855 星暦557年 青の月 18日 魔術回路の素材(5)
「う~ん、やっぱり変に機能は増やさない方が良くない?
通信機と転移箱を一緒にして、通話している人から送られているって確認できる機能ってだけで良い気がしてきた」
魔石と魔術回路を足していけば一つの箱に色々な機能を足した魔具にするのは十分可能だ。
魔力消費の効率性とか製造費とか使い勝手とかは工夫次第だが。
ということで市販の転移箱を購入して、それに通信機と映像用魔具の機能とを組み合わせてみたのだが・・・倍以上に大きくしないと全部の魔術回路を変な干渉なしに動く様に組み込めない上に、必要な魔力消費量もかなり大きくなった。
勿論、映像用魔具や通信機能を使わなければそちら用の魔石は消費しないが・・・だったら組み込む必要も無いだろうという話になる。
使わない魔石を各機能ごとに付けておくのは勿体ないが、かといって全部に共通して使えるだけの魔石を入れておこうとすると魔石のランクが上がるせいで高くなる。
「言い出しっぺはウィルだろうに。
だがまあ、確かに便利そうだと思ったが無くても特に問題は無さそうだから、高くなることを考えると無駄かな?」
苦笑しながらアレクが応じる。
「便利な機能って使い始めたら無かった頃の事を思い出せないぐらい活用することもあるけど、高くなると最初から買わないことも多そうだからね~。
写しが必要なら、送った本部の方で映像用魔具を作って写しを作れば良いか」
シャルロも大きくなった試作品を見て、『売れんだろ、これ』という思いを共有したのか、あっさり頷いて合意した。
「通信機はどうする?
軍の方はかなり書類のやり取りに煩いみたいだから、送りっぱなしで誰かが気付けばいいやって訳にもいかないかなぁと思って、確実に会話した人が送ったって分かる形にすれば今の手渡しの代替手段として売れるかと考えたんだが」
転移箱を使えばいいじゃないかという話そのものは既にこの前の仕事の際にファルナに提案したんだよね。
だが、権限が無い誰かが勝手に転移箱に紙を突っ込んで送ったかも知れない書類なんぞ承認要請や機密情報もあり得る情報の伝達に使えないって言われた。
「今の転移箱って設定変更の為に送り先と送り元の魔具を同じ場所に持って来て同期しなければならないから、面倒なこともある。
だから、通信機を使うことで同期できる機能を付けて、携帯型通信機と同じように相手と共鳴するように設定した魔石があれば複数の転移箱と連絡できるようにすれば、転移箱で新しい魔石を送ることで別の誰かとの連絡も直ぐに出来るから便利だろう。
それに、ある意味簡単に転移先を変えられるからこそ、通信機で相手と確認してからじゃないと送れない様にするのも重用かもしれないな」
アレクが応じる。
まあ、転移箱の設定変更を通信機と同じように出来るならば、だが。
それ程難しい仕組みじゃないと思うが、開発者がそう言う風に造らなかった理由があるかも知れないからやってみないと分からない。
「でも、通信機で相手と確認してからじゃないと送れないって不便じゃない?
それこそ夜遅くなった時に『仕事で忙しかったけど明日の朝帰れそう~』って連絡するのに相手をたたき起こさないと駄目となったら通信機で普通に話せばいいだけだし、忙しい人間同士の連絡も一々通話しないとダメってなるとそれ程機密保持が重要じゃない業務連絡とかだったら面倒かも?」
シャルロが指摘した。
まあ、シャルロだったら相手が寝るより前に無理にでも時間を作って通信機で連絡すると思うけどな。
とは言え、仕事が終わらないと翌朝帰れるか分からない場合なんかは相手の就寝時間を過ぎる可能性もあるか。
「う~ん、送る時に何かボタンを押したら例外的に通信機で会話しなくても送れるようにでもするか」
ちょっと考えてアレクが提案した。
例外機能ってつけるとどんどん面倒になっていくんだが・・・これは必要だろうな。
「取り敢えず、それで試作品を造って思った通りに可変的な転移箱を作れるか、試してみるか」
単に通信機を付けるだけじゃなくって送り先を変えられるとか、通信機で繋がっていないと送れないとか、新しい機能だから色々と工夫しないとな。
・・・これって誰かには売れるよな??
時間をかけて開発したのに誰も要らないなんてなんてことになったら悲しいぞ。
先にシャルロにウォレン爺とでも確認しておいて貰うか?




