1347 星暦559年 藤の月 10日 獣除け(8)
「結局、お手頃な狐や鼠避けみたいな紋様や魔術回路は手に入らなかった。
多分フォラスタ文明の連中も、幻想界の熊や鹿に近い幻獣の紋様をこっちの世界の熊や鹿に機能するように修正しするのにかなり苦労してかなり試行錯誤したんだと思う」
休息日にヴァルージャに来て、森の中を散策しながらシェイラにアルフォンスとの相談の結果を教えた。
「残念ねぇ。
狐や鼠避けの方が熊や鹿よりも需要がありそうなのに」
残念とは言っているものの、それほど期待もしていなかったのかシェイラが軽い感じに応じながら森の中を進む。
冬になってきて寒いが、代わりに下草が減ったので歩きやすい。
ふと見たら、上の方に小さなハチの巣っぽい物が見えた。
冬なので蜂が周囲を飛び回っている様子はないが、実がなる木やハチの巣があるのに熊が出てこないのって確かに偶然じゃあないと考えるべきだったのかもなぁ。
「ちなみに誰か買いたい人間がいるならシェフィート商会の方で適当な工房を探して魔具を作らせるのは可能だとアレクが言っていたぜ?
まあ、試作品で良いんだったら俺が作ったのを暫く貸しても良いが」
魔石が切れるまでの期間限定的な感じで貸して、気に入ったら購入って感じでもいいし。
魔石を入れ替えたら新しいのを買う必要はないから、気に入った人間が他の奴に熊(鹿)避けを勧めるんじゃない限り工房に作らせる必要はないが。
「ここら辺もそれほど熊や鹿の被害が大きいって訳でもないみたいで、態々魔具を買う必要はないって狩人の人は言っていたわ。
村長なんかは安いなら鹿避けが欲しいって言っていたけど、あれって一つで村全部に影響が出るほどの機能ではないんでしょう?
村の畑全部の分となるとかなりの数が必要になるだろうから、ちょっとそこまでは考えていないと思うのよねぇ」
シェイラが言った。
「鹿用のは確か10メタぐらいで嫌がって離れていたよな?
畑の全部を覆うようにしようと思ったらかなりの数が必要になるな。
しかもそれで普段寄ってこないようには出来るが、何か問題があって群れが飢えている場合なんかだったら不快感があっても入って来るだろう。鹿が態々人が多い村の傍の畑まで来るような状況になった場合はあまり効果がないかも?」
旱魃とかで野原の草が全部枯れた場合なんかで、村で何とか川や井戸から水を撒いて農作物をギリギリのところで育てている状況だったりしたら、飢えている鹿は魔具の不快感なんて無視して入って来るだろう。
それだったらもっと攻撃的な結界か何かの魔具の方が確実そうだ。
そっちの方が魔石の消費も大きくなるが。
だが安くはない金を払って魔具を買ったのに鹿が入ってきたら怒ってクレームをつけてくるだろうから、考えてみたら不快感で追い払う程度の魔具なんて売らない方が良いかも?
「そう考えると、巨木に刻んで10年単位で育てるぐらいの方が、あまりきっちりとした効果を期待していない上に長期的な効果が緩やかにあるだろうから、長期的に見ると無難そうね。
ベルダ老師が協力してくれるといったけど、効果が出てもその分の報酬を主張するのは難しそうだけど」
ちょっと溜息を吐きながらシェイラが言った。
「今年の予算はまあまあだったんだろう?」
良く分からなかったがパーティの前の会議でも何か発表していたようだったし、予算額も特に減額されていた様子はなかった……と、思う。
「発掘用の資金はいくらあっても多すぎることはないのよ!
もしかしたら追加で多少でも入るかと期待したんだけど、難しそうね。
まあ、試してみたのが効果があったと誰かが感じたらお裾分けの農作物が増えるかもだから、それに期待しましょうか。
それに、資金収入よりも実際に昔の技術が再現出来て今でも役に立つって知れることの方がわくわくするしね」
ちょっと悪戯っぽく笑いながらシェイラが言った。
なるほど。
金が最重要なポイントだったら考古学者なんぞならんよな。
昔の技術を掘り起こして再現出来たら面白いというのは分からないでもないし。
折角樹木霊に色々と質問して再現方法を確認したのだ。
実験してみて5年後なり10年後の効果に期待してみよう。
うっかり更新日を間違えました。
すいません




