1353 星暦559年 藤の月 13日 調査協力(6)
別の職員(ひょろりと細長い体形なので軍人というよりは国税局の職員っぽい)が鍵を受け取って書斎から速足で出て行った。
「国税局捜査時って銀行の貸金庫内とかも没収出来るのか?」
貸金庫の中なんて何が入っているか本人の記憶以外記録がないし、それこそどうやって稼いだか表に出せないような資金で入手した換金性の高い宝石とか金塊があった場合、あっさり没収されて返ってこないことになりかねない気がするが、大丈夫なのだろうか。
銀行の金庫って銀行にも中身を知られずに大切な物を隠して保管できるというのが売りなのに、国税局の税務調査だったらそれを強奪出来るとなると、中々怖いな。
と言うか、国税局の職員に強奪されなくても、銀行に『国税局の調査だ!』と言って押しかけて金庫の中身を盗んでいくような奴らも出て来るんじゃないのか?
騙された銀行側が悪いにしても、中身を証明できなかったら補償だって難しい。
その場合に、金庫の中に隠してあったのが裏金だったら、表立ってそれの返済を求めるのも困難だろう。
「捜査の承認書類を確認した上で銀行の人間と裁判所の審議官が立ち会って開かれて、中身が違法性がある物だった場合は没収、そうでない場合は中身を記録した上で捜査が終わるまでは銀行側が凍結手続きを取ることになりますね」
補佐官が教えてくれた。
なるほど。
麻薬とか違法な呪具だったら、即没収。それ自体は違法ではない宝石や金塊だったらその出所が違法であると証明されるまでは銀行から持ち出されることはなく、代わりに口座の持ち主も引き出して国外逃亡出来ないようになるのか。
まあ、その程度だったらまだ許容範囲内だな。
国から逃げる羽目になるかもと思っているなら、銀行の金庫に資金を隠しちゃダメというもう一つの理由になったが。
もう一度部屋の中を見回し、今度は執務机をじっくり見つめる。
引き出しの下部に何やら空間があるな。
取り敢えず書類を持ち出している連中はまだ本棚の方で忙しいようなので(こちらをチラチラ見ていてうざいが)、引き出しの所に行って一番下の段をまず取り出してみる。
中を覗き込んだところ、普通に板が下に張ってあって、隠し場所なんてありませんよ~という見た目になっている。
これって叩き割ったら多分ダメなんだろうなぁ。
となると……引き出しの構造をじっくり心眼で観察したところ、引き出しの枠の後ろの方に何やら仕組みがあるっぽい。
取り敢えずそこまで手を届かせるのが難しいので、全部の引き出しを取り出した。
毎日使うのに引き出しを全部出さなきゃいけない隠し場所なんて、面倒過ぎるぞ。
ついでに2段目の引き出しにあった二重底を外してそこにあった暗号一覧表みたいのは補佐官に渡しておいた。
こっちは日常使い用の隠し場所っぽいな。
そう考えながら引き出し全体の背板を手で触れて確認したら、屈んで覗き込まなければ見えない位置に小さなレバーになりそうな仕組みがあった。
それの下部を押して出っ張ってきた上部を更に引いてみる。
ガタ!
引き出しの下段の下にあった底板が外れた。
手が込んでるな~。
「何が出てくるかな?」
底板を外して中を覗き込む。
「……逃走資金ってやつかな?」
宝石と金貨及び金塊と、何やら身分証明書に使えそうな書類が奇麗に整理されて入っていた。
これを頂戴できるなら美味しい発見だが、捜査ではある意味進展性のない隠し物だな。
「かも知れないな」
覗き込んだ補佐官がちょっと溜息を吐きながら別の職員に箱を持ってくるように指示を出した。
契約書類とか裏帳簿、暗号文書っぽいのの方が嬉しかったんだろう。
さっきの引き出しの二重底から出てきた暗号一覧表を渡した時の方がよっぽど嬉しそうだった。
まあ、流石にこの場で見つかった金塊や宝石をネコババするわけにはいかないだろうから、二重帳簿とか秘密のやり取りを読み解く暗号一覧表を見つける方が捜査には役に立って評価されそうだよな。
ある意味、違法行為をしていたと証明できなかったらこの宝石や金塊はこの家の持ち主に返さなきゃならないんだから。
さて。
「そういえば、さっきそちらに詰め込んだ本の何冊かは中が空洞になっていたようだが、そういうのは後で調べるのか?」
ふと気になったことを部屋にいた連中に誰ともなく尋ねた。
箱に詰めるときに確認するか、箱から出すときに調べるかはどっちでもいいと思うが、流石に本棚の本を全部押収するなら中身は全部一冊ずつ調べていくよな?
とは言え。
部屋にいた人間が俺の指さした箱を慌てて開けて中身を調べ始めたので、どうやら詰め込むのと後で調べるのとでは担当が違い、評価される人間も違うようだ。
頑張ってくれよ。
でも、そこに居座られると邪魔なんだけどなぁ。
相変わらず、色々と発見しまくるゴースト君でしたw




