833 星暦557年 紺の月 1日 肩凝り対策(24)
「この緑熱石を程よく柔らくて暖かい状態を保たせる方法って無いかな?
せめて冷めた時に加工した形が残ってくれると嬉しいんだけど」
シェイラと休息日をヴァルージャで散策したり遺跡の発掘を手伝ったりしながら過ごして帰って来た俺は、さっそくアスカに聞いてみた。
サラ君だけでなくついでにシャルロのアルフォンスとアレクのラフェーンも今日は集まって貰っている。
まあ、ラフェーンはアレクが街中に行くのに乗っているから家の厩に居ることも多いが。
『うん?
あれは触れたら柔らかくて暖かいだろう?
触れていれば良くないか?』
アスカがあっさり応じた。
あ~。
火蜥蜴のサラ君はまだしも、土竜のアスカなら魔力の漏れていない状態で緑熱石に触れることもあるかと思ったが、どうやら幻獣っていうのは実質魔力の塊だから何かに触れるというのはそれに魔力を注ぎ込むことになるのかな?
「使い勝手がいい形って言うのがあるんだよね。
そう言う形になるように加工しても、魔力を注ぎ過ぎて緑熱石が液化しちゃうと加工した形で無くなっちゃうから困っているんだ。
後、魔力が抜けた瞬間に余熱無しで冷たくなるのも居心地悪いし」
シャルロが問題点の説明を付け足す。
『幻獣の毛を混ぜれば完全に魔力が抜けにくくなるから、定期的に使うならば余熱っぽい感じになるぞ?石に戻るまでに注ぐ魔力の量も増えるな。
あとは、冷夢樹の新芽を混ぜれば魔力の流れを多少阻害するので液化しにくくなるな』
アルフォンスがあっさり教えてくれた。
おお~。
流石妖精王、良く知っているね。
とは言え、個人的に家族にや友人に配る程度ならまだしも、商業ベースで売る物に幻獣の毛を混ぜるなんて言う使い方は無理だな。
「冷夢樹とは聞いたことが無いが・・・」
アレクがちょっと首を傾げてラフェーンに尋ねる。
ユニコーンだったら植物系には詳しいか?
樹木より草花に詳しい印象だが。
『冷夢樹は新芽が育つのに魔力を吸収する必要がある。
時折妖精の森に重なるサラフォードの森になら数本は生えているが、現世ではあまりないぞ』
ラフェーンが微妙な情報を提供した。
「う~ん、どっちも商業ベースな製造に使うには難しそうだな」
アレクがため息を零した。
『極細かく魔石を砕いて混ぜたらどうだ?
微量な魔石の粉と我々の毛とは似たような効果があると思うぞ?』
アスカが提案した。
おお??
魔石って動力源としか考えていなかったが、魔力が抜けきらない様にする効果もあるんか。
何度も繰り返し使ってもその効果が残るのか調べる必要があるし、どの程度の魔石が必要なのかもテストが必要だが、アスカの毛を定期的に刈って混ぜるよりは大分現実的かも?
「そうなんだ?!
じゃあ、直ぐに試してみよう!!」
シャルロが嬉しそうに言って工房の奥に道具を取りに行った。
石臼を取りに行ったのかな?
『実験ついでに我をブラッシングして抜け毛を取るのも良いのではないか?』
アスカがそれとなく体を押し付けてきた。
『ふむ。
私の毛も使えるぞ?』
ラフェーンが便乗してアレクに近寄っていく。
つうか、ラフェーンの事は殆ど毎朝乗った後にブラッシングしているんだから、それなりに抜け毛が集まっているんじゃないか?
捨てていたにしても、これからは取っておくと良いかも。
まあ、とは言え商業ベースで使うのは難しいからなぁ。
それこそ軍がユニコーンとか天馬を大々的に乗っていたらそれなりの量の幻獣の抜け毛が集まりそうだが、幻獣と使い魔契約するにはそれなりに魔力が必要だから普通の軍人には厳しいだろう。
軍属の魔術師に騎馬系の幻獣を使い魔にするよう促しても・・・数は限られるよなぁ。
流石に抜け毛を売る目的で魔術院の魔術師に幻獣の使い魔を増やすべきと提言するのも無理があるだろう。
そんな下心ありじゃあ使い魔契約に合意してくれる幻獣が少ないだろうし、抜け毛目当てだけに契約しても直ぐに契約破棄して消えてしまいそうだ。
それとも、ブラッシングするから抜け毛をくれって言う契約で召喚するっていうのは有りか?
若い魔術師なんかのバイト代わりには可能性として『あり』かもだが、変な情報を流して幻獣を身体目当てで召喚して害する魔術師が出てきたら困るな。
それはさておき。
まずはブラッシングだな。
色々と役に立つ情報を提供してくれたし。
「勿論、喜んでやらせてもらうよ」
お礼代わりに丁度いいし。
魔石を細かく砕くより楽そうだしな。
猫とかはブラッシングに対する反応に個体差があるようですが、馬とかってどうなんでしょうね?
体が大きかったら手が届かない部分をブラッシングして毛を漉いて貰うのは気持ちが良いのかな?




