863 星暦557年 翠の月 21日 水除け(2)
「次の開発で何か考えているのあるか?
特にないんだったら水除けなんてどうかな?」
翌朝、シェイラの元から帰って工房でお茶を飲みながらシャルロとアレクに提案してみた。
傘なんて基本的に馬車で移動する貴族にはそれ程必要ないから長時間向けは平民用になるから高くしたら売れないし、現時点で濡れて普通に行動してもちょっと風邪をひく程度と考える人間が多いので必ずしも需要があるか分からないから、何か他に開発したい物があるなら後回しで構わないけどね。
貧しいスラムとか下町の人間にとっては風邪も命に関わりかねない脅威だから、濡れない為の道具って言うのは非常に重要なんだが・・・貧しい人間はそんな魔具を買う金は無いからなぁ。
つうか、魔具を買う金があったら先に食料品を買って栄養状態を良くするべきだ。
栄養状態が良い中層レベルの職人や商人は風邪程度じゃあ滅多に死なない。
とは言え、濡れたら色々と不快だし、不便だから程よい値段で欲しい機能が付いていれば売れるんじゃないかと思うんだけど。
「水除け?
雨除けではなく?
傘じゃ駄目なの?」
ちょっと首を傾げながらシャルロが聞き返す。
「上から降ってくる雨水だけだったら傘をさせばまあ何とかなるじゃないか。
俺としては下から撥ねてくる泥水を防いでこそ、態々魔具を買う価値が出てくるんじゃないかと思うんだ」
なんと言っても、雨水は拭いて乾かせば済む。
多少埃が沁み込むかな?という程度で、叩いて埃を払えば良い程度だ。
だが泥水はなぁ・・・。
かなり執拗に汚れがへばりつくし、靴の中が濡れると異臭がしてくる。
はっきり言って、足元の水関連の被害の方が俺的には大きい。
「なるほど。
泥の跳ねを防ぐことも考えるなら、雨の後の遠出なんかで馬の脚が泥だらけになるのも何とか出来ると欲しいな」
アレクが口を挟む。
そっか、しっかり排水で来ている道以外だと泥って雨の後も暫く残るんだった。
馬用も兼ねれば貴族用にも売れるかもだし。
基本的に出歩く時はアスカに頼んでいるから、地中では雨上がりはあまり関係ないから気にしてなかった。
「確かに泥が跳ねるのを撃退できるならケレナも喜びそう。
いつも雨の後は泥だらけだ~って怒ってるからね」
シャルロが嬉し気に付け足す。
そう言えば、ケレナって未だに実家で馬や鷹の訓練とかを手伝っているらしいから、雨の後は中々壮絶に泥まみれになりそうだな。
・・・考えてみたら、そう言う訓練の手伝いって報酬を貰っているんかね?
売り出す馬や鷹の価値増加に貢献しているんだから、ある程度金を受け取るべきだと思うが。
一族の事業みたいな感じで、利益からの分け前になるのか?
まあ、シャルロの家はそれなりに金持ちだし、ケレナの実家も金には困っていないらしいから適当にやっているんかもだが。
それはさておき。
「馬の脚の泥までとなるとかなり範囲が広くなるな。
ちなみに、水たまりをうっかり踏み込んだ際に靴の中が濡れないようにもしたい」
酷い雨の中に出かけることは余りないが、出かける場合っていうのはそれなりに切実な理由があるから、靴の中がびしょびしょになっていても替えを取りに行けるような状況じゃないんだよなぁ。
「う~ん、跳ねた泥水を防ぐのは結界で何とかなりそうだけど、水たまりを踏んでも大丈夫って言うのは厳しくない?」
シャルロが首を傾げる。
「だが、確かに水たまりに踏み込んでも大丈夫というのは重要かもしれない。
商業ギルドの馬車止めも定期的に砂利と土を入れて均しているんだが、使用頻度が高いせいでどうしてもあちこちがへこんで雨が降ると水たまりだらけになるんだ。
馬車から降りようとした時に足元が浅い池のようになっている時の苛立ちは・・・中々不評だ」
アレクが教えてくれた。
あ~。
貴族だったらパーティを開催する前にちゃんと家の前の馬車止めの整備をするが、商業ギルドみたいにひっきりなしに馬車や人間や荷馬車の出入りがある場所だと、どうしてもそこら辺の整備が遅れがちになるんだろうな。
「商業ギルドだったら水除けの結界を馬車止め一角全部に展開して、上も下も濡れないようにしたらどうだ?
個々人に魔具を買わせるよりも経済的だと思うが」
流石に商業ギルドに来る人間全員に足元の水除け用魔具を買うことを期待するのは無理があるだろう。
「ふむ。
商業ギルドに売り出して、貴族用には売り出しだけでなく貸し出しをしてはどうかと提案しても良いかもな。
季節によって需要は変動するだろうが、王都の貴族全部が持っている必要はない」
アレクがにやりと笑った。
「パーティの際に濡れないで済むって言うのはそれなりに格が上がって評判になるかもだしね」
シャルロが指摘する。
確かに、ドレスやタキシードを着ている連中にしてみれば、雨が降っている時に出かけるんだったら確実に濡れないと分かっている屋敷を選ぶだろう。
そうなるとどのくらい招待客を呼び込めるかでしのぎを削っている貴族の婦人たちも欲しがるかも?
ちょっと脱線。
個人用も後で開発する・・・筈




