1350 星暦559年 藤の月 13日 調査協力(3)
「では隣家の方から頼む。
商家の本店の方は先に国税局の人間が探す形にした方が良いだろう」
ウォレン爺が俺の問いに答えた。
「了解」
隣家の方へ歩き始めたら、若い補佐官っぽいのが一緒についてきた。
こいつが俺の入室許可証の代わりなんだろうな。
流石に国税局や軍人の連中に俺の顔が知れ渡っているとは考えたくない。
裏で現役だった時代は表どころか裏の人間にも殆ど知られることすら無かった俺なのに、軍人や役人から顔パス状態なんて何とも情けない感じがする。俺のせいじゃないんだけどね。
便利使いする爺が悪い!
そういえば、何度か一緒に仕事をしたフォルナ……少佐だっけ?は居ないな。
これは情報部の仕事じゃなくてウォレン爺は単に俺との顔つなぎの為に関わっているのか?
それともフォルナの専門分野とは違うのか。フォルナの専門分野が何なのか、詳しく聞いたことはないが。俺との仕事の時の活躍のお陰(?)で魔具か呪具か、精神汚染関連とかになってそうだが。
それはさておき。
補佐官っぽいのが合図したのか、あっさり隣家の入り口を警備していた軍人がちらっと俺の後ろを見て扉を開けた。
さて。
どこに何があるかな?
心眼で建物全体を見回す。
普通のよくある豪商用の屋敷って感じで、1階に台所、ダイニングルーム、ちょっとしたパーティが開けるような応接間、もう少し小さいシッティングルームとちょっとした納戸みたいな場所。
下には地下室とその奥に隣からの廊下とがある。
見た目はワインセラーだが、その右奥の壁際のは……隠し棚か?
2階は書斎と主寝室と女主人用の寝室、主寝室を繋いでいるクロゼット、寝室がもう2部屋。
3階には寝室が6つほどある。
幾つかはちょっと小さいから家令とかメイド長とか家政婦とかの部屋なのかも?
屋根裏っぽい4階は住み込みの使用人が暮らす部屋かな。
かなり狭いし一部屋にいくつもベッドが詰め込まれている。
実際にはこの家には普通の使用人とかいないだろうから、組織の下っ端構成員が使っていたのかな?
若しくは都合の悪いことを人間を閉じ込めたりするんだったらそういうのに使っているのかも知れない。
と言うか。
屋根裏部屋っぽい奥の部屋に人が2人残っているな。
窓がない部屋だし扉も掃除道具入れの奥にあるから中に突入した連中もざっと探した際に見つけなかったようだ。
組織の人間が隠れているのか、何らかの理由で組織に拘束されている人間なのか知らないが、さっさと連れ出した方が良いだろう。
「4階というか屋根裏の奥の掃除道具入れから続く部屋に2人、生きた人間が残っているぞ」
補佐官と一緒に入り口からついてきた軍人っぽい人間に教える。動いていないのは身を潜める為なのか、動けないからなのかは流石にここからでは分からない。
「……感謝する」
なんか一瞬、舌打ちをしたように見えたが、音は出さずにそれを抑え、その軍人が部下に上を調べなおすように命じた。
良く分からん外部の人間を協力者として使うのに納得していないのかな?
あんたらがもっと上手に探してくれれば、俺が呼ばれることもないんだ。腕を磨いて俺が呼ばれなくなるように頑張ってくれ。
「取り敢えず、下のワインセラーから見ていこう」
そんなことを考えながら、取り敢えず地下から始めることにした。
書斎にも何か隠し場所があるっぽいが、大きさ的にはワインセラーの隠し棚が一番大きそうだ。
台所の横の食糧保存庫なんかも色んな粉や葉っぱや枝っぽい調味料があってもおかしくないから、しれっと中に麻薬が混ざっているかも知れない。が、そういうのを探すのは一つずつ専門家が調べてくれ。
俺は隠し場所しか分からん。堂々と目に見える場所に普通の品っぽい感じに置かれている物に関しては助けにはなれない。魔具以外は。
というか、捜査対象が急拡大した麻薬組織だったら、今日いる捜査員の何割かは麻薬取締官系の人間か?
そういうのって軍じゃないのかな?
ちょっと前に下町の再開発があった時にスラムの人間を食い物にしていた警備兵とかを取り締まって組織改正もあったと聞いた。お陰で微妙に誰が何をやっているのか今の組織構造は良く知らないんだよな。
まあ、違法行為をするつもりがない俺は誰が何を取り締まっているか知る必要はないけどな。
もっとも、ヤバいナニカを見てしまった時に誰にそれとなく相談するかを知っておくために、ウォレン爺の後任者との顔つなぎはしておく方が良いかもだが。
取り敢えず。
さっさと下に行こう。
残業は嫌だ。
色々見つけたら別の拠点が発見されてそこの調査に駆り出されるから結局残業は避けられないよ〜?




