1341 星暦559年 藤の月 1日 獣除け(2)
「ちなみにシェイラは結婚とか子供に関して、どんな希望と言うか展望と言うかがあるんだ?
俺は特に拘りがないから、2人の事情なんだしシェイラに拘りがあるならそれを優先したらいいと思っているんだが、まずはその希望を聞きたいな」
ドリアーナで夕食のメインを食べ終わり、まったりとしながらデザートを楽しみつつシェイラに尋ねた。
「結婚と子供ねぇ。
ある意味、実質探索チームの母親役をやっているようなものだから、現時点では追加で面倒を見る相手はいらないかしら」
シェイラがあっさりと答えた。
確かに母親役だよなぁ。
特にツァレスの。
妻だったら夫に甘えるとか面倒を見てもらうとかいうのも夫婦によってはあるんだろうけど、シェイラはあまりそういうことをして欲しいタイプじゃないと思うし、俺も常に傍にいる訳じゃないからそうそう疲れた時に甘やかすなんて出来ないし、相手の苦労や内心の葛藤も言われなきゃ分からない朴念仁だからなぁ。
アレクとかシャルロが傍にいて俺たちの毎日を見ているなら、シェイラが疲れているとか何かを内心では求めているとか不満に思っているんじゃないの?と助言してもらえる可能性はそれなりにあるが。現時点でシェイラが王都やノルデ村に住む予定はない。
今の段階で結婚して同居するとなったら、二人でヴァルージャに暮らして俺が毎日転移門で通勤だろうな。
しかも、一軒家に二人で移り住んだら料理や家事の手間が大変だってことで、そのまま今の宿屋に滞在し続けようって言われそうな気もする。
若い夫婦二人の家で、子供もいないのに家政婦を雇うのはちょっと無駄だからなぁ。
家事手伝いの人間に通いで来て貰うって言うのもありかもだが、下手をすると冷めた夕食を疲れて帰って来てから温め直し、朝は寝ぼけながら朝食を温めるってことになるから微妙そうだ。
「そっか。
じゃあまあ、暫くは今のままで良いかな?
俺は拘りがないからどっちでもいいんだけど、女性の方が色々と考えているのに素知らぬ顔をされると傷つくってこともあるって話だからな。
シェイラが黙って傷付けられるタイプだとは思わないけど」
シェイラが結婚したいと思ったら、さっさと俺の尻を叩くなり、俺を追い出して次の男を見つけるなりするだろう。
「結婚も子作りも夫婦の共同作業なんだから、ウィルの希望を無視して動いたりはしないわよ?
ちゃんと相談するから、心配しないで。
まあ、私としてもウィルが特に結婚も子供も急いでないと確認できたのは良かったけど」
シェイラがにっこり笑いながら言った。
ちょっと一瞬、悪寒が背中に走った気が?
「ちなみに、未来なんてどうなるか分からないにしても、漠然とした現時点でのシェイラの将来設計ってどんな感じなんだ?」
俺は適当に魔具開発を続け、時々気分転換に遠出したり沈没船探しをしたりって感じでアレクやシャルロと楽しんでいく感じでいいんだが。ある意味、俺には大きな長期的目標はない。
飢えずに安全な寝床で眠れる毎日が続けば、それで満足だ。
シャルロは……一応そのうち沢山子供が欲しいってなるかも?
ケレナの希望や都合も関係するだろうが。
アレクはどうなんだろうなぁ。
あいつもあまり家族を欲しがっている様子はないが。多分。
「そうねぇ。
少なくともあと5年ぐらいはじっくり現場で遺跡発掘に関わりたいわね。
その後に何か王都で仕事を見つけて10年か15年ぐらいそっちで働いている間に結婚して子供が出来たらそれはそれで嬉しいかも?
ただまあ、子供は欲しければ生まれるって訳じゃあないから、こちらは上手くいけばってところね。
子供が学校に通う年齢になって寮に入るんだったら、またどこか遺跡発掘現場に行きたいかも。
なんかウィルに遠距離通勤か週末だけの夫婦みたいな生活を強いることになりそうで申し訳ない気もするから、そこら辺は実際にその時期になって話し合うつもりではあるけど」
少し考えてシェイラが答えた。
やっぱ、遺跡現場での発掘作業が好きだと王都で満足できる活動は少ないよなぁ。
それでも子供を作って育てるために10年ぐらい王都で働くのもありと考えているんだから、それがシェイラなりの妥協って奴かな?
ある意味、俺は魔術師だから単に街の魔術師として働くんだったら王都以外でも仕事はいくらでもあると思うんだけどね。
だが、今のところはシャルロやアレクと新しい魔具を開発するのが楽しいから、王都郊外のノルデ村に住み続けたい。
10年後とかはどうなっているかは誰にも分からないけどね。
「それでいいんじゃないか?
何か状況や希望が変わったら、お互い遠慮せずに話し合おうぜ」
状況じゃなくって心変わりが起きたらちょっと残念だが。
浮気って男の方が多そう〜と思ったけど、考えてみたらあれは二人でやるものなんだから、女性もそれなりに不倫に参加してるよね




