853 星暦557年 青の月 17日 魔術回路の素材(3)
「何かこう、比較的定期に買い替え需要がある出力の大きな魔具の魔術回路に使うと良いと思うんだが・・・大型で買い替えや新規購入が定期的にあるような魔具って何だろう?」
シャルロのお遊び混じりな試作品を色々と試し、俺ら的には一番費用対効果が優れていると言う結論に達した新素材は決まったのだが、それを何に使って魔術院にサンプルとして登録するかで躓いた。
アレクはこう言うのを真剣に吟味するからねぇ。
お気軽なシャルロや、適当な俺と違って真剣すぎて完全に足が止まった感じだ。
適当に出力が高そうな魔具を使えば良いじゃんと考えずに、実際にそこそこ継続的もしくは今後売れる魔具をサンプルにする事で新素材の良さをしっかり周知させたいと頑張っちゃうんだよねぇ。
良心的と言うか、欲張りと言うか、微妙なとこだ。
「シェフィート商会でよく売れる魔具で出力高いのを選べば?」
防寒兼防御結界とか出力がそこそこ高い上に未だに新規でそこそこ売れているらしいが、あれは主に冬にかけて売れる魔具だからなぁ。
他に何かあったっけ?
「広告用の気球は?
あれもそれなりに魔力が必要だし、まだ売れてるんでしょ?」
シャルロが提案した。
そう言えば、去年の収入の詳細にはそこそこの金額が載ってたな。
とは言え、あれは去年の売り上げに対する金額だから新規に作りまくったのにもう買い手が無いってならダメだが。
「あれはまだ売れているが、最近は王都ではなく地方都市や他国で売れ始めているんだ」
アレクが肩を竦めながら言った。
他国でも売れてるんだ?
パストン島の見張り台代わりに使えば良いってジャレットに言ったあれって国外に売っちゃって良いんか??
まあ、広告用に便利となったら余程厳しく取り締まらない限り、どっかの商会が持ち出して使うだろうからこっちが売らなくても広まる事に極端に違いは無いんだろうが。
「別に王都じゃ無くても良いだろ?」
魔術院の方に手数料が入れば手間をかける価値があると思わせる効果はあるのだ。
別に王都で売らなくても変わりはない筈。
「シェフィート商会が大して関与していないが、出力が多くて定期的に大きな金額が動く魔具があるんだ。
それの注文をする人間が王都にいるから、出来れば王都で評判になって欲しいんだが・・・」
溜め息を吐きながらアレクが言った。
シェフィート商会が関与していない魔具?
シェフィート商会が弱いのは・・・
「軍の・・・結界を狙ってるの?」
シャルロが首を傾げながら言い出した。
そう言えば、あれもそれなりに出力が高いな。
古くなったのを騙し騙し使うわけにもいかないから、それなりに買い替えもやってそうだし。
「基本的に軍部の魔具は全て定期的に壊れる前に交換している。
普通の商人や職人は壊れるまで使って壊れたら買い替えるのが常識だが、軍人はいざ戦いとなって魔具が壊れていたから買い直して再度挑戦って訳にはいかないからね。
古い魔具は中古市場に売るから完全に破棄する訳じゃあないが、基本的に定期的に新しいのを買っているんだ」
アレクが頷きながら説明してくれた。
まあ、うっかりボロい魔具を使っていて、離島や王都の港が攻め込まれたなんて事になったらヤバいもんな。
商会や職人の魔具が壊れて困っても納期を守れない程度の問題しか起きないが、軍が失敗すると国が滅ぶ可能性があるし、命って言うのは一度失われたら二度と戻らないものだ。
無くしたら取り返すのが難しいと言われる信用よりも、更に失わない為の細心の注意を必要とする。
そう考えると、意外と余裕を持って買い替えしている可能性もあるな。
なるほど、アレクの母親が頑張って軍との商売を増やしたがる訳だ。
「携帯型通信機の新型だって事で売り込んでみたらどうだ?
あれもまだ全部隊に配置し終わってないだろ?
ついでに転移箱も一緒に着けても良いし。
軍ってやたらと署名の入った正式文書を欲しがるから、それを一気に送れる転移箱も重宝するだろうしあれもそれなりの出力を必要とするだろ?」
洗脳用呪具を探していた際も、軍部の人間はちょくちょく空滑機を態々使って文書のやり取りを行っていた。
あれはどう考えても無駄だろう。
通信機と一緒にして口頭で中身を確認しつつ使える様にしたら軍部もそれなりに揃えようとするんじゃないか?
ついでに転移箱の有効距離を伸ばせたら更に良さそうだが。そっちは難しいかな?
軍とか官僚ってちょっと頭が固そうだから、武器とか防御用ならまだしも、書類関係とかの最新式魔具は導入してなさそう?




