1343 星暦559年 藤の月 4日 獣除け(4)
「ついでに別の試作品も全部試してみて貰えないか?」
アレクに声を掛ける。
元からの違いなのか、巨木が育つ間に変わったのか、紋様にも小さな違いが何通りかあったんだよな。
あれが効果の強弱や対象に違いを生むかどうかも確認したい。
「私が近づいたら更に逃げるかもだが。まあ試してみよう」
アレクが頷き、ラフェーンの方へ行って鞍に括り付けてあった試作品を手に取り、オフにして別の試作品を代わりに起動させた。
鹿たちは特に反応していない。
と言うか、アレクが近づいても特に反応しなかったから、あの魔具は近づく人間への警戒心と同じ程度の不快感を齎すって感じなのかな?
アレクが動かずに待っているとラフェーンが再び鹿たちの方へ足を進め始めた。
最初は特に反応しなかったが、更に2メートルぐらい進んだところで鹿たちが再び移動し始めた。
「今回の試作品の方が有効範囲が狭いのかな?」
シャルロが呟く。
「かもだな。
3つ目の試作品をオンにしたときにどんな反応を示すかでもう少し分かるかも?」
魔力がちゃんと魔術回路に流れて起動したっぽい様相を見せた試作品は3つだけだったんだよな。
どうなるだろう?
鹿が動きを止めたところでアレクがラフェーンの元に近づき、また試作品を取り換えた。
今度も鹿たちに動きはない。
ラフェーンがそのまま鹿の方に近づくが、結局鹿に鼻で触れられる程度まで近づいても鹿はそのまま草を食べているか、ラフェーンに挨拶に寄って来るかだった。
「三つめは効果なしなのかな?
もしくは鹿以外の動物に効くとか」
シャルロが首を傾げながら言った。
「そういえば、残りの二つの試作品も起動しながら馬や他の動物に近づいてみるか。
どれかで逃げられるなら、もしかしたら対象動物が違うのかも」
と言うか、どうやって対象の動物を選んでいるのか本当に不思議だけどな。
サイズだけで選んでいるんだったら仔馬だって鹿と同じぐらいのサイズのがいたから、反応しなかった理由が分からない。
まあ、仔馬だったら世の中のことを知らないから変な音とかがしても不快に感じないで反応しなかった可能性もあるが。
「熊ってどこかに飼われてないかなぁ?」
シャルロが呟いた。
「サーカスとかに居るかも?」
ケレナが指摘する。
「確かに?
今、王都近辺に来ているサーカスっていたかな?」
シャルロがちょっと考え込んだ。
「アレクかセビウス氏に聞いたら何か分かるんじゃないか?」
サーカスも行商人か大型隊商的な扱いで、商業ギルドとかに登録されているんじゃないかな?
あれだって金を儲けるんだから商業活動として登録させている可能性が高いと思うんだが。
「取り敢えず、鹿よけとしてだけでも、馬や牛や豚に影響がないなら農家に喜ばれるかもだわね。
巨木を使わなくても、時期的に特に鹿害が大きい期間だけ使うんだったら魔具でも買うかもしれないし」
シェイラが提案する。
「どうだろ~?
農家って魔具への出費に関しては凄く後ろ向きなんだよねぇ。
そんなのにお金を掛けるぐらいだったら、畑を荒らしていた害獣を始末したってことにして鹿肉を楽しむ方が良いって言いそう」
シャルロが少し疑わし気に言った。
「でも村の農家のおっさんっていつも鹿のことをブチブチ文句言っているじゃないか」
酒場とか何かの集まりなんかで顔を合わすと、かなりの頻度で鹿に関する愚痴を聞くんだが。
「ここら辺は鹿狩りの規制が厳しいし勝手に殺して食べてたら罰金を取られることも多いから文句ばっかりだけど、地方だったらそこまで鹿狩りに関して煩くないからね。
余程領主が狩り好きで鹿を殺すことに物凄く厳しく取り締まっている所じゃない限り、畑に近寄ってきた鹿は農家の夕食っていうのが田舎の常識だから。
魔具を買えるだけの余裕がある農家の場合は鹿を殺させるだけの見張りや人員がいることも多いから、鹿よけの魔具なんか欲しくないっていうところが多そう」
シャルロが言った。
なるほど。
王都周辺だったら鹿の数そのものが少ないのに対し狩りをしたがる貴族が多いから、鹿を殺すことに煩いのかな?
地方だったらそこら辺の需給が違うから鹿は農家の邪魔をするなら食ってもいいんだろう。
「となると、王都近辺の農家にちょっと売れるかもって程度になりそうか」
まあ、元々農家向けの魔具なんてあまり儲からないだろうとは思っていたから、どうでもいいんだけど。
「サーカスででも熊相手に効果があるかを試して、そちらで上手くいきそうだったら売れるかもだけどね」
シャルロが言った。
どんな効果があるのか分からないが、屑魔石で動くように出来たら個人が持ち歩く熊避けとしていいかも?
まあ、そこまで単価を下げられるかが問題だが。
鈴より確実な熊避け効果があるならですが。
でも、鈴の方が圧倒的に安そうだからなぁ




