1339 星暦558年 桃の月 30日 久しぶりの手伝い(18)
「来年もアレクをよろしくな!」
シェフィート家のパーティ現場に辿り着いたら、早速酒が入ったらしき長男に捕まり、バンバンと背中を叩かれながら酒を渡された。
まだ午後になったばかりなのだが、午前中で今年の仕事はすべて終わりとなり、皆で労いの豪華な昼食を食べた後そのままパーティに突入しているので、既にパーティの参加者はかなり酒で陽気になっている。
「こちらこそ、これからもよろしく」
頷きながら酒の入ったグラスを受け取り、軽く挨拶を返してアレクを探しながら屋敷の奥の方に入っていく。
アレクも飲んでいるのだろうか?
酔っぱらっていたら話し合いは明日以降だが。
ホルザック氏も酔っぱらうと陽気になるタイプなんだな。
あの真面目そうな人がああなるというのはちょっと意外だったが、まあその方が従業員にとっては親しみやすくて良いのかも?
次兄が酒が入ったらどうなるのか、ちょっと興味があるところだ。
アレクはあまり飲む姿を見た記憶がないが……パーティだったら飲むのかな?
「おう、今年も色々ありがとう、来年もよろしくな」
アレクを見つけたので、一応年末の挨拶をしておく。
一緒に住んでいる家でそんな挨拶はあまり必要がない気がするが、ここ数日はアレクもシェフィート家の方に泊まっているし、俺も暫くヴァルージャの方にいたからな。
久しぶりに顔を合わせた気がするから、年末の挨拶をするのもそれほど違和感はない。
「ああ、よろしく。
そういえば、シャルロと何かあのフォラスタ文明の紋様にかんして研究しているんだって?」
アレクがつまみを差し出しながら尋ねてきた。
どうやらそれ程酔っぱらっていないようだな。
「ああ。
巨木に刻む本来のやり方だと効果の確認に10年単位で時間が掛るから、俺達の商品として売り出すのは無理だが、紋様の正確性を確認するために魔術回路として魔石を使って動かす魔具っぽいのを作ったんで効果の確認がしたくてね。
ラフェーンに協力してもらえないかな?
アルフォンスの話だと、熊とか鹿を寄せ付けない獣除けらしいんだ。ラフェーン自身に効果が無くても、馬や牛や豚や鹿がどう感じるのか、感想を聞いてもらえると助かるんだが」
草食動物系以外の、熊とかとラフェーンが意思疎通できるのかは知らないし、襲われたら悪いので、鹿に効果がありそうだったら熊は確かめなくてもいいだろう。
「なるほど。
熊と鹿を寄せ付けないなら効果としては喜ばれるだろうが、家畜が嫌がるのでは困るな」
アレクが頷いた。
「そうなんだよ。
農地の中に馬や豚が入ることはそれ程無いかもだが、牛は春に土を耕すのに使ったりすることが多いようだからな。
それに馬だって貴族が遠乗りなんかで通りがかった時に突然暴れられて落馬したりしたら責任問題になりかねないし」
まあ、最終的に技術を斡旋する先は貴族なので馬に関してはどうにかなるかもだが、牛を重労働な農作業に使えなくなるのは困るだろう。
「じゃあ、新年あけにでも、ラフェーンに試してもらおうか。
まずは近所の牛と豚で試すか?」
アレクが聞いてきた。
「ケレナの所に馬に紛れて鹿も放牧地にいるらしいから、そっちで鹿相手に試して効果があったら、馬と近所の牛や豚にも試したいかな。
鹿相手に効果がないなら使う意味がないから。
ちなみにラフェーンって熊と意思疎通できるのかな?」
体形と体格的にはラフェーンよりも土竜なアスカの方が熊に近い気もするが、アスカは完全に幻獣って感じであまりそこら辺の動物と意思疎通している様子はないからなぁ。
「熊ねぇ。
聞いてみるよ。
もしかしたらアルフォンスの方が言う事を聞かせられるかも?」
アレクが提案する。
確かに?
妖精王だったら森にいる存在にそれなりにいう事を聞かせられる=意思疎通が出来るかもだな。
「取り敢えず、ラフェーンに聞いてからダメだったらアルフォンスだな。
アルフォンスには既にヴァルージャの方で色々と手伝ってもらったから、あまり何度も呼び出すのは気が引ける」
まあ、シャルロも乗り気な実験だから、アルフォンスもそれなりに協力的だろうとは思うけど。
「そうだな。
じゃあ年初にちょっと実験だな。
それ以外に、次は何を開発するか考えているのか?」
アレクがちょっと悪戯っぽく笑いながら聞いてきた。
俺が全然何も考えていなかったことに、気付いているらしい。
「今晩頑張って考えるよ」
というか、俺はアレクかシャルロの案で良いし~。
アルフォンス再度呼び出し?
それともラフェーンの活躍の場になるか?!




