1354 星暦559年 藤の月 13日 調査協力(7)
「他にも押収した物の中に隠し場所があるか、確認してもらえますか?」
溜め息を飲み込んだ感じの補佐官が俺に聞いてきた。
え~?
面倒なんだけど。
箱に詰める前に振って音がしないかぐらい、確かめろよ。
「本と書類以外にも何か押収しているのか?
と言うか。
その花瓶?の中にも何か入っているな」
先ほど動かした絵画の左側に置いてある花瓶(生け花ではなく、金属で造った華やかな枝モドキ?がさしてある)を指さしながら指摘する。
何か物を入れられる物体は全部調べるのが基本じゃないのか??
それこそ洋服箪笥なんかは下っ端な盗賊が一般的な家に忍び込む時に真っ先に探す場所なんだが、こいつらもちゃんと調べてるんだろうな?
流石に下着が入った洋服箪笥を押収するとは思えんが。
それとも押収するのか??
ここは隠し家的な場所だから実際に住んでいる人間はいなくて下着が無くて困る住民もいなそうだが、普通の家が捜査された時に服まで押収されたら流石に困るだろう。
なんかこう、こいつら微妙に素人っぽいなぁ。
本職が商会の本店の方に回されて、こっちは捜査じゃない部署の人間が助っ人に寄越されたのかね?
慌てて捜査官(?)の一人が俺が示した花瓶モドキを持ち上げ、入れてあった枝もどきを出してそっと花瓶を机の上に斜めに傾ける。
中から大きめな砂利程度の石がゴロゴロと転がり出てきた。
「石っぽく見せているが、宝石の原石だな。
緊急資金源って奴かな?」
逃げるときに、金庫とかを開けずにさっさと持って出れる隠し場所としては悪くないかも。素人がチラッと見ただけでは花瓶の安定性を高める為に入れておいた砂利に見えなくもない。
補佐官が溜息を吐いた。
「押収するのは基本的に本と書類になるんだが、他にも露骨な隠し場所以外で隠されている物があったら教えて欲しい」
「そこの左の棚の一番下の段の左から3つ目の本も中がくり抜かれているな。
その本棚の下の引き出しにある金庫は開けられるよな?
あとはこの下の隠し金庫程度だと思う」
本棚の下の段の戸棚スペースに金庫があるのは典型的な書斎の使い方なので、ある意味大して重要な物は入っていないだろう。
こちら執務机の下の金庫の方が、本命だろうな。
捜査官が俺が示した本を調べている間に椅子をどけて、ラグをめくった下にある板の奥の方を押して手前側を持ち上げ、横の板も外すと下に金庫があった。
固定化の術も掛かっていないし、露骨に魔術師の目を引かないから悪くはない隠し場所かも?
取り敢えず、金庫をむき出しにして補佐官の方に示した。
金庫の解錠は今回の仕事の一部じゃないからね。
金庫を見つけ出せて、開けられるなんて知られない方が良い。
「押収してくれ」
本棚の金庫は既に住民に開けさせたのか、俺が来た段階で開いていたが、こちらは開けさせないのかな?
本気でヤバい書類の隠し場所で、開けた時に中身を破棄されては困ると思っているのかも知れない。
「これでこの部屋は終わりかな?
あとは寝室を回ろう」
実際に誰かが住んでいるなら寝室にはほぼ確実に隠し金庫か何か隠し場所があるもんだが、ここは避難通路と悪事用の事務所としての用途以外に住居として使われていたのだろうか? 主寝室に生活感があったら誰かが住んでいたって事でそっちの隠し金庫にもある程度期待が持てるんだが。
一応上の寝室の部屋にベッドはあった。
露骨に魔力が込められた固定化の術が効いた隠し場所は心眼には引っ掛かってこない。
そんなことを考えながら階段を上がっていく。
「そういえば、さっき4階で見つかった人間は結局こいつらの一味だったのか?
それとも不幸な軟禁被害者?」
一味の隠れていた偉い人間が捕まったんだったら、それ程俺が頑張る必要もないとも思うんだけど。
「若い女性だったから、軟禁被害者の可能性が高いんじゃないかな。
まだ質問をしている最中なようだが」
いつの間にか情報を得ていたのか、補佐官が教えてくれた。
世の中、顔が良くて若くて身を守る術がないと、危険だよなぁ。
まあ、邪魔になったとか、見ちゃいけないものを見た場合に男だったらあっさり殺されるが。女だったら直ぐには殺さずに売り飛ばそうとするかもだから、逃げ切れなければ死ぬよりも辛い思いをするかもだが、救出もしくは逃亡出来る可能性があるだけ、女の方が生存可能性が高いかも?
取り敢えず。
さっさと残りの部屋を調べて終わりにしよう。
……まだ隣の本店の方も隠し場所の見落としがないか、一応確認することになるだろうが。
先に昼食を食べたいところだな。
男の方が生きやすいけど死にやすい?




