866 星暦557年 翠の月 24日 水除け(5)
虫除け結界で試したことで既に地中を範囲内に収めると結界に必要な魔力消費量が激増するのは分かっていた。
なので地表沿いに展開する結界にしたかったのだが・・・。
「意外と地表沿いって術を展開する需要がないんだね」
幾つか魔術院の特許の中を探し回った結果の試作品を試し終わったシャルロがソファに身を投げ出しながら言った。
平らな表面を想定して展開する魔術回路は幾つかあったのだが、デコボコでもその表面に沿って『地表』と認識させて機能する魔術回路が無かったのだ。
結界の術は元々地面に触れた地点から上に範囲指定して半球型もしくは円筒型に展開するのが多いのだが、この地面に触れたところから深さ2イクチ水平に地中も併せて水を排除という風にやってみたらやはり魔力消費量がかなり大幅に増える上に、深い水たまりだと下に水が残っている場合もある。
坂だと上手く機能しないし。
「つうかこれって防風・防御結界も坂の上だったりすると片側が開いているのかな?」
思いがけない結果にふと疑問を感じる。
「まあ、そうらしいけど一応前側を基点にしているからしゃがみ込んで休んでいる時とかはほぼ大丈夫らしいね。
坂や山を登る間はどうせ運動量が激しいからちょっとぐらい冷たい風が後ろから入っても大丈夫だし、地表の勾配程度の隙間から攻撃を差し込める腕前の山賊はいないから」
アレクがあっさり教えてくれた。
なるほど。
魔具の地面を認識する起点は一か所だが、その場所を選べば防寒・防御結界だったら特に問題はないのか。
「表面に沿って展開する結界で水を押し出すか、もしくはもう足の下に力場を展開してその上を歩く様にするのが一番じゃないか?」
浮遊型台車に近い形だが、何か足が乗る台っぽい力場が無いとバランスを取りにくいだろう。
「流石に人が乗れるほどの結界強度を発揮しようとしたら魔力消費量がとんでもないことになると思うぞ?
表面上を沿う魔術回路を探そう」
アレクが力場のアイディアを却下した。
まあ、そうだよなぁ。
つうか、雨の日はあの浮遊式台車に乗って移動すれば良いじゃんという気もするが、あれはあれで使用者が地面に足をついて後ろから手に握っておかないと止まるか勢いがつき過ぎかねないから、ちょっと雨の中を歩くっていうのには向かないか。
「考えてみたら、固定式な馬車止めとかに使う水除けは設置する方向を気を付ければ良いけど、歩いている際に使うと周りにバシャバシャ水をかけて歩くことにならない、これ?」
ふとシャルロが指摘する。
「確かに。
そうなるとやはり靴の裏に何か付けてそこから結界を展開して水を小範囲で押しやる感じにするか?」
靴の裏っていうのは一番地面とぶつかって消耗が激しい部分なので、そこに魔具を設置するというのはかなり経済的には無駄な行為になるが。
「靴の先にでも結界展開の起点を定義するような物を付けて、そこから結界が展開し続けるような形にしたらゆっくり足元から水が押しやられているような状態に出来ないかな?」
アレクが提案する。
「極短時間の結界を繰り返し展開することで水を押し出す速度をゆっくりにするのか?
まあ、ありかもだが・・・やはり靴に魔具を付けることになるのがなぁ」
靴の先って言うのも意外とあちこちにぶつけるぞ?
「って言うか、地面は突き抜けないけど水を許容しない結界を地面近くで展開したら結果的に地表を沿って展開する形にならない?」
シャルロが手をふにゃりと押し出すような形に動かしながら言った。
「体部分の結界とは別の物にするのか。
別物にする必要あるかな?全部地面は突き抜けない仕様でも良いのでは?
最初に身につける時に装着位置から地面までの長さの測定をして、その記録させた距離まで結界を展開させたらどうだろう?」
「いや、最初に長さ測定するならその足元から下に向けて水除けの結界をごく緩い球形に展開するようにしたらそれで水をどけないか?
地面に関しては最初から結界の対象にしなければいい」
地表に沿って横向きに展開していく結界を漠然と想定していたが、考えてみたら上とは別にもう一つ下向きに結界を展開したって構わないのだ。
緩い球形にすれば水が外側に押し出されるが、それなりにゆっくりにならないかな?
シャルロとアレクの案は足元でも横向きに結界を展開してます。
ウィルのは足元だけ下向きに展開。




