1357 星暦559年 藤の月 13日 調査協力(10)
本店は1階が商会の事業に関する場所で、2階と3階が商家の個人的な空間として使われているらしく、書斎は2階という事だった。
1階は一応視て回っても特に発見されていない隠し場所は先ほどの抜け道以外は無いようだったのでそのまま2階に上がる。
「そういえば、この商会の倉庫も調べているんだろうとは思うが、俺はそっちも行く必要があるのか?」
普通の商会だって倉庫をどこかに持っている筈。
交易船を持ち、その船長経由で麻薬の販売網が広がった商会ならば確実に港に倉庫があるだろう。
「そちらは人の出入りを禁じて、何人かで調べているところだが……この後に行ってもらった方が良いだろうな」
補佐官がちょっと悩まし気に言った。
おや?
予定としては俺は行かなくても良かったのか??
だったら口に出すべきじゃなかったな。
とは言え、これだけ隠し通路を作るのが好きな連中なのだ。
倉庫にも絶対に隠し通路があるだろう。
少人数で適当に封鎖して呑気に数日掛けて調べていたら、夜の闇に紛れて肝心の違法な物とか証拠書類とかが持ち出されちまっても知らんぞ?
「俺は今日と明日だけの手助け要員という契約だからな。
どこにいつ行かせるかの判断はそちらに任せるが、夜になる前に隠し通路だけでも確実に無いのを確認しておく方が無難じゃないか?」
心眼を使うのが得意な魔術師を連れて行って、倉庫の周辺を一周させれば一応地下通路とかはそれで見つかるだろうから、そこの出入り口を固めた上で物理的にその倉庫に誰も近づけないようにしておけば、それで充分かも?
どの位の人数を倉庫の隔離に割けるのか、知らんが。
「よし!
ここをざっと見て回ったら倉庫に行こう!」
補佐官が決断した。
こいつ一人で決めて良いんだ?
思っていたよりも下っ端じゃないのかも。
まあ、それはさておき。
2階に上がって左側に書斎があったので、入ってみる。
本をガンガン箱に詰め込んでいる所で、途中で本棚の後ろにある隠し金庫も見つけたらしく、若い女性が目を閉じて真剣な顔をして金庫の鍵部分を探っていた。
う~ん。
そこまで真剣に集中しなきゃその程度の金庫を解錠出来ない様じゃあ、プロの盗賊としては転職できなそうだな。
まあ、国税局の人間なんてそれなりに恨まれている可能性が高いから、転職なんぞしない方が良いだろうし。
頑張ってくれ。
そんなことを考えながら書斎の中を見回す。
執務机の引き出しと、その奥にあった隠し引き出しも暴かれているので、それなりに頑張ってはいるようだ。
が。
窓の外の植木鉢置き場の下に何かあるな。
窓辺に行って、窓を開ける。
水をやるだけしか出来ないようにか、2ハド程度しか上がらないようになっている窓なのでやりにくいが、取り敢えず邪魔な植木鉢を部屋の中に引き上げて、台の下の方に手を伸ばす。
水受けっぽい形になっている部分を外したら、そこの中に薄い箱が隠されていて、中から宝石の原石がジャラジャラと出てきた。
「もしかして、この組織って金が儲かってウハウハ過ぎて、隠し場所に困っていたのか??」
それとも国外に逃げなきゃいけなくなる可能性が高いと考えて持ち運びしやすい隠し財産をあちこちにしまっていたのか。
だけど2階の窓の外に隠してあっても、建物から出られなければ意味がないんじゃないか?
いや、よく見たらこの書斎って道から見えない裏側な上に、比較的傍に丈夫そうな雨樋が設置してあるな。これは外からそっと回収するための隠し場所なのかも?
「急激に販売網が広がったという話だったから、金をどうするかで悩んでいたのかもだな」
補佐官が俺から原石入りの箱を受け取って、後ろにいた連中に渡しながら溜息を吐いた。
隠し場所が建物の中にしかないと考えるのは、ちょっと頭が固いぞ~?
まあでも、植木鉢の水受けみたいなところに細工するというのは中々悪くないアイディアだが。
俺たちの家の敷地とか近所の地面に埋めるよりは、こういうところに隠す方が取り出した時にばれにくそうだ。
俺だったら雨樋が無くても浮遊で回収できるし。
とは言え、突然俺が窓の外に植木鉢が欲しいと言っても『はあ??』って言われそうだが。
それに俺が世話するんじゃあそのうち水をやり忘れて植木鉢が死んじまいそうな気もするな。
それよりは、アスカに保管を頼んでおく方が良いかな?
金塊や宝石の原石を渡すとアスカの気分次第でうっかり食べられちまいそうな気もしないでもないが。
まあ、それはさておき。
次の部屋に行こう。
オヤツ代わりにアスカに宝石を食べられちゃっても、代わりに別の宝石をくれそうですけどねw




