1335 星暦558年 桃の月 26日 久しぶりの手伝い(14)
『あ、この枝も切っちゃって~』
『この先も変に力が掛かっちゃうから切った方が良いわね~』
『あと、向こうの仲間も剪定やって欲しい~って言っていたわよ~』
接ぎ木には上の方の大きな枝自体やその先ではなく、根元近くの大元の幹からぴょんと伸びている若枝を使った方が良いと樹木霊に言われたのだが、折角だからという事で剪定を頼まれ、俺とシャルロは浮遊で巨木の周りをふわふわ飛び回りながら指示された枝を切ることになった。
下からではなく、切って欲しい枝のすぐ上に現れて指示するので分かりやすいからそれ程苦労はしなかったのだが、切った枝を上から落とす関係もあってシェイラには発掘現場の方へ戻っておいて貰った。
今の時期だと眠いのかいまいち樹木霊の対応がトロイし、やはり魔術師になるぐらいの魔力がないと樹木霊との話し合いは難しいらしい。シェイラが色々と質問してもあまり聞き取って貰えなかったので、樹木霊との話し合いはまた夏にでもという事になったのだ。
トロくても森の中の他の巨木との意思疎通は出来るのか、他の巨木の剪定まで頼まれてしまったが。
「今まで数百年かそれ以上の間、剪定をやってくれる人間が居なくても大丈夫だったんだから、今更やらなくても問題ないのでは?」
別の巨木の剪定までやれと言われて、思わず樹木霊に尋ねる。
『一応、とっても問題がある枝は樹液の流れを止めて枯れるようにして、嵐の時とかに折れて落ちるようにするんだけど、時間が掛るのよね~。
だからよっぽど問題がある枝以外はそのまま放置してあるから、ちょっと全体的に重くて。
折角協力して欲しいって頼んでくる人間がいるんだから、今の間にすっきりしたいでしょ〜?』
樹木霊がにっこり笑いながら教えてくれた。
意外と樹木霊もちゃっかりしているらしい。
「まあ、重いんじゃ可哀そうだし、実験するのに何本かの木から接ぎ木する方が土地への定着率の違いとかがあった時に生存率がいいかもだし。
今日は精一杯協力しようよ」
シャルロがおっとりと言う。
俺は別に獣除けなんぞ要らないんだけどね。
まあ、役に立つ技術が手に入ったら10年後だろうと歴史学会に金が入るとしたらシェイラが喜ぶかもだし、手伝うけどさ。
しっかし。
樹木霊が居るぐらい大きな巨木だと、自分で要らない枝を枯らすなんてことも出来るんだなぁ。
ちょっと驚きだ。
凄く邪魔だったら、それこそ通りがかりの風や水の精霊に枝をへし折ってくれと頼むのもありなのかもな。
ついでに枝を切りながら魔力吸収補助と獣除けの紋様(なんだよな、多分?)をシャルロに書き写してもらった。
大きな図を描くのってシャルロの方が得意なんだよな。
俺はそれを見ていて、表面が削れたり傷で薄れた部分を心眼で確認して修正する必要があるところを指摘している。
「この、薄れたところを彫りなおしたら『擽ったい』って言うのも治るかな?」
シャルロが3度目に俺が修正を指摘した時に言い出した。
確かに?
というか。
「この紋様って彫るだけでも効果があるのか?
彫ったところに何か液体みたいのを塗ってあるみたいだが、何を塗ったのか分かるか?」
樹木霊に尋ねる。
『さぁ?』
樹木霊が首を傾げながら応じた。
『ああ、それは魔石を砕いたのを樹液と一緒に熱して溶かしたヤツだと思うぞ』
アルフォンスが口を挟んだ。
おお~。
流石、妖精界で木たちに断られた妖精の王だ。
仲が良ければやってくれるようなことを言っていたから、技術としては確立しているのか。
「5年程度でこれだけ大きな紋様を彫って塗りこめられるほど樹液が出るようになるのかな?」
木が育て巨木になる間に紋様そのものも引き延ばされてきたんだろうが、最初からそれなりのサイズの紋様にはなると思うが。
樹液を取ろうとしてやり過ぎて枯れちまったら意味がない。
木の樹液ってどのくらい抜いてもいいんだ?
木の種類によっては毎年抜いて煮詰めて甘いシロップにするという話も聞いたことがあるが、あれってどのくらい抜いているんだろう?
『ああ、そういえばあれって子分け分だったら親の木からの樹液も使えるし、使うと意思疎通がしやすくなるのよ~。
だから5年後にやる時に、私からも少し樹液をとってもいいわ』
樹木霊がそう言えば!という顔をして付け足した。
そうか。
そうなると、樹液はそれなりに足りそうだが。
どの枝がどの木から貰った奴か、しっかり印をつけておかないとだな。
……間違えたらどうなるんだろ?
木にも血液型みたいのがあって輸血不適合のような症状が出るんですかね?
幹の外側に彫って塗るだけだから大丈夫なのだろうか……




