1348 星暦559年 藤の月 12日 調査協力
熊・鹿避けに関しては春になるまでにどこか興味を示すところがあるかシャルロの実家経由でちょっと感触を探ることにして、取り合えず今年の報告書の最終確認をして国税局に提出してしまおうとアレクとシャルロとで報告書の最終集計とかそれの確認をしていたら、ウォレン爺が現れた。
「国税局の税務調査に協力してもらいたいのじゃが」
おや。ちょっと久しぶりかも?
でもこの爺さんが関わるってことは単なる普通の脱税調査じゃないよな?
「まだ国税局への報告を出している所の方が少ないでしょうに、今調査しても『これから最終確認するところだった』と言い逃れされるのでは?」
アレクがウォレン爺に問題点を指摘した。
「脱税で捕まえるならそうじゃが、違法行為に関して捕まえるなら、裏帳簿と表帳簿を突き合わせて最終的に報告する数字の辻褄合わせをやっている今の時期だったら一番証拠が集められている可能性が高いかもという説があってな。
一度やってみようとなったんじゃ」
ウォレン爺がにやりと笑いながら言った。
人身売買とか違法薬の売買とかだって、普通にその売り上げをバカ正直に国税局へ報告する訳にはいかない。だが、人を雇って物の動きがあるからには何か表の事業があるふりをしなければならず、そちらと裏稼業との整合性を考慮した表帳簿を作成し、それに基づく報告書を毎年作っているだろうな。
そうなると確かに色々な証拠書類がどこかに集められている可能性は高いかもだが……王都でそれをやっているかね?
どっかの地方都市とか田舎の別邸でも使う方が賢そうだ。
まあ、違法行為をやっている人間が賢いかどうかは不明だし、地方だと見知らぬ人間が目立つかもと言う欠点もあるが。
「僕たちで工房の報告書の最終確認はやっておくから、ウォレンおじさんの手伝いをしに行ってもいいよ?」
シャルロが気を利かせたのか要らんことを言ってきた。
役人なんぞと一緒に動き回るのは嫌なんだけどなぁ。
だけどまあ、断るなんて言う選択肢はあまり無さそうだが。
「へいへい。
アレク、しっかり俺の臨時雇い報酬の交渉を頼む。工房の方に3割入れるから!」
流石に俺個人でやる依頼なので普通の工房での作業と同じ扱いはしないが、俺が参加しないことでアレクとシャルロの作業量が増えるし、先に何らかの開発を始めていたとしてもその分を俺の取り分から削るなんてこともしないからね。
だから変な個人的な依頼があった時は、その報酬の3割工房に入れることになったのだ。
まあ、流石に本当にヤバい依頼に関しては一切何も知らぬ存ぜぬを貫いてもらっているが。
という事でアレクがウォレン爺と交渉を始めた横で、俺はシャルロとお茶をのお代わりを飲み始めた。
「そういえば、熊避けと鹿避けを刻む木の選定はどこで、いつやるんだ?」
それなりに立派に育った木を使うので、一度やったらやり直しがしにくい。それなりに場所を選ぶのには注意が必要だろう。
「おばあさまのサンクタス領で春先にでも試す事にしたんだ。
あそこは鹿狩りも熊狩りも特にはやっていないから。
まあ、鹿はまだしも熊はそれ程出てこないって話だから、効果がちゃんと確認できるか微妙に不明だけど。それでも年に数回は熊が目撃されるらしいから、それがゼロになったら効果があるってことになるだろうってことになったんだ」
シャルロが教えてくれた。
確かにレディ・トレンティスは狩りなんぞしそうにないな。
少なくとも城の傍は大きな森もなかったし、果樹園があるしで熊や鹿はいないに越したことはなさそうだ。
「ちなみに、レディ・トレンティスのあの城ってあの方が亡くなったらシャルロの親父さんが引き継ぐのか?
誰か疎遠な従兄弟とか叔父とかが継ぐことになった場合は先に話を通しておかないと不味そうだが」
おっとりしたオレファーニ侯爵家の人間は貴族の一族としては珍しく皆が仲がいいようだが、おっとりしすぎて熊や鹿も排除しなくていいなんて言う浮世離れしたことを言い出す可能性もゼロではないかも?
「大丈夫、あそこは父上が引き継ぐオレファーニ侯爵家本領の一つだからね。
兄上にも実験の話はしてあって興味を持ってもらっているから、後から鹿が可哀そうとか言って木を切り倒せなんて言ってくることはないよ」
シャルロが笑いながら言った。
どちらにせよ、単に魔具を捨てるならまだしも、鹿や熊を守るために巨木を切り倒すなんて言い出すことはあまりないか。
「そっか。
じゃあ7、8年後にはそれなりに効果が感じられるようになっているかな?
楽しみっちゃあ楽しみだが、忘れてそう」
まあ、シャルロは流石に忘れないだろうから、その時に話してくれるだろう。
3割の話は先日帳簿整理をしている時に決めました。




