案した土を対象とせず水だけを排除する結界を足の下2イクチまで展開する試作品を作ってみることにした。
地面の上から勝手に展開するデフォルトではなく、態々計って靴の下方まで展開するので多少手間がかかるが、内容は最初に作った水除け魔具とほぼ同じだ。
「うん、水たまりの上に立っても余程深くない限りは水が退くから大丈夫だね」
庭に出たシャルロが最近の局地的・一時的に雨続きなせいで水たまりになった窪みの上に立ってこちらに声をかける。
「ふむ。
腰のベルトに付けた魔具からの距離だから、余程変な角度で水たまりに足が嵌らない限り、大丈夫そうだな」
アレクが横から覗き込みながら言う。
「じゃあ、歩き回ってみたらどうなるか試してみてくれ」
水たまりが出来る場所に立ってから雨を降らしていたので、水たまりに踏み込んだりしたらどうなるかはこれから確認だ。
「よいしょっと」
水たまりに向かってシャルロが元気に足を進め・・・かなりの勢いで水が正面に立っていた俺に飛んできた。
「うぇぇぇ!!」
俺も雨除け魔具の試作品を身に着けていたから水に関しては大丈夫だったが、良く見たら膝下辺りはかなり土埃まみれになっている。
なる程。
泥水が結界で蹴り上げられて飛んできて、こっちの結界で水を排除すると土埃だけ舞うのか。
なんだって最初に泥水が跳ねる段階で水と土が分離しないのか不思議だが。
「結界で排除する水の勢いが強すぎないか??」
周りに迷惑にならない様にそれなりにゆっくり水を押し出す感じになっている筈なのに。
「・・・結界の動きが押し出しているからだな。
シャルロが歩くのに合わせて結界が動き、それが結界の排除機能に相まって水を加速させているんだと思う」
俺の奇声に驚いて立ち止まったシャルロを再び歩かせて観察していたアレクが言った。
なるほど。
立ち止まっている分には大丈夫だが、歩いている人間が誰かにぶつかるのと同じで、歩いていると本人はそれ程早いつもりはなくても意外と勢いはあるのか。
走っていたりしたら更に凄い事になりそうだな。
「前回の試作品ではそれ程凄い感じなかったのに?」
シャルロが軽く首を傾げる。
「足元までやるようになって地表の泥水が巻き上げられて動くから、排除される水の量が一気に増えたんだろう。どうも歩く時の角度で多少上方に角度を付けて水が弾かれているようだし」
アレクが手を下から振る様に動かしながら言った。
「進行方向に雨除け用魔具を持っていない人間が居たら滅茶苦茶迷惑だぞ、これ。
しかも何故か巻き上げる方は泥水を土ごと蹴り上げているのが、水を掛けられる方は結界で水だけ止められるせいで足元が土埃だらけになる」
泥水だらけになるよりはましだが、どうせだったら泥水をそのまま結界で留めれば良いのになんだって受け止める方だけ水と土埃が分離するんだ??
「どうも歩く時の加速だと水に混じった土埃ごと水が排除されるのに、水を掛けられた方の減速は突然水が結界に当たって静止状態にされるせいで土埃だけ先にそのまま進んじゃうみたい?
加速減速は関係ないかもだけど、どちらにせよ不思議だね。
もしかしたらウィルが歩いていたら泥水も泥水として下に落ちるかも?」
シャルロの提案に沿ってズボンの土埃を払ってからシャルロの前を歩いてみたところ、確かに今度は殆ど土埃が付かなかった。
とは言え。
待ち合わせとかの立ち止まっている人に向かって歩いたらそいつの足元を泥か土埃だらけにするということに変わりはない。
非常に迷惑だろ、これ。
「う~ん、ちょっとこれは迷惑過ぎるな。
結界の外に完全に水を撥ね飛ばすんじゃなくて、更に大き目な結界の中に水を閉じ込める感じにした方が良いか??」
アレクが顔をしかめながら言った。
「取り敢えず、ウィルの提案した下向きに球形の結界を展開して歩くとどうなるか試してみない?
足元から水をはじくのに態々それを近くにとどめるためにもう大きな一つ結界を展開するってちょっと間抜けな感じがするし。
出来れば緩やかに周囲に押し出す形になって貰う方がいいよね」
シャルロが二重結界の案に微妙な感じの異議を唱えた。
まあなぁ。
態々結界でどける水を近くに抑え込むってちょっと間抜けっぽいよな。
展開する結界の数が増えたら魔力消費量も増えるし。
取り敢えず下向きな緩い球形だとどうなるか、試してみよう。
物理的に何かを作り出しながら歩くのは時間と魔力が掛かりすぎるので結界にこだわっていますが、プラットフォームシューズを履くのが水溜まり対策には一番お手軽な気もw




