1349 星暦559年 藤の月 13日 調査協力(2)
アレクとウォレン爺の交渉が終わり、翌日(早い!!)連れてこられた建物は、ちょっと商業地区の外れの方にある中堅どころな商会の本店っぽい場所だった。
態々軍と国税局が協力して捜査するにしては思ったよりは小さい。
他にも拠点があるんじゃないのか?
心眼で抜道の有無を確認する。
普通の商家と違い、悪事をやっている連中だったら絶対にもしもの時に備えて抜道を幾つか用意してある。
たとえ治安当局側は賄賂や内通者のお陰で絶対に捜査されないにしても、ライバル組織による襲撃の予防に『絶対』はないからな。
「物置経由の裏口と、隣家に繋がっている地下通路は対処してあるのかな?」
裏口側は人が近くに居るようだが、隣家の周囲の人間はちょっと警戒度が低く見えるぞ?
「……隣に繋がっているのか。
おい!」
ウォレン爺がそばにいた若いのを捕まえて色々と指示を出して、戻ってきた。
「助かった、ありがとう。
人身売買や密輸や怪しい薬や呪具の販売をやっている連中を次から次へと潰すんだが、大きいのを潰したらしょぼすぎて後回しにされたおかげで生き残ったところが潰された連中の客層に取り入って直ぐにまた大きくなるんじゃ。
ここは普通の交易船を使った中堅どころな商会でちょっとした船長たちの小遣い稼ぎに麻薬の売買をしていた程度の所だったんじゃが、大手が潰された際に麻薬の供給先が無くなった貴族や金持ちが船長たちにもっと麻薬を売ってくれと群がったせいで、一気に大きくなった……と思われる」
ウォレン爺が俺の目線を理解したのか、何だってこんなしょぼく見えるところを調べるのかの背景を教えてくれた。
なるほどね。
呪具程度ならまだしも、麻薬は確かに中毒になった人間すべてを捕まえきるのはまず無理だし、捕まえたところで貴族が相手だったら投獄なんぞ出来ないから麻薬の危険性を良く言い聞かせて罰金を取る程度しか手はない。その連中が懲りずに麻薬を買おうとしたら、供給者が急拡大する結果になるのか。
人身売買はヤバい性癖の客も許容する娼館や、そういうのが好きな貴族を潰せば需要側の人間が暫くは居なくなるが、麻薬はなぁ。
「麻薬中毒になった人間は完全に麻薬が抜けるまで、5年程度どこかに閉じ込めておいたら良いかも?
麻薬に嵌ったら、国だろうが家族だろうが裏切るようになるんだし」
貴族の当主や嫡男だったら完全に麻薬を絶てたと確証が得られるまでは権力から離すべきだろう。
だとしたら、最低でも5年ぐらい隔離した方が良いぐらいじゃないかね?
「まあ、それも一応議論されてはいるが……。
ある意味、麻薬中毒を繕えなくなっている程度の人間だったらどうせ近いうちに死ぬからあまり問題はないんじゃ。
だがまだ表面上はまともそうに見えて、本人も自分はいつでも麻薬なんて止められるけど、ちょっとした人生の楽しみとして嗜んでいる程度だなんて思っている連中が隔離なんぞ必要ないと大声で反対するし、周囲も納得しないから問題になってな」
苦い顔をしながらウォレン爺が答えた。
確かに、麻薬が切れたら手が震えるぐらい重度な中毒者だったら隔離するのも家族だって反対しないだろうが、単に落ち込んだ気持ちを浮上する為、とか疲れ果てた頭をスッキリさせてやる気を出させる為、なんていう感じに軽く麻薬を使う事で社会的活動を続けているようなタイプなんかは周囲も隔離しなきゃいけないほどの状況だと思わない人間が多いだろうし、本人だって納得しないだろう。
だが、『ちょっとした』程度の使用だろうと麻薬って泥沼に嵌るからなぁ。
そんな軽く使っているつもりの人間でも、突然供給源が絶たれると焦って代わりを探しだす。それこそ小遣い稼ぎで麻薬を提供していた交易船の船長とかに一気に群がっても不思議はない。
何かこう、麻薬とかに嵌っていたらその体調異常が分かるような魔具を作れないかな?
それを使って王宮や商会の職場で定期的に状態確認を義務付けたらいい気がする。
それこそ洗脳系の呪具対策と一緒に使えば良いんじゃないかね?
まあ、そんな魔具が作れるかは不明だが。
取り敢えず、今回の捜査協力が終わったら新しい開発としてちょっとアレクとシャルロに提案してみよう。
「国税局の調査だ!」
そんなことを考えていたら、役人たちが商会の入り口から突入していった。
裏の出口やさっき俺が見つけた地下の通路で繋がっていた隣の家の出入り口も既に人員が配置されている。
と言うか、見ている間に隣家にも国税局(軍かも?)の人間が突入していった。
「で?
俺はどっちを先に調べれば良いのかな?」
どうせここ以外の拠点の詳細が見つかったら調べに行くんだろうから、さっさと終わらせたい。
血液検査とかするとなると、ちょっと国民の成人全てのチェックは厳しいかも……




