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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後8年目

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1346/1357

1346 星暦559年 藤の月 8日 獣除け(7)

 パディン夫人にリンゴのパイを作って貰ってお茶を淹れ、シャルロがアルフォンスを喚んだ。


「やあ、今度はリンゴのパイか。

 嬉しいね」

 召喚陣から現れたアルフォンスがテーブルの上の菓子を見て嬉しそうな声を上げる。


「ちょっとまた聞きたいことがあってね~。

 そういえば、妖精の王様だったら忙しい特定の時期ってあるの?

 人間の年初や年末は関係ないって以前言っていたと思うけど」

 早速パイを切り分けてお茶を小さなカップに注ぎながらシャルロが尋ねる。


 確かに、幻想界に暦があるか自体が怪しいし、それが人間のそれと一致している可能性はほぼないだろうなぁ。

 時の流れ自体も違うと言っていたし。


「暗黒界と接触したら忙しいが、それ以外はそれ程ではないかな?

 誰かが結婚するとか子供が生まれるってことになると皆で大騒ぎになってそれなりにやることが増えるが」

 小さなフォークで器用にパイを切り分けながらアルフォンスが答える。

 アルフォンスって必要があったら人間のサイズになれるんだが、こっちの世界でやると魔力の消費が大きいし折角のケーキが相対的に小さくなるからってやらないらしいんだよなぁ。


 確かに俺もドリアーナの食事が10倍ぐらい大きくなる術があったらそれを活用するだろう。

 その選択肢があるアルフォンスがちょっと羨ましいかも。


「なるほどね。

 じゃあ、遠慮せずにちょっと質問なんだけど。

 こないだ話を聞いた巨木に刻む紋様があったじゃない?

 あれの熊や鹿を指定する分の紋様って他の動物用のもないか、知らない?」

 シャルロが自分と俺たちの分のパイを切り分けながら尋ねた。


「対象の指定する紋様?」

 口の中にあったパイを飲み込んだアルフォンスがちょっと首を傾げて考えた。


「あ~。

 確か生き物を指定する紋様って世界が違うと微妙に修正しないとダメだった筈。

 熊と鹿はそれなりに試行錯誤してやっと成功した分なんじゃないかな?」

 お茶に手を伸ばしながらアルフォンスが言った。


 確かに、妖精界にいた生き物の殆どは幻獣だったからなぁ。

 熊っぽい見た目でも熊じゃあなかったし、鹿も角に雷が帯電するようなかなり危険な存在だと聞いた気がする。つまり、一般的な鹿じゃあないよな。


 幻獣ばかりで普通の獣はいないのかな?

 まあ、木ですらはっきり意思表示をするほど魔力に富んだ世界なのだ。

 普通の動物もそれこそ馬とユニコーンが違うぐらいにこっちの狐とあっちの狐っぽい幻獣は違うのかも。


「あらら。

 じゃあ、こっちで使えるネズミや狐の紋様とか魔術回路って分からないかなぁ?」

 シャルロがちょっと残念そうに確認する。

 ネズミや狐を村の周辺の巨木に刻んでずっと寄り付かないように出来たら物凄く喜ばれそうだ。

 魔具として売りさばく用ではなく、巨木に刻む長期的な貴族用の知識として売れそうだ。比較的数が少ない熊や、狩って食べる鹿よりも実用的な需要が高いだろう。


「我々の知っている紋様は幻獣を示すものだからなぁ。

 それが効くような動物がこっちにいたら大騒ぎになると思う。

 もしかしたら、長く生きた森の主的な狐だったら効くかも?」

 ちょっと首を傾げながらアルフォンスが言った。


 じゃあ、鼠だったらそれこそ王都の下水の中で王のごとく君臨している化け物ネズミにしか効かないとか? 居るとしたらだが。

 ちょっと想像もしたく無いな。


「そっかぁ。

 じゃあ、諦めて普通に鹿と熊避けの紋様を木に刻む実験をして、10年後に実証実験が終わったら誰かにそれを売りつけることを考えようか。

 どうもありがとうね、アルフォンス」

 自分のパイにザクっとフォークを指しながらシャルロが言った。


「熊よけや鹿よけの魔具も売るのは無理かな?」

 アレクに尋ねる。

 多少なりとも売れて、収入の一部をツァレス達に分けられたら喜ばれると思うんだが。

 いや、収入を渡すよりも魔石を少し渡す方が良いかも?


「シャルロが木で実験する間に、領地の貴族なり大地主なり村長なりに、熊よけや鹿よけの魔具が欲しいかを聞いてみて、欲しいという人間が出てきたらシェフィート商会であつかうのは構わないぞ?

 だが態々権利を買い取って売り先を探すほどの伝手はシェフィート商会にはないな」

 アレクがちょっと肩を竦めながら言った。


「こう、行商中の馬車が熊に襲われたりはしないのか?」

 確かにシェフィート商会は地方の大きな街と王都との間で特産品とかの流通で儲けている印象だから、熊とか鹿に悩まされている地方の村とかとの伝手はあまりなさそうだが。

 魔具なんて高いから、信用がある商会じゃないとどれだけ有用だろうが馴染みがない高額品を買おうと思う人間もいないだろう。


「流石に動いている馬車に襲い掛かる熊はあまり居ないよ。

 何かの理由でちゃんとした野営地まで辿り着けなくて適当な道脇で野営した時なんかにうっかり顔合わせになって襲われることは稀にあるらしいが」

 アレクが言った。

 へぇぇ。

 熊って積極的に人間を襲っている訳じゃあないのか?

 それなりに危険だという話なんだが。


 まあ、取り敢えず。

 あとはシャルロの気の長い実証実験がどうなるか次第かな。

 年も明けたし、そろそろ次に作る魔具を考えないと。


グリズリー熊なんかは凶暴って話ですけどね。

あれって馬車や車を襲うんでしょうかね?

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― 新着の感想 ―
熊って雑食性なんですが、特に冬眠の為に何でも食うんですよね。 逆に冬眠しない連中は、脂肪にエネルギー必須になるため肉食寄りに。 逆に冬場は「獲物がないから寝る」なんですが、昨今は冬場でも食料がある所が…
あいつらは危ないと思えば襲って来ずに逃げるんでしょうけど 日本人は舐められてますね
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