156 星暦552年 青の月 15日 飛ぶ?(5)
「どうしたんだ、景気の悪い顔をして?」
久しぶりに顔を出した俺を見て、スタルノが驚いたような声を出した。
「人間が風に乗れるぐらい大きな凧みたいなモノを作ろうと研究しているところなんだけど、どうしても骨組み用に軽くて強い素材が作れなくって。
もう10日もかかりっきりになっているのに全然進展が無くって少し落ち込んでいるとこ」
スタルノが出してくれたエールを受け取りながらため息をこぼした。
そう、どうしてもうまくいかないのだ。
魔力を使って俺が個人的に鍛えればちゃんと軽くても強い筒が出来た。
だが。
ケレナ一人の為に作るのが目的ではない。
一応商業ベースで量産しようと思っているのだから、俺が個人的に鍛えなければ駄目となったら商業化は無理だ。
例え俺が開発から2年ぐらい抜けることになってひたすら作り続けても良いぐらい儲かるとしても、そんなことはしたくない。
同じ筒を毎日毎日鍛えるなんて、ごめんだ。金の為でもやりたくない。
そう思って寝る間も惜しんで色々試しているのだが・・・。
上手くいかない。
軽いのが出来たと思ったら弱かったり、強かったら重かったり、軽くて体重をかけるのにも強いと思ったら衝撃に弱かったり。
ここまで思うように出来なかったのって初めてかもしれない。
あまりにも煮詰まってきたのを見かねたのか、アレクに気分転換に街にでも出ろと鍛冶場を追い出されてしまった。
「人間を乗せられる凧、ね。面白そうじゃないか」
スタルノが興味を持ったようにこちらへ向き直った。
「術回路で浮力を少しつけることで、人間の重さがあってもそれなりの時間を風に乗って空を滑空出来るようにしたいと思っているんだ。形に関してはシャルロとアレクでそれなりに効率的に風に乗りそうな形を工夫してきているんだが・・・肝心の骨組みが上手くいかないんだよね」
まあ、アレクとシャルロが骨組みのことを『肝心な』と思っているかどうかは知らんが。
俺的には一番重要な部分なんだよね、何と言っても担当だし。
「浮力をつける術回路を乗せるなら、ついでに質量を減らす術回路も使えば良いじゃないか。バスタードソードタイプの魔剣なんかはそういう術回路を使っているぜ。質量を誤魔化せれば少しぐらい重くても構わないだろ?」
あっさりとスタルノが答えた。
・・・。
そうか。
そう言えば、そんな術回路の話も聞いたことがあったかもしれない。
子供一人分並みの重さがあるバスタードソードは普通の剣士には振り回せない。魔剣を使うような剣士は元々筋力自慢と言うよりは技術重視なタイプが多い。
だが、バスタードソード並みのサイズがあれば色々な術回路も無理なく乗せることができる。なので魔剣にはバスタードソードタイプも多い。
そう言ったタイプの場合は使用者が剣を振り回せるように、剣自体の質量(実質的には重さ)を減らす術回路も組み込まれているのだ。
術回路であれば、別に俺でなくても骨組みの筒を作る際に鍛冶屋が決められた術回路を組み込んで仕上げることができる。
つまり、十分商業化が可能な訳だ。
需要さえあれば。
「・・・馬鹿じゃん、俺。
ちょっくら、魔術院に行って術回路の特許を見てくる!
ありがと!!!!」
出してくれたエールも飲まずに、俺は鍛冶場を飛び出していた。
浮力を与える術回路に関してはシャルロとアレクがぼちぼち研究を始めていたが、質量を減らすということは誰も考えていなかった。
ある意味、骨組みだけでなく、全体の質量を減らせれば浮力が少なめでもそれなりにうまく行くのではないだろうか?
魔剣に使うような術回路は通常かなり魔石の利用効率がいい。魔石の嵌め変えもしくは魔力の補充というのはそれなりに難しく、金がかかる。だから鍛冶師は出来るだけ最初の魔石で長持ちするよう、魔力利用は出来るだけ効率的になるよう研究に研究を重ねるのだ。
浮力なんて言う通常使われていない機能に対する術回路よりもよっぽど研究されているはず。
後付けの人間に術回路をつけることは出来ないが、鉱山とかで使うような、重量のあるものを簡単に動かす為の術回路を調べれば、後から乗ってくる積み荷ごと質量を減らせる方法もあるだろう。
うっし。
何とか進展が見られそうだ!!
な~んか微妙に書きにくい・・・。
主人公にはあんまりドンパチばかりの物騒な人生を送って欲しくないんですが、争いごとの方が書きやすいんですよねぇ。
不思議。




