830 星暦557年 紫の月 28日 肩凝り対策(21)
「座り心地も暖かさも中々良いんだが・・・熱くなってきて魔力を抜くと途端に固くなって座り心地が最低になるのは困るな」
パディン夫人に協力してもらって幾つかの筒形の防水布を繋いだ形のクッションに緑熱石を詰めたクッションを試作してみたのだが・・・魔力を抜くと座り心地がデコボコの石が転がっている地面に座るのと同等になるのがかなり最低だった。
尖ってはいないだけましだが、平らでないので座り心地の悪さはかなりの物だ。
取り敢えず、魔力が抜けると石になってしまう性質を何とかしないとクッションや腹巻きとしても駄目そうだ。
疲れていなかったとしてもずっと魔力を通し続けられる人間は少ないだろうし、魔石を使うにしてもずっと使い続けるのは無駄だ。
それだったら発熱の魔術回路を綿で包んでおく方が魔力を切った後も熱が籠って経済的だ。
「指先の形にしてマッサージに使うのにしても、無理やり袋で指先形に纏められるけどやはり魔力が抜けた時に固くなっちゃうのは困るね」
シャルロが眉をハの形にして困ったように付け加えた。
「今はまだしも、真夏なんかだったら茹だった頭を冷やす為にも冷たい何かで頭を揉み解したいって人間だっているだろうし。
少なくとも暑い最中に温めた魔具で頭をマッサージするのは御免だと考える人間は多そうだな」
アレクが指摘する。
確かにねぇ。
今は寒いから温めてマッサージってリラックス効果と寒さの緩和で一石二鳥に感じられるけど、真夏の汗だくになっている時には熱い魔具を頭に当てるのは嫌だろう。
「よし!
色んな素材と混ぜて、グニョっとした状態を保てないか試そう!」
シャルロが立ち上がって腕を上げつつ宣言した。
何か燃えてるねぇ。
まあ、こういう手当たり次第に色んな物を混ぜる実験的な試行錯誤ってシャルロが得意なんだよな。
普通に思いつかない素材とかが意外と効果があったりするから、あいつに合っている気がする。
「まずは魔力が入っていない状態で色んな物を混ぜて何かグニョっとなる素材があるか試してみよう。
水や油、熱湯、炭、鉄、銅、銀・・・は経済的に意味がないな」
アレクが黒板に書き込みながら提案する。
確かに美顔器だったらまだしも、マッサージ用魔具に銀なんぞ使わんな。
「卵の殻とか石灰とか塩とかいろんな種類の木材とか、小麦粉とか重曹とかも試してみよう!」
シャルロが提案する。
小麦粉とか重曹って・・・クッキーじゃないんだぞ??
まあ、卵の中身を入れようと言わなかっただけましか?
「熱した状態で鉄や炭や各種鉱石や海水なんかと混ぜてみても面白いかもな」
と言うか、魔力を込めずに熱したら状態がどうなるのかも一応確認しないとだな。
工房の炉にはアスカの友人(友精霊?)な火蜥蜴のサラ君が遊びに来ている事が多いから、彼がいない時じゃないと多分魔力が漏れているだろうが。
というか、サラ君にも緑熱石について聞いてみようかな?
魔力を流し込むと発熱してグニョっとなるなんて、考えてみたら火蜥蜴とかの火系な精霊や幻獣の寝床とかに活用されてそうじゃないか?
俺はサラ君とは漠然とした印象程度でしか意思疎通出来ないから、アスカに来てもらって通訳を頼まないとだな。
つうか、考えてみたらアスカにも聞いてみたら何か知っているかも?
「後は魔力を込めてぐにゃぐにゃな状態になっている時に諸々を混ぜた場合に何か違った反応を示すかだな。
素の状態の時に魔力を込めた時の温度と魔力が抜けて固くなるのにかかる時間を記録しておいて、色々混ぜた時に何か違いが出るかを確認した方がいいだろう」
アレクが更に実験内容を書き出していく。
「ちなみに緑熱石の入手は簡単に出来そうなのか?
使い道がないからってどっかの埋め立てとか道路工事に使われていたら面倒だぞ」
ふと気になったので確認しておく。
流石に条件次第で溶けて動いてしまう素材を建築物には使わないとは思うが。
宝石を掘り出す際に捨てられているとアスカは言っていたが、どこに『捨てて』あるかで再入手の費用が変わるだろう。
「詳しいことはまだ確認中だが、何分魔力が通ると変形するというのは色々と不都合があるからな。基本的に傍の谷に投げ捨てられているという話だ。
だとしたら比較的簡単にそこそこの量は入手できると思うぞ」
アレクが肩を竦めた。
マジで捨てられたのかぁ。
なんかちょっと哀れな気もしないでもないな。
魔力を通した時の感触と暖かさは中々良い感じなのに。
考えてみたら専門家なアスカにまず聞くべきだったw




