1334 星暦558年 桃の月 26日 久しぶりの手伝い(13)
「こんにちは~。
ちょっと君の本体の方に刻まれている紋様について教えて欲しいことと、お願い事があるんだけど、良いかな?」
ヴァルージャに着き、森の中へ入って行って今回俺が新しく紋様を見つけた巨木の中で一番街の入り口から近いやつの所へ直行して、シャルロが木に声を掛けた。
魔力を込めているし、横に蒼流とアルフォンスが浮いているので、樹木霊も直ぐに対応するかな?と見ていたら、暫くしてからふよんと半透明な樹木霊の姿が木から現れた。
『あら~?
お久しぶり?』
樹木霊がアルフォンスの方を視て挨拶した。
どうやら蒼流とは個人的(個木的?)な知り合いではないらしい。
『久しぶりだな。
調子はどうだ?』
アルフォンスもあっさりと応じた。
『まあまあ、かしら?
最近また涼しくなってきたから眠気が強いけど~』
樹木霊がのんびりと答える。
そろそろ年の終わりで俺としてはもう『涼しい』ではなく『寒い』のだが、この巨木にとっては涼しい程度なんだ?
だとしたら王都やオレファーニ侯爵領あたりでも十分元気に育ちそうだな。
王都周辺に熊が出るとは聞かないから、あまり王都に動物避けの紋様は必要ない気もするが。
マジでこの紋様を活用することになったら、どこら辺が北限なのか調べた方が良いんだろうなぁ。
10年(樹木霊と交渉する時点までと考えると5年)も掛けないと結果が分からないとなると中々難しい気もするが、大きな熊って北の方に多い気もするからなぁ。
まあ、まずはオレファーニ侯爵領でテストしてから誰か興味があるなら他も続くって感じかな?
『こちらは私が召喚に応じる契約をしたシャルロと、彼に加護を与えている蒼流だ。
そっちはシャルロの友人のウィルと彼に加護を与えている清早と、彼の親しい友人のシェイラ。
シェイラはこの森の仕組みや以前住んでいた連中のことを色々と調べている』
アルフォンスが俺たちのことを紹介してくれた。
樹木霊って名前がないのかな?
俺たちの紹介しかしてないが。
『あら、こんにちは~。
この森の仕組みを調べたいなんて、変わっているわねぇ』
樹木霊がおっとりと応じた。
『人間は色々変なことに興味があるからな。
ちなみに、彼らは君や他の巨木から枝を貰って他の地域で植えて、ここと同じように大きくなるために魔力を提供する代わりに育ってから獣除けの効果を出す結界の補助をして貰いたいみたいなんだが、可能かな?』
アルフォンスがあっさり樹木霊の感想を流してそのままこちらの希望に関して話し始めた。
意外とアルフォンスってせっかちなのか?
最初に挨拶の感じからだと、もっと無駄話を延々とするかと思ったが。
まあ、単なる妖精ではなく妖精の王だから忙しいのかも。
『他の場所で?
最近剪定をして貰っていないから、ちょっと日当たりが悪かったり風通しに邪魔な枝を切って持っていく分には良いんじゃないかしら~?
持って行った先でちゃんと根付くかどうかはやってみなきゃ分からないけど』
樹木霊が鷹揚に答える。
フォラスタ文明の連中が居なくなってから剪定がされていないんじゃないかとは思うが、それが『最近』なのか??
というか、これだけ巨木になると剪定も中々難しいと思うが、昔はやっていたのかね?
浮遊の術を使う魔術師じゃないとこれだけ大きな木の選定は難しい気がするが。
まあ、考えてみたら王宮とか王都の広場にも何本かは見栄えのいい巨木が生えている。
あれも形を整えている気がするから、巨木専門の選定をする庭師か魔術師が居るのかも知れない。
流石に歴史学会にそんな専門家を雇う予算はないだろうが、今回だけは俺とシャルロで剪定を手伝ってもいい。
切りすぎちゃって枯れたりしないと、本気で祈っておかないとだが。
「そう?
ありがとう。
ちなみに君の本体に刻んである紋様をそのまま再現すればいいのかな?」
シャルロがにっこりと微笑みかけながら尋ねる。
そういえば、巨木が育つ間に紋様の位置がずれたり線が切れたりしている可能性はそれなりにあるよな。
一応今でも術として成立しているようだが。
『う~ん、ちょっと流れが微妙で擽ったいところもあるかも?』
樹木霊が少し首を傾げながら言った。
……紋様がちょっと歪んだ場合の問題って樹木霊にとっては『擽ったい』感覚なんだ?
どうやったら正しくなるのか、意思疎通が出来るかかなり心配だな。
上手くいくんかね?
少なくとも、樹木霊がしっかり起きている初夏あたりに実験をする方が良いかも。
正しい紋様の形を解明できるか、ちょっと不安ですね〜




