1336 星暦558年 桃の月 27日 久しぶりの手伝い(15)
『ありがとね~。皆もすっきりしたわと喜んでるわ~』
結局、俺とシャルロは2日かけて森の紋様付き巨木の剪定を行った。
「考えてみたら、今の季節に枝を貰って挿し木しても、寒くて育たないかも?
外に植えるよりも、サンルームの植木鉢にでも挿して春までの間に根が生えるのを期待しながら待つ方が良いかな?」
最初の巨木の根元で枝を貰おうとしていたシャルロが、ふと手を止めて樹木霊に尋ねた。
『さんるーむが何か知らないけど、確かに今の時期に地面へ小枝を刺しても寝ているだけで成長はしないでしょうねぇ』
のほほんと樹木霊が応じる。
ノンビリしてるぜ~。その枝、寝ている間に死んじまうんじゃないか?
まあ、これだけ枝を切り落としまくって『すっきりした』と感じるのだ。
根元の幹から何本も生えている枝の何本かを切って、挿し木しようとして失敗して死んでしまっても気にしないんだろうなぁ。
「う~ん、じゃあ、取り敢えず何本か貰っていってサンルームで植木鉢に挿してみるね。
また春にも新しく枝を貰いに来るよ」
シャルロが提案した。
『それが良いわね。
そういえば、剪定してもらえなかった子たちで、やってくれるなら紋様を刻んで術の補助に協力しても良いわよ~って言っている子がいるんだけど?
自力で育った子たちだから私たちよりはちょっと小さいけど、ある程度なら術を保持できると思うけど、どう?
紋様を刻むだけなら今の時期でも問題ないと思うけど。
あ、でも樹液があまり流れていないから、ちょっと集めるのに時間が掛るかも?』
樹木霊が何やら想定外なことを言い始めた。
ふうん?
そっか、既に育っている木だって、最初から育てるなら5年目に紋様を刻んで魔力を吸い上げて大きくなれるようにするんだろうが、既にこの森の木みたいに大きくなっていたら現時点でも紋様を刻むのも可能なのか。
とは言え。
「この森の中は既に獣除けの術が機能しているからなぁ。
新しく紋様を刻んでも、効果があるか分からないと思うぞ。
どこか近くで森の外にそんな剪定を希望する木ってないのか?」
樹木霊とシェイラに尋ねる。
「まあ、それなりに大きな木はちょこちょこあるけど……その木に樹木霊がいるかも、その樹木霊が紋様を刻まれるのに賛成なのかも分からないわよ?
この森の外だったら一応領主に話を通した方が良いでしょうし」
シェイラがちょっと困ったように言った。
「ここら辺だったらファルータ公爵だよね。
こないだ代替わりした公爵にもパーティで何回か挨拶したことはあるけど、その程度だからなぁ。
シェイラたちが代官の方に遺跡から発見された技術の実証実験をしたいって話を持っていく方が早いかも?
どうせそれほど大きな実験じゃあないんだし」
シャルロが提案する。
公爵さまと顔見知りなんだ~。
流石シャルロ。
下手をしたら、シャルロの兄貴は公爵と貴族の学校でそれなりにやり取りがあったかもだな。
年齢的にあの公爵ってシャルロの所の長兄とシャルロの間ぐらいだと思うが。
……というか、ファルータ公爵っていうと実は王太子の隠し子って奴だったっけ?
俺は近づかないのが正解だな。
本人は俺のことなんて何も気づいていないだろうし、王太子の方だって俺の存在を個人として認識していないだろうが、うっかり変なことがばれたら俺の命に関わりかねない。
「そうねぇ。
紋様を木に刻む程度だったら、発掘チームから使える遺跡の技術として広める前に実証実験したいって言えば大丈夫かしら?
いざとなったら枯れても困らないような、目立たないところの木でいいでしょうし」
シェイラが頷きながら言った。
おいおい。
枯れるかもなんて思って実験するのか。
樹木霊が居る木が枯れたら可哀そうだろうに。
というか、樹木霊が居る木だったらそう簡単には枯れないよな?
「熊とか鹿とかが近づいてくるような場所にある木で試してみたいよね。
熊はまだしも、鹿だったらそれなりに確認しやすいだろうし」
シャルロが付け足す。
「そうね!
ちょっと宿のおかみさんとも相談して、鹿害で困っている人を紹介してもらって、丁度いい巨木がある場所を知らないか聞いてみるわ」
鹿害に困っているって……鹿なんて全部殺して食べちゃえばいいような気もするが。
そうもいかないんかな?
昔のヨーロッパなんかは貴族が気持ちよく狩り出来る様に平民は鹿を殺せなかったようですが、ここも何らかの理由で制限があるっぽいですね〜。




