841 星暦557年 紺の月 17日 久しぶりの訪問
「そう言えば、久しぶりにパストン島に行かないか?」
工房で朝のお茶を飲みながらアレクが突然言い出した。
「・・・そう言えば色々とバタバタしていてもう1年以上行ってないね!」
シャルロが一瞬考え、ちょっとびっくりしたように顔を上げた。
あれ?
そんなに経っていたっけ??
そっか、一昨年から去年の初めにかけては呪具関係でバタバタしていたから忙しく、去年は渡河用魔具とか空滑機改の開発に夢中になっていたりなんだかんだでパストン島に行ってなかったか。
「一応、シェフィート商会の人間が年初の書類確認には今年も去年も行っているが、やはり時折でも直接の利害者である我々も行った方がいいだろう?
それに、素材関連の新しい特許制度に関しては先に肩凝り用魔具の緑熱石で試して問題点を洗い出しておいてから、魔術回路自体の素材の様に影響の大きそうな物は始めた方が面倒が無くて良い」
アレクが指摘した。
もうそろそろ特許制度が正式に王宮と議会から承認される筈だけど、制度設計中に想定していなかった問題を先に小さめな案件で潰してから金額の大きな案件を持ち込む方が、変に制度を恣意的に捻じ曲げられないで済むらしい。
まあ、どちらにせよパストン島にはそろそろ一度顔を出しておきたいところだしね。
こないだの年末に東大陸の方へシェイラと遊びに行った時は直接転移門を使ったから、パストン島には寄っていなかったんだよな。
「ついでに空滑機改を一つ、治安部隊用にでも持っていくか?
空滑機改だったら数人乗せていけるから、怪しい事をやっている連中をパトロール中に見かけたらそのまま強襲できて良いかも」
ふと思いついて提案してみた。
一応空滑機は一つ残してきたが、見回りには良いとしても一人じゃあ大したことはできないから問題を見つけてもそれを報告して、部隊を地上から回すことになる。それでは長期的な悪事の拠点は取り締まれるにしても、実際に怪しい事をやっている奴らには逃げられていそうだ。
まあ、島だから港を押さえておけばそれなりに取り締まりは出来ているかもだが、島だからこそ上手く船を隠して上陸できる場所を見つけられていた場合はやりたい放題に出入りされている可能性もある。
「転移箱か通信機で、ついでに空滑機の修理部品とかで何か必要なものが無いかも聞いておくか。
特に問題が起きているとは聞いていないが、だましだまし使っている可能性はあるな」
アレクが頷きながらメモを取った。
「ついでに何かお土産の希望があるか、聞いておいたら?
キャリーナとかが生菓子とかで食べたいと思っているのがあるかも?
それとも皆ちゃんと定期的に本国に戻れているのかな?」
シャルロが提案しながらちょっと首を傾げる。
東大陸のジルダスへの定期便も比較的頻繁に出ているのだから、それと領事館の転移門を使えば最短なら2日程度で王都に戻れるはずだが・・・魔術師以外にとって転移門はかなり高くつく。
そうそう気軽に使えないだろうし、お土産を持ち帰るのも難しいだろう。
その点、俺たちは保存庫に入れて屋敷船でぶっ飛ばせばほぼどんなお菓子や生ものでも持っていける。
まあ、流石に生肉をお土産に欲しがることは無いだろうし、果物ならかなり色々とパストン島で育っているらしいから、生菓子系のリクエストが多いだろうけど。
「そうだな。
絨毯清掃用の魔具もお土産に持って行ってみようか。
あっちって暖かいから色々と虫が出てるかも」
女性って特に虫が嫌いな人間が多いというし。
まあ、お袋さんタイプは強いから全然平気かもだが。
「いや、あちらは絨毯は使っていないと思うぞ?
暑い所では虫食い被害が酷いらしいから」
アレクが首を横に振った。
お、そうか。
「あれ、だったら虫除け用魔具とか携帯用虫除け魔具がありがたがられる?
持って行ったっけ?」
イマイチ前の事だから記憶が定かじゃない。
「あちらのシェフィート商会の支店で売っているから別に土産にする必要はないだろう。
もしかしたら美顔器を持って行ったらありがたがられるかもしれんが・・・販売できる数が限られるから、下手に持って行くと諍いの種になりそうだから止めておく方がいいかも?」
アレクがあっさり虫除けに関する現状を教えてくれた。
確かにパストン島だったらがっつり虫除け用魔具が売れそうだよな。
美顔器は・・・そこまで肌を気にする貴族とかの女性はいない筈だが、貴族じゃなくても美容は女性の永遠の夢らしいからな。
確かに下手に諍いの種を持ち込まない方がいいだろう。
あれはまだ王都でもそれ程店に余っている訳ではないし。
「そんじゃあまあ、お土産のお菓子の要望でも聞いておいて、さらっと行くか。
明後日出発で良いかな?」
どうせならシェイラも誘いたいところだが・・・年末にがっつり休んだばかりだし、こないだの休息日に肩凝り用魔具でまったり1日過ごしちゃったから休みは取りたがらないだろうなぁ・・・。
美顔器よりも美白用の何かがあったら更に需要がありそうw




