848　星暦557年　紺の月　24日　久しぶりの訪問（8）

「軍用の侵入禁止結界用魔具って中々えげつないんだねぇ」

結局、アレクが大まかな結界型足場と進入禁止結界用魔具の見積もりを出してジャレットに渡し、ジャレットがそれをアレグ海軍基地の方に相談してみたところ・・・軍用の侵入禁止結界用魔具は既に存在していて、それをパストン島に設置することになった。

しかも小舟連結型桟橋の話をしたら中古の小舟まで集めて持って来てくれることになった。よほどアレグ海軍基地はパストン島の巡回頻度を下げたいらしい。

小舟の方は東大陸の各地からかき集めるというのでまだあと暫くかかるという話だが、侵入禁止結界用魔具に関してはアレグ海軍基地のスペアを緊急で提供してくれるということになり、折角魔具制作に詳しい魔術師がいるからということで設置の協力を俺たちがすることになったのだ。

軍用の魔具を一般人である俺たちが見て良いのかよ？？と思ったんだけどねぇ。

パストン島に関しては俺たちは権利保有者でもあるから『特例』という名目で本国から了承が出たらしい。

実際の所は魔術師を魔術院経由で手配すると時間も金も掛かるから、その場で出来るならさっさとやっちまおう！！というのが軍の正直な本音っぽいが。

で、設置ついでに機能について色々調べてみたら・・・中々えげつなかった。

今迄気が付かなかったが、軍事基地とか機密な研究所とかだとこういう中々危険な侵入禁止結界が設置してあるのだろうか？

単に侵入禁止なだけではなく、人が接近すると周囲に細かい水が噴射されるようになっている。結界に雷撃効果も付与されているので濡れる範囲に近づいた人間は雷撃で麻痺して倒れる可能性が高いのだ。

しかも結界の方向に倒れ掛かったらビリビリしている状態が継続されるから、下手をしたら死ぬとか一生治らない後遺症に悩まされることになっても不思議は無いだろう。

軍事基地とかだったら多分魔石をケチらないから侵入者がずっと雷撃を受け付けることになっても魔力が枯渇しないぐらいの魔石を準備してそうだし。

しかも海際だからなぁ。

雷撃で麻痺した状態で水に落ちたらそのまま溺れるんじゃね？

まあ、気絶していても顔が上向いていたらそのまま浮いて岸に流れ着くかもだが、顔が下向きだったらそのまま溺死だ。

接岸地点から港の中にある警備兵の詰め所まで繋ぐケーブルを埋めるのに関しては、アスカを呼び出しても良かったんだが折角土竜(ジャイアント・モール)の使い魔持ちがいるという話なので、そちらに協力を頼んでケーブルを簡単に掘り出して切断できない様にかなり深く埋め込んでもらった。

キッカ（土竜《ジャイアント・モール》の名前）が埋めたので、夜中に掘り起こされたりしたらキッカが気が付いて魔術師に知らせて警報を出すことも出来るし。

やっぱ、地中の事になると土竜《ジャイアント・モール》は無敵に近い。

便利過ぎて悪用されないか、ちょっと心配になるレベルだ。

まあ、幻獣は薄汚い思惑を持つ人間を嫌うから、あまり悪どい事に関与させようとすると使い魔契約を破棄されかねないから多分大丈夫だとは思うが。

広告用気球を活用した見張りに関しては、予算が足りそうだったので今度ジャレットが商業ギルドから購入の手配をすることになった。

基本的に通信機で警備兵の詰め所と役場に連絡が取れるようになっているが、津波とかの緊急時用に大きな音を出す爆竹と緊急指示を出せる垂れ幕も備え付けることになっている。

普段は基本的に空に紛れる色にしておく予定なので、あまり目立たない筈。

あまりにも微妙だったら、今度遊びに来た時にでも何か改善案を提案できないか考えれば良いし。

広告用だから、あまり目立たずっていうのは工夫されていないんだよなぁ。

・・・考えてみたら、軍部の方でこっちも何かに使っているのかもだが。

そのうちジャレットがそれとなく質問してみたら良いかも？

もしも軍部が隠密観測用に広告用気球を使っていないなら、活用して更に改善してくれても良いし。

「取り敢えず大分とパストン島の安全性は向上しただろうから、後はお土産だな！

トウモロコシとかその他の目新しい果物とか食材で土産に向いてそうなお菓子とか、何か良いのはあったか？」

忙しい合間にも甘味処の捜索にこれ以上ない熱意を込めて精を出していたシャルロに尋ねる。

パディン夫人にお土産が必要だし、折角だから学院長とかシェイラにも新しい菓子を持って行きたい。

新しい素材の特許に関しても、何か注意点があるかとかを学院長に聞いておきたい。お土産を持って行くついでって形にしたら丁度いいだろう。

なんと言っても魔術院から金を貰う立場だから、あっちに聞いても下手をするとこちらの利益を最小化するよう誘導されかねないからな。

アンディは信頼できると思うが、内部の人間に睨まれるような情報提供は頼まない方が良いだろうし。

どうせ関与しているのだ。独立した立場の学院長から新しい制度に関して解説して貰った方が安心できる。