828 星暦557年 紫の月 25日 肩凝り対策(19)
澄んだ緑色の石をスープボウルの上で手に持って魔力を通したところ・・・急に暖かくなり、ぐにゃりと形が崩れてボウルの中に零れ落ちた。
「なにそれ?!
しかも暖かい!!」
シャルロが寄ってきてそれを手に取り、驚きの声を上げた。
マッサージを終えた後、すいっと消えたアスカは昼食後には渡した袋一杯のサンプルを持って戻ってきていた。
濁った緑色っぽい岩が元の状態だと幾つか渡されたが、それ以外に既に必要部分を抽出した後らしき澄んだ色の石を大目に貰ったのでそれに魔力を通してみたのだ。
「アスカに何か水へ溶かしたら粘度の高いドロッとする感じになる素材が無いかって聞いたら、魔力を通すと発熱してドロっと柔らかくなる素材があるって聞いてね。
サンプルを持ってきてもらったんだ」
指をボウルの中に溜まった素材に入れてみると、ドロッとしていて粘度が高いせいか指には付かないが手で持つのは難しい感じに液体っぽい。
ちょっとマッサージに使うには柔らかいかな?
温度は程よく気持ちいい感じだが。
捏ねている間に魔力が抜けたのか、徐々に温度が下がり、固くなってきた。
「あ、固くなってきたね。
魔力を入れてもあまり長い間はこの状態が続かないのか」
一緒に指を突っ込んでいたシャルロがコメントする。
「手に持っていて体から勝手に滲み出る余剰魔力程度だとどのくらい暖まるんだ?」
アレクが興味深げに覗き込みながら尋ねた。
「あそこの袋にまだ入っているから色々試してみてくれ。
俺はちょっと密封性の高い手袋に詰めたらどのくらい強度が残るのか、試したい」
アスカから渡された袋を指さしながら防水布を探す。
まず最初は普通の布の上でがっつり魔力を通した際にどうなるか、試してみよう。
指に付かないなら生地にも付かないかも?
魔力が抜けて石の形(と言うか楕円形の固まり)に戻った石を手に取り、三脚台の上に布を敷き、その上で石に再び魔力を込める。
石がどろっとなって手から零れ落ちて布の上に落ちても、先ほどと同じ状態になっても布から下には垂れていない。
更に魔力を込めていくとだんだん素材がサラサラになってくるが・・・意外にも布から垂れてくる様子はないな。
「うわっち!」
攻撃魔術程度の魔力を込めたら、火傷しそうな程に素材が熱くなった。
慌てて手を離し、ついでに布をスープボウルに傾けて中身を出してみた。
全部纏まってスープボウルの方に移動するか、それとも一部は布の方に付着して残るか。
生地の隙間にも入り込みそうなものだが、どうなんだろう?
もしかしたら布の素材によっても魔力の通りやすさとかがあって、どの程度この素材を通すかが違ってくるかもしれない。
そう思いながら見ていたら、やがてスープボウルの方の素材が楕円形の石っぽい形に戻って固く冷たくなった。
布の方を指で触ってみると、ちょっと粉が出てきた。
別の皿を取り出してその上で布を逆さにして叩いてみる。
「何をやってるの?」
横からシャルロが覗き込んできた。
「普通の布の上でこの素材をかなり液体化しても下に零れてこなかったんだが、布の生地の間とかに入り込んでいないかと確認してみようと思ってね」
皿の上には微量の緑の粉が散らばっていた。
手で集めたところ、微量な粉の量だと普通に体から滲み出る魔力で液体化するのか、ちょっと濡れた感覚があり、良く見たら粉が数滴分の液体になっていた。
「ふむ。
量が少なければ体から漏れる魔力でも液体化するみたいだな。
しかも温度をがっつり上げれば布の生地の中にも入り込む、と」
どちらにしても先ほどの温度だと熱すぎて火傷しそうだったし、さらさらしすぎでマッサージには向かなかった。魔具として使うにしても魔力が大量に流れ込まない様に安全機構を組み込む必要があるだけかも知れない。
でもまあ、攻撃魔術クラスの魔力を込めても発火しなかったのはありがたい。
適度な温度だとどの程度の粘度になり、布に滲むのか。
後はそれこそ体から漏れる魔力で温マットレスとか温感下着とかに使えるのかとかも調べたいところだな。
「アレク、そっちではどの位暖まった?」
手の平に載せてじっとしているアレクに声を掛ける。
「う~ん、大したことは無いかな・・・。
砕いて糸にでも混ぜ込む感じで表面積を増やしたら、どうなるか試してみたいところだな」
ちょっと残念そうに首を横に振りながらアレクが応えた。
「ちなみに元の素材はこの岩らしい。
宝石を掘り出す鉱山で一緒に掘られて捨てられているってアスカは言っていたぞ」
袋の中から原石状態の岩を取り出してアレクに渡す。
考えてみたら、この原石状態に魔力を通したら素材部分が流れ出てくるんかな?
魔力を通さなきゃ抽出できない素材ってどうなんだろ?
安上がり?高級品?
イマイチ分からない・・・。
異世界版ヒートテックの誕生か?!
魔力で素材が服から溶け出さないようにしないとですけどね。




